電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第16回

日本の半導体設備投資は、直近でついに世界の7%に下落した!!


~トップを走っていた90年当時は実に世界の投資の51%占有~

2013/10/18

 本当に愛し合う男女が、情欲の限りを尽くした挙句に、許されぬ関係を清算するために青酸カリをあおる。それを甘美な世界のように描いた「失楽園」という映画をどれくらいの女性たちが観たことだろう。それはある種のパラダイス願望であるなら、フィクションの世界としては許すことができる。しかし、ノンフィクションの世界である半導体の分野で、我が国ニッポンが「失楽園」への道を歩むことは決してあってはならない。

 米国の調査会社であるICインサイツの調べによれば、2013年第1四半期(1~3月)の時点で、世界の半導体設備投資に占める日本メーカーの比率は7%まで下落したという。これに対して、韓国、台湾、シンガポール、中国などアジアパシフィックエリアのメーカーは、全体の53%まで拡大したと分析している。

 同社によれば、1990年には世界半導体生産トップ10に日本メーカー6社が名を連ね、設備投資では世界の51%を占めていた。このころに発刊された半導体産業新聞においては、日本工場の動向を報道すれば、それは世界のスタンダードになる、との思いが記者たちにはあった。しかして今日にあって、日本のニュースは世界を驚かすインパクトには著しく欠けている。


 もっとも「失楽園」化しているのは日本ばかりではない。欧州メーカーも現在、設備投資額のシェアはなんと3%まで後退しているのだ。かつてアナログで世界を席巻したSTマイクロ、パワーデバイスに強いインフィニオンなど有力企業は残っているものの、ファブライト戦略が進んだ結果として、ここまでひどいことになってしまった。

 「2013年における世界の半導体設備投資は、微減の5兆円強とみられるだろう。しかし、このうち3兆円以上を占めるのがインテル、サムスン、TSMCの3強であり、投資という点においても大手の寡占化が進んでいる。半導体はどこまでいっても巨大投資ができるかどうかの力技。優れた技術開発だけでは勝てない」
 こう語るのは国内でも有名な半導体アナリストである。この人は米国モトローラの半導体の出身であるが、自分のルーツであるモトローラがなくなってしまったことを深く嘆いていた。今の若い人は知らないだろうが、モトローラ社は80年代に半導体生産の世界チャンピオンになったことが2度ある。まったくもって半導体という世界はアップダウンが激しく、強弱が入れ替わる世界なのだ。

 半導体産業新聞の調べによれば、国内半導体メーカー30社の2013年度通期の設備投資計画はたったの4000億円であり、世界の10%にも満たない。トップを行く東芝だけが1700億円というそこそこの投資を計画しているが、実に30社中、25社が100億円以下の投資なのだ。東芝に次いで投資するのはソニー600億円、日亜化学500億円、ローム308億円となっている。

 ここで面白いのは北米メーカーであり、設備投資だけを見れば90年当時が世界の31%、2013年に至っても37%であり、コンスタントに投資を続行している。生産が増えていく分についてはファンドリーを活用し、あまり投資のリスクをとらなくなってきた。その分、アジアのファンドリーが増えていくという図式だ。しかしながら、シェールガス革命で沸き立つ米国においては製造業回帰が始まっており、米国半導体メーカーのかなりの会社が次の新工場をアメリカ本土に建てるといっている。つまりは、ファンドリーに大きく傾斜という路線から、米国における内製化強化に風を変えようとしている。

 それにしても、国内半導体メーカーの投資復活の兆しは全く見えてこない。これは言い換えれば、日本勢が現在の半導体の主力アプリであるITの最終セットで負けていることを意味する。大体が日本の半導体メーカーは、外販中心ではなく、自らが作る製品に搭載する部品供給者としての位置づけが強かった。今もその風潮は継続している。であるがゆえに、IT以外の分野でも良いから、医療産業、環境エネルギー、航空産業、次世代自動車などの成長分野で世界を席巻する最終組立製品を持たなければならない。そのための製品戦略、技術ロードマップづくりを急がなければならない。それが実現してこそのニッポン半導体の復活なのだ。

半導体産業新聞 特別編集委員 泉谷渉

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