サムスングループ傘下の第一毛織(チェイル、ソウル市江南区駅三洞)が、ファッション事業を系列のサムスンエバーランドに譲渡し、先端材料メーカーへの飛躍を図ろうとしている。譲渡金額は1兆500億ウォン(約1000億円)規模。第一毛織は1954年、繊維事業を主力にサムスングループの母体企業として船出したが、ついに現状の業種にマッチした先端材料専業メーカーに転身する勝負に打って出たのである。
LG化学の半分以下
韓国ハイテク産業において、サムスングループがライバルのLGグループに遅れを取っている唯一の業種が材料分野である。その間、第一毛織をめぐっては、社内外から社名変更や事業分離に対する予測が飛び回っていた。つまり、同社をLG化学に匹敵する材料メーカーに育てる取り組みがスタートしたのだ。第一毛織がファッション事業をエバーランドに譲渡したのは、材料事業への投資リソースの確保が主な目的といえよう。
同社の2012年連結売上高は6兆99億ウォン(約5724億円)。このうち4兆2328億ウォンを材料(ケミカル、電子材料)事業で売り上げた。合弁会社のサムスンコーニング精密素材分を除くと、サムスングループのハイテク材料事業の事業規模は、LG化学の売上高の半分にも及ばない。近ごろ、有機発光ダイオード(OLED)向け基礎材料技術企業の独ノバレッド(Novaled)を買収したが、売り上げ拡大よりは特許防御の意味合いの方が大きい。
研究開発体制も刷新
サムスングループ内部では今後、電子素材研究所が構造再編に重要な役割を担う見通しだ。サムスン電子をはじめ、サムスンSDIやサムスン精密化学、サムスンコーニング精密素材、第一毛織の5系列会社の中核を担う研究者が電子素材研究所に異動し始めている。電子素材研究所は、サムスン綜合技術院とは異なり、早期に実用化できる技術開発に注力すると見られる。今後、第一毛織が電子素材研究所の主軸となれば、サムスングループ内における位置づけはさらに高くなるだろう。
加えて、過去59年間使用してきた第一毛織の社名も変更するともいわれている。主力事業の変化にもかかわらず、「毛織」という社名を固守したのは、サムスングループの母体であるがゆえに愛着が大きかったからだという。しかし、ファッション事業を分離したため、近日中の社名変更がほぼ確実と思われる。「サムスン先端素材」か「サムスンマテリアルズ」という新しい社名が噂されている。
サムスングループは、サムスン電子を筆頭とするセット製品偏重から脱却し、材料事業の革新なくして、さらなる成長は容易でないと判断している。完成品と部品・デバイスだけに依存するサムスングループが、将来に対する危機意識を隠せない理由だ。
韓国産業界も大きな期待
今回のファッション事業の譲渡によって、サムスングループのビジネス・ポートフォリオの調整を継続するかが注目される。また、サムスンエンジニアリングとサムスン物産の事業転換の可能性もあるという。サムスン電子の場合、12年までに太陽電池事業をサムスンSDIに移管し、サムスンLEDを組み入れた。さらに、ディスプレー事業はサムスン電子から分離し、サムスンディスプレーを独立させるなど、活発な事業の入れ替えを行っている。
韓国は半導体やディスプレーを柱とするエレクトロニクス部品大国という評価を内外から獲得している。だが、材料分野においては、いまだこれといった世界的企業が見当たらない。日本とドイツ企業の独壇場が続いている。世界に通用する素材・材料事業の構築は、数十年にわたる辛抱強い技術開発と投資が求められる。過去50年間、ひたすら量的成長ばかりを追求してきた韓国にとっては、まだ無理な領域かもしれない。
第一毛織が先端材料産業に投資を集中し、さらなる飛躍を目指すことに韓国産業界は大きな期待を寄せている。第一毛織は、LG化学とともに、健全な競争を通じて「第2の半導体・ディスプレー神話」を実現することを夢見ている。
(半導体産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢)