電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第29回

14年のAPは64bit競争へ(前編)


先行するアップルをクアルコムが価破破壊で追いかける!

2014/1/24

Qualcommはスマホ用APのトップシェアを握る
Qualcommはスマホ用APのトップシェアを握る
 クアルコムは2013年12月9日、64bitプロセッサー(アプリケーションプロセッサー=AP)の「Snapdragon 410」を発表した。クアルコムが狙っているのは4G-LTE通信対応のスマートフォン(スマホ)、特に150米ドル(日本円で約1.5万円、中国元で910元)以下のスマホだ。ちょうど中国スマホメーカーが得意とするボリュームゾーンと一致する。クアルコムは14年前半から「Snapdragon 410」のサンプル出荷を開始し、スマホの秋冬モデルから高性能な64bitプロセッサーを搭載したアンドロイドスマホが世に出回る。これにより、性能上はローエンドスマホに分類されても、かなりハイエンドな処理ができるスマホが増え、ディスプレーやカメラの高画素化も加速するだろう。

64bitプロセッサーで先行したアップル

「iPhone5S」は世界初の指紋認証機能も注目された
「iPhone5S」は世界初の指紋認証機能も
注目された
 64bitのAPを最初に世に送り出したのはアップルだ。「iPhone5S」(13年9月20日発売)に搭載された「A7」プロセッサーが、スマホ用APとして初めて64bit技術を採用した。この時、アップルのフィル・シラー上級副社長(マーケティング担当)は「最も先進的な考えを持つスマホを作った」と、iPhoneの性能向上について誇らしげに語った。64bit対応の「A7」プロセッサーと「iOS7」の組み合わせに加え、A7プロセッサー自体のクロック速度の高速化、内蔵メモリー(LPDDR3)やグラフィックスプロセッサー(クアッドコアPowerVR)の高速化により、「A7」プロセッサーは格段の進化を遂げた。

64bitになると、何がどう進化するのか?

 そもそも、1bitというのは「0」と「1」の1桁2種の情報しか示せない。2bitになると「00」「01」「10」「11」と2桁4種、4bitは4桁16種と増えていく。そして、32bitでは1024種、64bitなら4096種と、一度に扱える情報量が飛躍的に増える。一度に演算処理できるデータサイズが大きくなるということは、逆に言えば、64bitのプロセッサーなら1回でできる演算処理が、32bitプロセッサーなら2回かかるということだ。だから、論理上は64bitプロセッサー「A7」搭載のiPhone5Sは、32bitプロセッサー「A6」搭載のiPhone5よりも倍の処理能力が実現できる。

 ただ、実際にはiPhoneのほとんどのアプリは32bitベースで作られているため、64bitプロセッサーはまだその能力を発揮する機会が少ない。そのため、「iPhone5SのA7は宝の持ち腐れだ」という人も世の中にはいる。しかし、これから64bit対応アプリが増えてくるので、アップルの64bitプロセッサーの市場投入は一種の先行投資ともいえる。

 ノートパソコンの場合、64bitのCPUが初めて出荷されたのが03年、64bitのOSの出荷が始まったのは05年のことだ。しかし、今でも32bitと64bitのノートパソコンが併存している。パソコンはソフトウエアや周辺機器が高価だから、32bit対応の製品をできるだけ長く使いたいというユーザーが多く、「えいやっ!」と掛け声一発で64bit製品に切り替えられないなどといった事情がある。しかし、スマホは端末もアプリも安価、もしくは無料なものが多いから、パソコンよりも64bitへの世代交代は順調に進むだろう。

※iPhoneのプロセッサー性能の向上
iPhoneのプロセッサー性能の向上

64bit化で一世を風靡

 32bitから64bitに移行してハード機器の劇的な進化を遂げた消費者向けセット製品といえば、任天堂の家庭用ゲーム機「Nintendo 64」を思い出す。「Nintendo 64」が売り出されたのは1996年、今から18年も前のことだからよく覚えていない人も多いかもしれない。製品名にまで「64」というネーミングが使われたくらいだから、当時のゲーム機に64bitプロセッサーが登場したインパクトは大きかった。

 「Nintendo 64」はスーパーファミコンの次世代機種として開発され、家庭でも本格的な3Dゲームが遊べるようになった。スーパーファミコンと比べて基本性能は35倍に引き上げられ、3D表示のためのポリゴン生成や環境マッピング、トライリニアなどのテクスチャーマッピング処理に対応した。その3D表示の高性能ぶりを活かした「ゼルダの伝説 時のオカリナ」や4画面同時出力による4人対戦レース「マリオカート64」、桁違いの演算処理能力を活かした「最強羽生将棋」などの名作ゲームを世に送り出した。

 14年末からローエンドスマホでも64bit化が普及すると、スマホのゲームもどんどん高性能化するので、ゲーム機器メーカーにとってスマホは今以上に脅威的な存在になりかねない。

スマホを差し込むだけのロジクールのバッテリー付きゲーミングコントローラー「G550パワーシェル」
スマホを差し込むだけのロジクールのバッテリー付き
ゲーミングコントローラー「G550パワーシェル」

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善
(次回に続く)
サイト内検索