電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第25回

2014年の半導体市場を占う~脱スマホを模索する時期に


好調メモリーは年明け変調、ファンドリーはTSMC独走か

2013/12/20

 12月のセミコン・ジャパンを終えると、「今年ももう終わりだな」と毎年感じてしまう。今年のセミコン・ジャパンは個人的な感想を言えば、「ものすごく寂しい」の一言に尽きる。来場者数は目に見えて減少しており、昔は通路を歩くのにも一苦労という時もあったが、ここ数年はそうした場面になかなか出くわさない。まさに、国内半導体産業の弱体化を象徴するかのようだが、一方で世界に目を向けると、半導体産業はまだまだ成長産業であることに変わりはない。今回は年末のタイミングということもあり、2014年の半導体市場の動向を展望する。

メモリー需給逼迫が押し上げ

 調査会社の米ガートナーが13年12月に発表した最新レポートによると、13年の世界半導体市場は前年比5.2%増の3154億ドルと11年に記録した3078億ドルを上回り、過去最高の市場規模になる見通し。これはひとえに、メモリーメーカーの業績回復によるところが大きい。しかし、13年のDRAMのビット成長率は20~30%程度であり、必ずしも需要そのものが拡大したわけではなく、台湾メモリーメーカーの撤退やSKハイニックス無錫工場の火災事故の影響に伴う供給量の減少による価格の上昇が大きな要因として考えられている。メーカー別売り上げランキングを見ても、SKハイニックスやマイクロンテクノロジーが順位を上げている。


 また、ガートナーによれば、メモリー以外の製品の成長率が前年比0.4%増にとどまっていることもあわせて言及している。これは昨今のPCやハイエンドスマートフォン(スマホ)の成長が鈍化し、低価格のミドル/ローエンドスマホが大きく台頭している現在の市場環境を如実に表しているといえる。特にプロセッサーなどのCPU分野は、インテルの1個150ドル以上もするMPUから、1個10~15ドルのスマホ用アプリケーションプロセッサーに移行しており、金額ベースでは頭打ちの状況となっている。

14年半導体市場は5.4%増

 比較的高い成長率を示した13年に対し、14年の見通しはどうか。今のところ、ガートナーでは13年の成長率を上回る前年比5.4%増の3324億ドルと予測している。最終製品では、やはりスマホやタブレットなどモバイル端末の成長に頼るところが大きく、パソコンは縮小傾向に歯止めがかからない状況が続くであろう。Windows XPのサポート終了に伴う買い替え需要は起こるものの、あくまでも法人向けに限られるとの見方が強く、パソコン市場全体を押し上げるような起爆剤にはなり得ない。

 主役を張るスマホ市場の14年出荷台数見通しは今のところ、前年比25%増の11億6500万台となる見込みだ(半導体産業新聞調べ)。ただし、AppleのiPhoneやサムスン電子のGalaxy S/Noteシリーズのようなプレミア価格帯のハイエンドスマホの成長率は鈍化傾向にあり、引き続き、低価格帯のミドル/ローエンドのスマホ市場のウエートが高まっていく見通しだ。14年出荷台数に対し、400ドル以上のハイエンドスマホの比率は約30%、200~400ドルのハイ-ミドルが21%、100~200ドルのミドル-ローが26%、100ドル以下のローエンドが23%と、200ドル以下が全体の5割弱を占めるかたちとなっている。

 タブレットはスマホ以上に低価格化が進行している。3GやLTEなど無線通信機能がない(WiFi機能のみ)モデルが主流のため、スマホに比べて参入障壁が低く、中国をはじめとする新興メーカーが同市場に雪崩を打って参入しており、iPadのようなプレミアモデルの存在感は急速に薄れている。



メモリーは供給過剰の懸念浮上

 さらに、13年夏から好調を維持していたメモリーも年明け以降は供給過剰の懸念が浮上しており、13年に記録した高成長を続けることは難しい。DRAMの場合、SKハイニックスの無錫工場の火災事故が皮肉にも13年後半の需給環境を引き締めたということもあり、高値が継続したが、12月末からウエハー投入ベースでフルキャパシティーに回復する見通しであることから、需給環境の軟化が危惧されている。無錫工場のDRAM生産能力は世界全体の1割強を占めており、その影響はことのほか大きい。

サムスンの中国・西安工場も14年3月からウエハー出荷を一部開始(13年6月撮影)
サムスンの中国・西安工場も14年3月から
ウエハー出荷を一部開始(13年6月撮影)
 また、サムスン電子も韓国の第16ラインでDRAMの増産投資(月産25K分)を行っているほか、最新の第17ラインに関しても、当初のロジックラインの計画を見直し、モバイルDRAMの生産ラインを整備するもようだ。14年のビット成長率は28%前後と見られ、決して高い水準を維持しているわけではない。こうしたことから年明け早々、下落局面に転ずる可能性もありそうだ。

 NANDフラッシュはDRAM以上に下落局面が早そうだ。年末商戦の部品取り込み需要がピークを過ぎ、SDカードやモバイル端末用eMMC、コンシューマー用SSD向けの価格が下落している。東芝も上半期(4~9月期)決算説明会で、下半期は価格が下落するとの見方を示している。さらに、東芝は四日市工場第5製造棟(Y5)のフェーズ2の着工を行っているほか、サムスンの中国・西安工場も年明け3月をめどにウエハーのアウトプットが始まると見られ、健全な市場環境が維持できるかどうか不透明感が増している。

20nmはTSMC独占受注

 ロジック分野に目を移せば、やはりロジックファンドリー分野が主戦場になるだろう。先ごろ米インテルがファンドリー事業をこれまでのFPGAなどの限定的な市場から、モバイル用プロセッサーなどあらゆる分野に門戸を開くと宣言するなど、インテル/サムスン/TSMCの「半導体ビッグ3」がいずれもファンドリー分野でしのぎを削ることになる。

 ただし、主戦を担うモバイル用プロセッサーに関しては、14年は実質的に「TSMCの圧勝」という見方ができる。14年初頭からTSMCは最先端の20nm世代の量産を開始する計画であり、アップルやクアルコムの受注を独占する見通しだ。サムスンやGFはFinFETを使った14nm世代にリソースを集中投下している関係上、20nm世代は実質的にスキップしており、20nm世代のみで限定すれば、TSMCのシェアはほぼ100%という言い方ができる。次世代の16/14nmではIntelも巻き込んで勢力図に大きな変化が起きる可能性もあるが、少なくとも14~15年に関していえば、TSMCの独走をさらに許す格好となりそうだ。

携帯電話でもう一度イノベーションを

 こうしたモバイル端末の低価格化やメモリーの需給軟化を勘案すると、先述の「5.4%増」という14年成長率の確度は決して高いとはいえない状況だ。スマホも以前ほどの勢いはなく、真剣に「脱スマホ」を模索していく時期に差し掛かっている。しかし、有力なアプリケーションが見えているわけでもなく、スマートウォッチやスマートグラスなどのウェアラブルデバイスもまだまだ発展途上という段階で、仮に市場が確立されたとしても、スマホ並みの市場規模を形成するわけでもない。個人的にはフィーチャーフォンからスマホに移行したように、携帯電話分野でもう一度イノベーションが起こることを期待している。そうすれば、現在の低価格化に歯止めをかけることができ、半導体市場のさらなる拡大に寄与することもできるだろう。

半導体産業新聞 編集部 記者 稲葉雅巳

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