太陽電池(PV)の高出力化に向けて、PVセルに使用するシリコン(Si)ウエハーの大型化が進んでいる。現在、PV用Siウエハーの主流は166mm角(M6)と182mm角(M10)だが、今後は210mm角(G12)のシェアが拡大する見込みだ。
一方、近年注目されているのがrectangular waferと呼ばれる長方形のウエハーである。大手PVメーカーも長方形ウエハー/セルを用いた新型モジュールを相次ぎ発表しているが、ウエハーサイズの乱立に歯止めをかけるため、モジュールの大きさや形状を標準化する動きも出ている。
ウエハーの大型化進む
現在のPVモジュールは、単結晶Si、PERC(Passivated Emitter Rear Contact)、ハーフカット、MBB(Multi-Busbars)、両面発電、高密度実装などの技術を組み合わせることで高出力化を実現しているが、セル技術については、p型PERCからn型TOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)へのシフトが加速している。そして、Siウエハー&セルの大型化も進んでいる。
PV用単結晶Siウエハーのサイズは、1990年代から2000年代初頭にかけては100~125mm角と小さかったが、その後、ポリSiの価格が下がり、供給量が増えたことから、単結晶Siウエハーのサイズも大型化が進んだ。
ちなみに、独VDMAが18年に発表したITRPV第9版によると、18年におけるウエハーサイズの主流は156.75mm角(M2)で、これが全体の9割を占めていた。ただ、20年にはM2のシェアは3割強程度まで減少し、一回り大きな158.75mm角(G1)へのシフトが進んだ。
その後も、161mm角(M4)、166mm角(M6)、182mm角(M10)、210mm角(G12)とウエハーサイズは大型化の一途を辿った。そして22年には、G1が1割まで減少し、M6とM10で全体の7割を占めているが、23年にはG1がほぼ消滅するほか、M6も縮小に向かい、27年以降はM10とG12に集約される見通しである。
正方形から長方形へ
ウエハーの大型化が進む一方で、近年脚光を浴びているのがrectangular waferと呼ばれる長方形のウエハーである。従来のウエハーが縦と横の長さが等しい正方形であるのに対し、rectangular waferは縦と横の長さが異なるのが大きな特徴である。例えば、210Rと称するrectangular waferは、縦が210mmだが、横は182mmとなっている。
一方、182Rと呼ばれるrectangular waferは、横が182mmだが、縦は199mmになる。これをハーフカットで使用する場合には182mm×99.5mmのウエハーが2枚取れるが、縦を105mmと94mmにカットすることもできる。rectangular waferでは、カットするサイズを変えることで、モジュールの大きさや出力の自由度が増えるという利点がある。
rectangular waferのコンセプト
中国のPVメーカーの多くがrectangular waferの開発に取り組んでおり、Jinko Solar、JA Solar、LONGi、Risen Energy、Astronergy、TW Solar、Huasun、Aikoなどが182Rを開発している。一方、Trina Solarは210Rを提案している。
長方形ウエハーは出力が高い
PVメーカー各社がrectangular waferに着目する最大の理由は、システムコストが下がり、最終的にはLCOE(均等化発電原価)の低減が期待できるからだ。Trina Solarは23年からTOPConの最新技術であるi-TOPCon Advanceを導入する予定で、210Rセル、ホウ素ドープの選択エミッター、裏面微細反射構造、PECVDを用いた高濃度ドーピングTOPCon構造などを採用したセルの変換効率は最大26.2%になる。モジュール出力は48セルで450W、66セルで605Wとなっている。
210Rセル(1/3カット)と従来の210mmセル(1/3カット)および182mmセル(1/2カット)を用いた各モジュールを比較したところ、モジュール面積はほぼ同じだが、出力は210Rが最も高く、同じ屋根面積に設置した場合のシステム出力も210Rが最も大きかった。さらに、210Rセルを用いたモジュールはコンテナへの積載効率も優れているという。そして、400MWプロジェクトのLCOE評価でも、210RはBOSコスト、投資額、LCOEのいずれも182mmより低いことを確認している。
Astronergyもrectangular waferを用いた新型モジュール「ASTRO N7」を開発した。182mm×191mmの長方形ウエハーを採用したことで、ウエハー面積が5%増加し、セル出力も7.6%増加した。「ASTRO N7」はコンテナへの積載効率も優れており、海上輸送コストがWあたり0.04~0.08セント低減できると試算している。
JA Solarは22年からn型TOPCon、GFI(gapless flexible interconnection)などの技術を導入した新型モジュール「DeepBlue4.0」の展開を開始したが、rectangular waferを採用した「DeepBlue4.0 Pro」を新たに開発した。182mm×199mmのウエハーをハーフカットで使用したモジュール(72セル)の出力は630Wだが、182mm×105mmのウエハーを用いたモジュール(66セル)では610Wになる。
9社が規格統一で合意
rectangular waferの開発が活発化する一方で、ウエハーの安定供給や材料の利用効率を高めるため、ウエハーやモジュールのサイズを標準化する動きも出ている。旗振り役となっているのはTrina Solarで、同社は中国太陽光発電産業協会(CPIA)が主催したワークショップにおいて、2384×1134mmのモジュールサイズを業界標準として提案したが、この提案にCPIAおよび主要PVメーカー8社が合意したという。
規格統一に合意したのは、Trina Solar、Canadian Solar、Risen Energy、JA Solar、Jinko Solar、LONGi、Tongwei、DAS Solar、Chintの9社で、標準化には、モジュールサイズのほか、取り付け穴の位置なども含まれる。今回の規格統一の合意は、長年の課題だったモジュールサイズの乱立に終止符を打つとともに、超高出力かつ高性能なPVモジュールの開発が加速すると期待されている。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾