電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第30回

14年のAPは64bit競争へ(後編)


年末には64bit化した中国スマホが市場を席巻!

2014/1/31

 2014年のスマホ業界は、プロセッサー(アプリケーションプロセッサー=AP)の64bit化競争が焦点の1つとなる。13年秋にいち早く64bitプロセッサーを市場に投入したアップルに続き、14年後半にクアルコムが64bitプロセッサーを市場に投入する。クアルコムは150ドルのローミドルレンジのスマホにも搭載できる価格帯で64bitプロセッサー「Snapdragon 410」を販売しようとしている。これにより、14年末には中国スマホメーカーが高性能なプロセッサーを搭載した低価格スマホを市場に大量供給し始めることになるだろう。

サムスンも64bit競争に参戦!

 サムスン電子も14年上半期に発売予定のスマホ「Galaxy S5」に、アンドロイド版スマホとしては初めて64bitプロセッサーを搭載しようと計画している。韓国メディアによると、現在サムスンが開発している64bitプロセッサーの「Exynos 6」はクロック速度が2GHz台の後半、低消費電力のコアと高性能のコア各4個からなる「big.LITTELE」技術を採用したオクタコア(8コア搭載)になるようだ。

FHDのAMOLEDパネル(5型)搭載の「Galaxy S4」
FHDのAMOLEDパネル(5型)搭載の
「Galaxy S4」
 サムスン電子は64bitプロセッサーの開発でアップルより半年遅れたが、クアルコムよりは半年早く64bitプロセッサーを市場に投入しようと必死になっている。その他のアンドロイド競合メーカーと性能面での差別化を鮮明に打ち出し、ギャラクシーシリーズの業界トップの座を守り抜こうとしている。

64bit化がDRAM増量の引き金に

 64bit化により一度に演算処理できる情報量が増えると、スマホのOSやアプリの作業領域が増える。これにあわせて、利用できるメモリー空間も大きくする必要がある。32bitプロセッサーが扱えるメモリー空間は、論理上は最大4GB(ギガバイト)、64bitならば最大16EB(エクサバイト)になる。エクサバイトというのは、「キロ」の次が「メガ」、そして「テラ」、「ペタ」、さらにその次の単位だ。市販されているハードディスクで記憶容量が大きいものでもテラクラスだから、エクサというのは桁違いな規模だということがわかる。

新技術で牽引するアップルと普及パワーで押し上げるアンドロイド
新技術で牽引するアップルと
普及パワーで押し上げるアンドロイド
 現在のスマホに搭載されているDRAMの大きさは、iPhone5(32bitの「A6」プロセッサー搭載)とiPhone5S(64bitの「A7」プロセッサー搭載)とも1GBで足りている。しかし、14年は64bit時代への移行が加速するため、秋発売予定のiPhone6は2GBのDRAMを搭載するのではないだろうか。その一方、アンドロイドOSのスマホはすでに上位機種が2GBのDRAMを搭載している。iPhoneのOSはこれまでシングルタスクベースを基本としていたが、アンドロイドOSはマルチタスクベースで動作するため、DRAMをたくさん積んでおく必要があった。

マルチタスク処理に64bit化が有効

 シングルタスクでは、画面上で使うスマホの機能やアプリを切り替えるごとに動作を停止させたり、終了させたりしてRAMの使用量を抑えることができる。その一方、マルチタスクでは画面を切り替えてもアプリを停止(または終了)させずにバックグランドで動かし続け、複数の作業を同時に処理することで利便性が高くなる。しかし、その反面でDRAMをたくさん積む必要がある。
 iPhoneのiOSはバージョン7からマルチタスクに移行したので、64bitに対応した今後のiPhoneは2GBのDRAM搭載、アンドロイドスマホなら4GBのDRAM搭載にステップアップすることになるだろう。

クアルコム、14年後半に64bitチップを投入

 クアルコムの64bitプロセッサー「Snapdragon 410」は、ARMのプロセッサーコア「Cortex-A53」を4個積み、「Adreno 306」GPUを採用、28nmのプロセスでTSMCに生産を委託するとみられる。

 チップ性能の向上により、最高クラスの1300万画素のカメラに対応し、1080pのHDビデオ動画を再生することができるようになる。さらには、4G-LTE通信が可能になり、13年のクリスマス商戦での最上位機種の性能と遜色なくなる。先端スペックの機能が翌年には中低価格帯のスマホでも実現してしまい、ハイエンドと喜ばれた技術がたった1年で陳腐化してしまう。デジタル機器の製造は後発者に有利だということを改めて実感する。

サムスンは2015年にUHD(3840×2160)対応スマホの発売を計画
サムスンは2015年にUHD(3840×2160)対応
スマホの発売を計画
 最上位機種のスマホのディスプレーは今後、14年のクリスマス商戦ではHDの上をいくFHD、15年はUHD(4K)解像度でなければ、中低価格帯のスマホと差別化できなくなってしまうだろう。

新興国市場が勝敗のカギを握る

 「Snapdragon 410」の性能面で気になるのが、LTEの「ワールドモード」対応という点だ。携帯電話の周波数帯域(バンド)は各国で異なるが、「Snapdragon 410」はどの周波数帯域にも対応できるようになっている。つまり、販売国ごとにスマホを作り分ける必要がないような配慮がなされているのだ。

 今後のスマホ市場は、新規需要の宝庫である新興国市場の成長にかかっている。「Snapdragon 410」は中国や新興国で売りやすいように、新興国でよく見かけるデュアルSIMやトリプルSIM(携帯電話の電話番号を特定するための固有のID番号が記録されたSIMカードを、1台のスマホで複数枚使えるようにしたもの)にも対応している。さらには中国独自のGPS衛星システム「北斗」にも対応しているという。最先端市場だけを追いかけるのではなく、すかさずその下の市場セグメントにも技術をコンバートしていくフットワークがなければ、グローバル市場では勝ち残れないということだろう。

新興国でもいずれフィーチャーフォンは廃れていくだろう
新興国でもいずれフィーチャーフォンは
廃れていくだろう
 64bitプロセッサーの供給は14年後半から本格化する。これにより、ローミドルレンジのスマホが高機能化し、普通の人が購入するスマホは100ドルもあれば足りてしまうようになるだろう。スマホ用プロセッサーの低価格化と高性能化は、パソコンのみならずテレビやゲーム機の業界にまで波及していく。デジタル技術時代は後発スマホメーカーにどんどん有利に働くのだから、新興スマホメーカーがスマートテレビやゲーム機までも供給するようになるだろう。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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