電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第19回

製造装置メーカー、医療機器への参入増加


TELとAMATの経営統合に思うこと

2013/11/8

思わず目を疑った経営統合

 東京エレクトロン(TEL)とアプライド マテリアルズ(AMAT)の経営統合には、本当にびっくりした。今になってよく考えてみれば、決してありえない話ではなかったのかもしれないが、記者会見の案内を見た際には思わず目を疑った。この業界にいて両社の存在感をじかに感じてきただけに、驚きもことのほか大きかった。統合の行方は今後を見守るほかないが、現時点で自分なりに整理すると、450mmウエハーの製造プラットフォームを開発して下さいとデバイスメーカーから懇願され続けてきた結果、「だったら開発費を拠出して下さい」と言ったのが露光装置の雄ASML、「では装置業界で何とか努力してみましょう」と回答したのがTELとAMATの統合ではないかと考えている。

 半導体産業の歴史を振り返ると、近年は特に装置メーカーがデバイスの微細化に大きな役割を果たすようになっている。「デバイスメーカーが開発したプロセスが装置に搭載され、これがもとで日本勢が海外勢に容易にキャッチアップされた」という論調はあちこちで見聞きした。それはさておき、かつてはデバイスメーカーが開発していた微細化プロセスを装置メーカーが手がける、つまり装置メーカーがデバイスメーカーの研究開発を肩代わりしてきたというのは事実だろう。

研究開発費は増加の一途

 そこで、主要デバイス&装置メーカーの売上高研究開発比率を調べてみた。ファンドリー最大手のTSMCは、製造に特化した企業であるうえ、顧客となるデバイスメーカーとの共同開発が多いこともあってか、あれだけの生産規模を誇っていても、売上高研究開発比率が10%を超えたことがない。一方で、ムーアの法則の体現者であるIntelは1999年以降、売上高研究開発比率が10%を超えるのが常態化している。直近5年間(2008~2012年)の平均は16%を超えており、2012年は19%まで高まった。


 装置メーカーの売上高研究開発比率はIntelに近い、いやそれ以上だ。洗浄装置でトップシェアを誇る大日本スクリーン製造はTSMC並みだが、TELは過去18年の平均値が9%、直近5年間(2008~2012年)の平均は13%に迫っている。海外メーカーはさらに著しい。AMATは過去18年の平均値が14%、エッチング装置トップのLam Researchにいたっては16.5%ときわめて高い。両社ともに比率が20%を上回っていた年もあり、比率が1桁%台だった年はない。

 TELとAMATについて、もう少し掘り下げてみた。1995年と2012年の実績を比較すると、売上高をTELは24%、AMATは2.8倍にそれぞれ伸ばしたが、研究開発費はそれぞれ4.2倍、3.7倍に増えている。5年前の2008年と2012年の比較では、TELは売上高が2%減少しているが、研究開発費は20%も増えている。AMATは、売上高が7%伸びたが、研究開発費は12%増とそれ以上に増えている。


 さらに、直近5年ごと(2003~2007年と2008~2012年)の累計を比較した場合、TELは売上高が24%も減少したのに対し、研究開発費は30%以上も積み増している。売上高が減少してしまったのは、この間の過度な円高が大きく影響したと思われるが、それを差し引いたとしても、研究開発費の増加はそれ以上のペースで進んだと想像できる。一方のAMATは、研究開発費の増加が8%弱だったのに対し、売上高は9%強伸びた。売上高が伸びたのは、当時業界10位だったVarianを買収した効果だと思われる。

 LamによるNovellusの買収もそうだが、海外の装置メーカーは、半導体業界で上位のランクを守り続けるため、増え続ける研究開発費をカバーする規模と体力を企業買収によって身につけてきた。ちなみにTELも近年、Nexx SystemsやFSI internationalなど4社を買収したが、こちらはAMATやLamの買収とは性格が異なり、企業規模の拡大というより製品ラインアップの拡充という意味合いが強かったように思う。

医療機器への参入増加、目立つ「神戸進出」

 両社の経営統合によって、450mm製造プラットフォームの開発は加速するかもしれない。しかし、450mm用装置は顧客が限られるうえ、出荷台数も多くは見込めない。量産時に実現しなければならないプロセスノードは10nm台とみられ、歩留まりまで含めれば、クリアすべき技術のハードルはきわめて高い。加えて、微細化が物理限界に近づき、Intelは次世代の14nmプロセスでは現世代から製造装置の多くをリユースするとコメントしており、デバイス市場の拡大と歩調を合わせて装置市場が拡大していかないという構造が明確になってきた。そうした背景もあってか、国内の半導体製造装置メーカーでは最近、医療機器市場への新規参入を企図するメーカーが非常に目立っている。


 以前に本稿で日本の医療機器市場について書き、2012年の市場規模は約2.6兆円、うち45%が輸入されていることをレポートした。また、日本は先進国の中でもっとも病院で亡くなる率が高く、国の方針が在宅医療に向かっていることも記した。医療機器市場は安定成長を続けており、これからはますます在宅に対応できる小型あるいはモバイル型の機器ニーズが間違いなく高まる。ベッドは各種センサーや通信機能を備えるなどIT化が進み、ベッドサイドも含めて「患者を見守る」ようなシステムに進化していくと思われる。

 医療機器に取り組む装置メーカーのなかでも、特に川崎重工の計画がすごい。半導体市場では搬送ロボットメーカーとして著名だが、医療機器メーカーのシスメックスと合弁会社を立ち上げ、2030年に売上高1000億円を目指すというのだから、目標値の桁が1つも2つも違う。LEDが縁で徳島県との関係が深まり、徳島大学と共同で医療機器の開発に乗り出そうとしているタカトリの取り組みも興味深い。

 また、取り組みを始めた装置メーカーのなかで、神戸市に新たな拠点を構えるケースが目立つ。これは神戸市が推進している「医療産業都市構想」で企業の集積が図られているためだ。この構想は1998年10月に検討が始まってから15年が経過し、神戸のベイエリアに14の中核施設と200社以上の医療関連企業が集積する一大クラスターに成長している。スーパーコンピューター「京」や理化学研究所の「発生・再生科学総合研究センター」などが集積しており、今後も医療ビジネスに参入する企業にとって魅力的な地域として注目を集めそうだ。

 医療機器が半導体製造装置メーカーにとっての新たなパラダイスになるかは未知数だ。だが、医療機器の発展は、日進月歩で生き馬の目を抜くといわれる半導体業界の変化のスピードに比べると発展が遅いともいわれる。日本発のiPS細胞やそれを用いた再生医療関連産業は2050年には世界で53兆円になるという国の試算もある。「世界でもっとも医療を受けたい国」として世界中から患者が集まる国に日本がなり、半導体分野で培った技術で装置メーカーが大活躍している――そうした未来を想像しても、まったくおかしくはない。


半導体産業新聞 編集長 津村明宏

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