電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第22回

人工衛星など宇宙関連、新たな「フロンティア」の予感


日本の新たなインフラ輸出の目玉

2013/11/29

 「宇宙、それは最後のフロンティア」。1960年代に放送され、いまだに日本をはじめ全世界で根強い人気を有する米国のSFテレビドラマ「スタートレック(宇宙大作戦)」の冒頭のナレーションの一説だが、この言葉は今、そのまま日本のエレクトロニクスおよびデバイス業界にも当てはまりつつある。もっとも「最後の」というところだけは否定したいが……。
 人工衛星など宇宙関連機器が、日本の電子機器産業の新たな牽引車として急浮上している。アジアなどの新興国を中心に、小型人工衛星の打ち上げを狙う動きが活発化しており、人工衛星を手がける日本のエレクトロニクスメーカーの期待がこれまでになく高まっている。人工衛星開発に携わるメーカーによると、実際、アジアからの引き合いは増加傾向にあるという。

「デバイスでは強いがシステムでは弱い」従来の構図

 人工衛星の世界市場は、商用通信衛星で200億ドル強、観測衛星で20億ドル強と言われているが、これまで日本の宇宙関連産業は世界市場で強みをなかなか発揮できていなかった。これは、民需の比率が大きい海外市場と異なり、日本の人工衛星開発が官需に大きく依存してきたうえ、研究開発目的が中心であったため、民需に対応したビジネスモデルの構築が立ち遅れてきたことが大きな原因と言われている。

 また、一時期期待されていたロケット打ち上げビジネスも、少量生産などでなかなか事業性が見い出せないことから、撤退が相次いでいる。90年代後半には売上高3500億円超、従業員数1万人であった日本の宇宙機器産業は、現在売上高約2600億円、従業員数7000人程度まで落ち込んでいるというショッキングな調査結果も報告されている。

 その一方、人工衛星に欠かせないコンポーネントでは、日本勢が強みを発揮している。独立行政法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の資料によると、地球センサー(衛星自身と地球の相対位置を測定するための地表面を検知する赤外線センサー)ではNECなどの日本勢が過半数のシェアを有しているという。また、衛星用太陽電池やリチウムイオン電池も、三菱電機が40%を超える世界トップシェアを確保している。つまり、これまでの日本の宇宙関連産業は、「デバイスでは強いがシステムでは弱い」という構図だったといえる。

三菱電機の人工衛星用リチウムイオンバッテリー
三菱電機の人工衛星用リチウムイオンバッテリー

政府も後押し、潮目が変化

 しかし、潮目は次第に変わってきている。日本政府は2008年に「宇宙基本法」を制定し、宇宙関連産業の育成と海外輸出に本腰を入れ始めた。宇宙関連技術を新幹線や発電所、上下水道施設などと並ぶ日本の社会インフラ輸出の重要アイテムとみなし、注力度を高め始めている。その成果として、トルコから通信衛星2基を受注したほか、ベトナムとの間でも円借款を活用した衛星輸出に成功している。

 政府はさらに、13年度からの5年間を対象に「準天頂衛星システムの開発、整備」「リモートセンシング衛星の利用拡大」「通信・放送衛星の競争力強化」「輸送システムの能力強化」などを強く推し進めることを謳った、新たな「宇宙基本計画」を今年1月に発表している。

 国民の宇宙への関心も高まっている。様々な困難を乗り越えて小惑星「イトカワ」のサンプルを持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ」や、日本人宇宙飛行士の活躍ぶりなどが、こうした宇宙への注目度向上に貢献している。

 このような「追い風」に乗るべく、宇宙関連機器を開発する国内エレクトロニクスメーカーは技術の強化やアピールに余念がない。NEC(日本電気)は、今後海外からの受注が期待される新コンセプトの小型衛星を開発しており、10月に開催された「CEATEC JAPAN 2013」でも紹介していた。同社の小型衛星は、電源系、姿勢制御系、通信系など、どんな衛星にも必須の基本機能を集積した「標準バス」に、衛星に与えられたミッションごとに必要となるミッションシステム(光学センサーや電波センサーなど)を接続するだけというシンプルな構成。標準バスさえあれば、ミッションごとに新たな衛星を一から作る必要がないため、衛星の開発期間短縮や開発費低減に貢献するという。

NECの小型衛星のコンセプト。後部の箱が必須機能を集積した「標準バス」
NECの小型衛星のコンセプト。後部の箱が必須機能を集積した「標準バス」

 また、同じCEATECでは、三菱電機も自社技術を猛アピールしている。出展していたのは、同社が製造した準天頂衛星システム「みちびき」初号機の模型や人工衛星に活用されるリチウムイオン電池など。「みちびき」は2010年にJAXAにより打ち上げられた準天頂衛星であり、実証成功を受けて政府の内閣府宇宙戦略室が準天頂衛星システムを4機に増やす方針を打ち出している。一方、人工衛星用リチウムイオン電池は、従来のニッケル水素電池に比べ1/2の重量、1/3の容積を実現する。また、充電制御回路との組み合わせにより、静止軌道衛星において15年以上の長寿命を実現できるという。

宇宙太陽光発電システムにも注目

 前出の政府による「宇宙基本計画」では、「宇宙太陽光発電システム(SSPS)」への取り組みも盛り込まれている。これも、日本のデバイス技術の強みを発揮できる新分野として注目すべきであろう。SSPSとは、宇宙空間に大規模な太陽光発電を配置し、マイクロ波またはレーザーにより地上に送電して電力として利用するシステム。100万kWを発電するために、宇宙に2km四方の発電設備と送電設備、地上に直径3kmの受電設備が必要とされている。日本では04年度からJAXAと経済産業省による研究が行われており、JAXAはレーザーによる電力伝送実験、経産省は宇宙での発電を想定した薄型高効率送電用半導体の開発を進めている。

 実は、日本はこの分野で世界トップクラスだという。欧米でも要素技術の研究は進められているが、宇宙での利用を想定した実験を行っているのは日本だけだ。エネルギー供給システムの未来に変革をもたらす可能性のある「夢の技術」として、今後の研究の進展が期待される。

半導体産業新聞 編集部 記者 甕秀樹

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