（株）FLOSFIA（フロスフィア）（京都市西京区）は、最先端酸化ガリウム（Ga2O3）半導体を搭載したパワーデバイス事業を展開している。超低損失・低コストが最大の売りであり、独自技術のミストドライ法による成膜技術もナノオーダーの膜厚制御が可能になることで、ユーザーに評価を受けているのだ。2030年ごろまでに1000億円の売り上げ目標を掲げており、量産のための設備投資も順次進めている。

　同社は、京都大学ベンチャーともいうべき存在であり、この分野で最先行するカンパニーとして知られているのだ。代表取締役社長の任にある人羅俊実氏は、現在の事業状況について、こう語っている。

　「最近の事業状況としては、順調にきている。収益レベルでも3億円を超えてきた。海外ファンドリーとのグローバルなパートナーシップ構築にも着手しており、ワールドワイドな展開も見えてきている。酸化ガリウムの優位性が知られてきたと言えるだろう」

　FLOSFIAにおける酸化ガリウム半導体搭載のパワーデバイスは、従来比最大8割の損失低減に結び付く技術実証に成功している。スイッチング特性や熱抵抗を測定し、良好な特性も得ている。高周波については、Siの1に対して同社の物性値は238と圧倒的である。電力変換器の小型化や、回路全体のコスト低減に結び付く技術だ。

　同社は、大手のユーザーを多く獲得しており、車載向けに強いデンソーとは共同開発を進めている。エアコン大手のダイキン工業、ロボット大手の安川電機、さらには三菱重工業など、FLOSFIAのパワーデバイスを必要とするユーザーとのアライアンスも発表している。特定のアプリケーションにおいては共同モデル事業という位置づけで、開発段階からのパートナーアライアンスを実現し、確実なユーザー確保を目指しているのだ。材料やプロセスも重要とみており、様々なアプローチを進めている。

　「JSR、三洋化成、フジミインコーポレーテッドなど有力企業にサポートしていただいている。ミストドライ成膜技術向けの特殊材料も含め、様々な材料メーカーと連携を深めている。ミストドライ法においては、ナノメートルオーダーからミクロンオーダーまでの結晶性膜を大気圧プロセスで成膜できる。しかも、様々なものに様々な膜を成膜できる。非真空プロセスを活かせるので、高スループットが可能なことも強みだ」（人羅氏）

　同社は、特許600件を出願しており、これが最大の武器といえるだろう。そして、本社の中に20億円を投じて量産設備を立ち上げており、ユーザーのオーダーに応じられる体制が整った。また、コア技術である酸化ガリウムの成膜は社内で内製化しているため、ノウハウが外部に流出することがないことも差別化要素となっている。

　さて、FLOSFIAは30年ごろまでに1000億円の売り上げ目標を掲げている。これに向かって全力を挙げるという。もちろんどこかの時点で、コア技術領域については新たな製造拠点を設ける必要があるとも考えている。ただ、最近では、そのコア技術も含めてパートナーとの連携体制をとり、量産キャパを増やしていくという選択肢も検討し始めた。もちろん、ファンドリー活用も重視しているのだ。

　「有力企業に出資をしていただいており、資本準備金は40億円以上となっている。パワー半導体領域の投資が活発化してきたことを踏まえ、SiCやGaNなどのパワー半導体に比べて特性が高いことをもっとPRしていきたい。ありがたいことに、酸化ガリウムがこの領域のイノベーションになることを期待するユーザーから多くの引き合いをいただいている。さらに、パワーデバイス事業に加えて、パワーモジュール事業もやることで、川下への展開を通じて付加価値を広げていく。太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギーでも作られた電気が消費されるまでに必ず生じる電気変換ロスの低減は重要な社会問題であり、SDGs革命に十分貢献できる事業であると思っている」（人羅氏）

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■泉谷　渉（いずみや　わたる）略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役　会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』（以上、東洋経済新報社）、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業　激動の21年史　2000年～2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』（産業タイムズ社）など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。