電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第14回

メガソーラー、SiC需要の強力な牽引車に


パワコンではMOSFET登場でSiCシフト加速も

2013/10/4

 2012年7月の再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)開始を機に、日本には空前の再生可能エネルギー(再エネ)ブームが到来しているが、なかでも太陽光発電のブレークぶりは突出している。経産省資源エネルギー庁の発表によると、13年5月末時点でFITの設備認定状況が再エネ全体で2237.2万kW(発電容量ベース)なのに対し、メガソーラーなど非住宅用の太陽光発電(出力10kW以上)は1937万kWにも上り、設備認定を受けた再エネ全体の実に87%を太陽光が占めている。設備認定を受けても着工しない「塩漬け」物件や悪質ブローカーの台頭、さらには過度の「金融商品」化などが問題視されているものの、メガソーラーブームは当面の間は続くと見られる。

 そして、こうしたメガソーラーブームが、SiCパワーデバイス需要拡大の強力な牽引車となる可能性が高まっている。太陽光発電に欠かせないパワーコンディショナー(パワコン)へのSiC採用が、太陽光発電による売電収入増加に直結すると見られているためだ。

空前のメガソーラーブームがSiC開発を加速する牽引車に。写真は(株)サイサンと森和エナジー(株)の共同事業体が青森県六ヶ所村に建設した2.3MWのメガソーラー「エネワン ソーラーパーク六ヶ所村」
空前のメガソーラーブームがSiC開発を加速する牽引車に。写真は(株)サイサンと森和エナジー(株)の
共同事業体が青森県六ヶ所村に建設した2.3MWのメガソーラー「エネワン ソーラーパーク六ヶ所村」

ロームが試算、SiC採用で年間売電額は7200円アップ

 メガソーラーなど太陽光発電システムを設置し、電力会社へ売電する事業を開始した事業者の最大の関心は「いかに発電量を稼いで売電収入を増やすか」の一点にあるといっても過言ではない。FITのもとで買取期間20年を保証されるなど絶好の「金融商品」とみなされている太陽光発電ではあるが、建設費は1MWあたりで約3億円と、決して安い買い物ではない。「利回り」を高め、早期に投資を回収するためには、少しでも発電量を稼ぎたいのが事業者の本音だ。
 そして、発電量を最大化させるためには、高変換効率の太陽光モジュールを選択することも重要だが、それと組み合わせるパワコン選びも、極めて重要な要素となってきた。

 太陽光発電業界では「システム変換効率」という考え方が主流になりつつある。太陽光発電システム全体の変換効率を指す概念で、太陽光パネルの変換効率とパワコンの変換効率の乗算で導き出されるものだ。パネルあるいはパワコン単体の変換効率ではなく、それらを組み合わせたシステムとしての効率が重視されつつあるのだ。パネルとパワコンの両方をどう選ぶかがカギになるが、SiCを採用して変換効率を向上させたパワコンは、その選択の際に優位に立つ可能性が高い。

 SiCデバイスを量産中のロームの試算によると、パワコンにSiC-MOSFETを使用した場合、シリコンのパワーデバイスを用いた場合に比べ変換効率が1%も上がるという。これにより、1年間の売電額は7200円も増加する。
 ただ、シリコンデバイスに比べ単価の高いSiC-MOSFETを使うことにより、パワコンの導入コストが上昇することが懸念されるが、同社によればその点も心配はないという。売電金額のアップが期待できるため、コストアップが7200円ならば、コスト上昇はわずか1年で回収でき、たとえ2万円のコストアップであっても、2年9カ月で回収が可能だという。

三菱電機はパワコンも視野に入れたフルSiCモジュール開発

 SiCデバイスでは、SiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)が実用化では先行しており、パワコン以外でもサーバーやエアコンなどの電源、EV用急速充電器などに採用されている。一方、本格実用化が待たれるのがSiC-MOSFETだ。SiC-MOSFETをSiC-SBDと組み合わせたフルSiCモジュールが登場すれば、パワコンへのSiC採用がより加速するとの期待が高い。

 デバイスメーカーも本腰を入れており、三菱電機はパワコンへの展開も視野に入れたフルSiCモジュールの開発を進めている。13年初めには、定格電圧1200V/定格電流1200Aという世界最大容量のSiCパワーモジュールを発表。2年後を目標に事業化を進める構えで、太陽光発電用パワコンやFA機器、昇降機、風力発電などへの適用を目指す。

 フルSiCモジュールの大容量化においては、高速スイッチング時の瞬間的な電圧上昇により電力損失が増加し、SiC素子が破損する課題があったが、同社が試作したモジュール内部構造の最適化で高速スイッチング時の電圧をシリコンのパワー半導体モジュールと同等まで抑制、電力損失低減と素子の破損回避を実現している。また、短絡時の大電流による素子破損を防ぐため、MOSFETに電流センス機能を内蔵、短絡時に高速に素子を保護する技術を開発した。これによりSiCの破損を回避できるほか、低抵抗素子の適用が可能となり、電力損失をシリコンのモジュールに比べ75%も低減できるようになった。さらに冷却器の大きさもシリコンのモジュールの半分に小型化できるという。

三菱電機が試作したフルSiCパワーモジュールを搭載したインバーター(右)。左のシリコンパワー半導体モジュール搭載品に比べ筐体を50%小型化
三菱電機が試作したフルSiCパワーモジュールを搭載したインバーター(右)。
左のシリコンパワー半導体モジュール搭載品に比べ筐体を50%小型化

根強い慎重論、待たれるSiC-MOSFETの本格実用化

 さて、実際にパワコンメーカーの間では、SiC採用が徐々にではあるが進んでいる。パワコン世界市場でトップの独SMA Solar Technologyは、すでにパワコンに採用していることを明らかにしている。同社はSiCを、上記の太陽光発電システム全体の総合効率を上げるためには不可欠の存在と見ており、採用を加速しているもようだ。

 ただ、他方でSiCに対する慎重論もいまだ根強い。国内の産業向けパワコン大手は「シリコンからSiCに替えるメリットはまだ見出せておらず、今のところSiCを使う考えはない」とコメントする。「SiC-SBDでは使えるものも出てきているが、SiC-MOSFETはまだまだだ。パワコンに使うのであれば、信頼性の高いMOSFETが登場しないと、SiCに替える効果は出にくいのでは」というのだ。やはりSiC-MOSFETの早期実用化が待たれる。逆に言えば、SiC-MOSFETの本格実用化が、パワコン業界におけるSiCシフトを一気に加速させる可能性もあるのだ。

 ただ、SiCデバイスだけ進化しても意味はなく、プリント基板やコンデンサーなど周辺コンポーネントもSiCにうまくマッチングするものが必須だ。実際、すでにSiCを採用しているパワコンメーカーも「周辺部材の開発がパワコンへのSiC採用を後押しした」とコメントする。
 いずれにしても、太陽光発電では今後、さらなるシステム変換効率アップが必須となることは間違いなく、SiC待望論はますます高まっていくであろう。この追い風をいかにキャッチしていけるか、デバイスメーカーの開発戦略に要注目だ。

(半導体産業新聞 編集部 甕秀樹)

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