電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第24回

エレクトロニクスとMEMSの医療応用急ピッチ


ワイヤレスの眼圧センサー、血管内MRIプローブなどに注目

2013/12/13

医療機器の展示会はどこへ行っても人だかりの山
医療機器の展示会は
どこへ行っても人だかりの山
 半導体プロセス技術を活用するMEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)は、分かりやすく言えば、きわめて小さな機械システムのことだ。半導体の古い製造ラインを活用できるため、多くの半導体メーカーが注目し、開発に力を注いでいる。とりわけ注目されるのは医療分野向けのMEMSである。

 特に関心が高まっているのはバイオMEMSだ。体の中のDNAやたんぱく質の細胞を取り出して分析したり、空気中や土の中の有害物質を検出することもできる。シリコンや硝子などの基板を用いたマイクロチップの中に半導体製造技術を駆使して、マイクロサイズのポンプ、バルブ、注入器、反応器、分離器、分析器などの化学プラントを作り込んだ構造となっている。

 このような作業は大がかりな装置が必要であったが、最近のプロセス技術の進歩で効率化や低コスト化が可能になった。この技術を利用すれば、健康状態を毎日在宅で測定できるヘルスケアチップや副作用のない投薬や治療を行うことも実現できるため、バイオ・医療産業に一大革命を起こすことが可能なのだ。

 MEMSの製品化は1960年代のシリコン圧力センサーに始まる。これはトヨタ中研やハネウェルが実施したもの。70年代にはTIのデジタルミラーデバイス、IBMのプリンターヘッドなどが登場する。80年代にMEMSという名称が固まり、エンジン用圧力センサー、血圧センサー、さらにはHPとキヤノンによるインクジェットヘッドが登場する。

 東北大学大学院の芳賀洋一教授は、将来的に医療向けMEMSはカスタムメイドではあるが、量産に移行できる可能性が高いとして次のようにコメントする。

 「体内に埋め込むMEMSデバイスは、超マイクロでなければならない。感染症の問題があるので、他の人に埋め込んだものをある人に埋め込むことはできない。つまりは、ディスポーザブル(使い捨て)なのだ。それゆえに、量産品となる可能性がある」

 現状にあって一般的な内視鏡、カプセル内視鏡などに多くのMEMS技術が使われる。血管内の超音波内視鏡も出てきており、実にそこではICを4つも使っているのだ。もちろん使い捨てである。さらには、クリニックや野外の環境においては使い捨て内視鏡も登場してきた。タワージャズなどはこれらの量産を手がけていくとも聞いている。

 脊髄の中に入れるフレキシブル基板を用いたカテーテル用MEMSもある。これらは円筒面でのプロセスが重要であり、湿度センサーなどが活躍する。血管内MRIプローブという驚きの技術もあり、カスタムに設計開発した集積回路を作る必要があり、神戸医療産業都市ではこの実験が本格化してくるといわれている。このプローブの中にはコンデンサーも2つ入っており、インピーダンスのマッチング回路も必要なのだ。

 人口内耳、人口網膜の研究も進んでおり、音や光の信号を電気信号に変えていく研究も加速している。心不全の人に救いとなる血管内のステントもかなり改良されており、圧力センサーが必要となっている。ちなみに、スーパースターであった石原裕次郎は体内埋め込み型圧力センサーを用いていたが、残念ながら帰らぬ人となった。

 「最近のMEMSデバイスの開発はさらに加速している。電源に太陽電池を使い、緑内障に対する眼圧内センサーも出てきた。コンタクトレンズ型であり、ワイヤレスで眼圧を測ってしまうセンサーが世界すべてで認可された。いよいよ凄まじい領域に入ってきたのだ。ただMEMSの世界はSTマイクロが数の上では一人勝ちであり、日本勢の奮起が望まれるところだ」(芳賀教授)

 エレクトロニクスとMEMSの医療応用は急ピッチで進んでおり、2020年段階では4000億円以上の市場も見込まれる有望分野ではあるが、残念ながら日本のMEMSメーカーで儲かっているところはほとんどない、という現状を何とかしなければならないだろう。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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