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第489回

2022年太陽光発電10大ニュース、年間導入量が200GW突破


欧米が自国生産にシフト、サプライチェーン再編の兆し

2023/2/3

 2022年は太陽光発電(PV)の導入量が200GWを大幅に上回り、過去最高を更新したようだ。23年以降もPV市場は成長が続くと期待されており、サプライチェーンの強化やエネルギー安全保障の観点から、PVを自国で生産する動きも活発化している。
 今回は22年のPV10大ニュースを選出するとともに、23年の市場および技術動向を展望する。


(1)22年は記録的な導入量

 IEA(国際エネルギー機関)の調査によると、21年のPV導入量は前年比2割増の174GW(SolarPower Europeは168GWと算出)だったが、22年はさらに成長が加速し、200GWを大きく上回ったようだ。台湾EnergyTrendは22年の導入量を240GWとしており、BNEF(BloombergNEF)もミディアム・シナリオで前年比5割増の268GWと算出している。

 22年も引き続き中国が市場を牽引した。中国は21年に55GWを導入したが、22年は前年比6割増の87.4GW(National Energy Administration調べ)となった。欧州も導入が加速しており、SolarPower Europeの調査によると、22年の欧州(EU27カ国)のPV導入量は41.4GW(前年比47%増)で、年間導入量では過去最高を記録した。

 23年以降もPVの成長は続く見通し。BNEFは23年の導入量を316GW(ミディアム・シナリオ)としているが、27年には400GW、30年には500GWを超えると予測している。中国に加えて、北米や欧州も成長が持続すると分析している。IEAも23年以降はPV導入が加速するとし、23~27年の5年間の導入量は1500GWに達すると試算している。電気料金の高騰などを背景に、屋根置きなど分散電源用途が急拡大する見込みだ。


(2)米国がPV生産に本腰

 現在、PVの生産は中国が大きなシェアを維持しているが、市場拡大やサプライチェーンの強化、さらには、エネルギー安全保障の観点から、中国への過度な依存から脱却し、自国でPVを生産する動きが加速している。米国では22年8月にIRA(インフレ抑制法)が成立したことで、PVの生産を後押しすると期待されている。

 SEIA(米国太陽エネルギー産業協会)は30年までに米国内に50GWのPV生産能力を構築する目標を実現するため、新たなロードマップとなる「Catalyzing American Solar Manufacturing」を発表した。23年から順次工場の建設を開始し、27年にはポリシリコン(Si)、インゴット/ウエハー、セル、モジュールの生産能力が各45GWを超える見通しだ。

 すでに、First Solar(米国)は米国の新工場に総額12億ドルを投資することを決定。アラバマ州に国内4番目の新工場(生産能力3.5GW)を建設(25年稼働予定)するほか、既存工場も増強する。Cubic PV(米国)は10GWのウエハー工場、Meyer Burger(スイス)もアリゾナ州にモジュール工場(400MW)を建設しており、JA Solar(中国)はアリゾナ州に2GWのモジュール工場を建設(23年稼働)する。Enel Green Power(イタリア)も3GWの新工場を計画している。また、Hanwha Q Cells(韓国)は25億ドルを投資し、米国のモジュール生産能力を8.4GWまで拡大する計画を発表した。なお、IRAの成立以降、米国では20GW以上のPV生産計画が発表済みという。

(3)タンデム型で効率30%の壁を突破

 2種類以上の発電層を積層したタンデム型は、GaAsなどのIII-V族化合物半導体を用いた多接合PVが高い変換効率を実現しているが、製造コストが高価なため量産が難しい。そこで、トップセルにPSC(ペロブスカイト太陽電池)、ボトムセルに結晶Siを用いたタンデム型が注目されている。

 PSC/Siタンデムは多くの研究機関が27~29%台の変換効率を実現しているが、22年7月にスイスの研究グループ(EPFL&CSEM)が変換効率31.25%(1cm²、2端子)を達成し、世界で初めて30%の壁を突破した。さらに、同年11月には、HZB(ドイツ)が同サイズのセルで31.5%を達成し、翌12月には32.5%に向上し、世界記録を塗り替えた。

PSC/Siタンデムで変換効率32.5%(HZB)
PSC/Siタンデムで変換効率32.5%(HZB)
 PSC/SiタンデムはOxford PV(英国)がドイツに量産工場(100MW)を建設し、量産準備を進めている。また、Hanwha Q CellsやJinko Solar(中国)などの大手PVメーカーもタンデム型を開発しており、米国では、Cubic PV、Tandem PV、Swift Solarなどのスタートアップ企業が量産技術の開発に取り組んでいる。

(4)結晶Siで相次ぎ世界記録

 現在のPVの主流である結晶Siはp型PERC(Passivated Emitter Rear Contact)で高い変換効率を実現しているが、変換効率の上限が近づいており、これ以上の大幅な性能向上は難しい。そこで、p型PERCを置き換える技術として、TOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)やSHJ(ヘテロ接合)、IBC(バックコンタクト)などのn型技術が注目されているが、22年はSHJやTOPConセルで世界記録の報告が相次いだ。

 結晶SiベースのPVセルの変換効率は、17年にカネカが達成した26.7%が最高効率だったが、22年11月にLONGi(中国)がn型SHJセル(274.4cm²)で変換効率26.81%を達成し、世界記録を更新した。

 一方、n型TOPConも中国企業を中心に開発競争が激化しており、22年12月にJinko Solarが182mmのTOPConセルで26.4%の変換効率を達成し、大面積のn型TOPConセルで世界記録を樹立した。また、Trina Solarは210mmのn型TOPConセルで25.5%の変換効率を実現し、同セルを用いたモジュール(66セル)で24%超の変換効率を世界で初めて実証した。

(5)日本でPSCの実証開始

 PVの生産でシェアが激減している日本だが、次世代PV技術であるPSCの開発は加速しており、量産に向けた実証試験も本格化している。積水化学工業はNEDOプロジェクトで30cm幅のフィルム型PSCをロール・ツー・ロールで製造する技術を構築しているが、25年の実用化に向けて1m幅の製造プロセスの確立に取り組んでいる。23年から東京都下水道局の森ヶ崎水再生センターで発電量や耐腐食性能などの検証を行うほか、JR西日本が25年に開業する「うめきた(大阪)駅」でも発電量などの実証試験を行う。

 東芝もNEDOプロジェクトでフィルム型PSCを開発しており、大面積(703cm²)モジュールで16.6%の変換効率を実現している。25年のサンプル出荷、28年の商業化を目指しているが、PSCの量産技術の開発に取り組む東芝エネルギーシステムズが福島県大熊町で実証実験を計画している。また、シャープもフィルム型PSCを開発しており、20年代後半の商業化を目指している。

 京都大発スタートアップのエネコートテクノロジーズはIoTデバイスに最適なPSCを開発しており、22年にはマクニカと共同でPSC搭載のCO2センサー端末の試作品を開発した。屋内環境の測定や植物工場などでCO2濃度測定などの評価を行うほか、PSCのラインナップを拡充することで、数年内の量産開始を目指している。

(6)欧州でもPVの生産回帰

 欧州でPVの導入が加速している。SolarPower Europeの調査では、22年のPV導入量は41.4GWで、年間では21年(28.1GW)を5割上回り、最高記録を更新した。23年はさらに導入が増えるとし、ミディアム・シナリオでは53.6GWを見込んでいる。

 PVの導入が加速する一方で、エネルギー安全保障の観点から、欧州域内でPVを生産する動きが活発化している。SolarPower Europeも22年末に「European Solar PV Industry Alliance」を立ち上げるなど、欧州域内でのPV生産を後押ししている。現在、域内の生産能力は4.5GWだが、25年までに30GWを目指す。

 Meyer Burgerは高性能SHJモジュールを生産しており、22年の生産量は321MWだったが、23年にはドイツで第3生産ラインの立ち上げを予定しており、23年末には全体の生産能力が1.4GWになる。米国アリゾナ州でも23年の稼働を目指してPVモジュールの新工場(400MW)を建設する計画で、24年には1.5GWまで拡大し、全体の生産能力が3GWになる。Enel Green Powerは19年からイタリア・カターニアにある3Sun Gigafactoryで両面発電型SHJモジュールを量産しており、現在の生産能力は200MWだが、欧州のイノベーション基金の支援を受けて、生産能力を3GWまで拡張する計画を発表している。

(7)PSCの商業化始まる

 PSCは量産化&商業化に向けた取り組みが加速している。Oxford PVがドイツでPSC/Siタンデムの量産工場(100MW)を建設しており、Saule Technologies(ポーランド)も21年にポーランドで量産工場(100MW)が完成した。同社は新ラインを増設するなど、大幅な生産能力増強を計画しており、子会社のSolaveni(ドイツ)は前駆体材料の販売を開始している。

 中国企業もPSCの商業化に注力している。Microquanta Semiconductorは22年に浙江省衢州市内に100MWの量産工場を建設し、同年7月からPSCモジュールの出荷を開始した。UtmoLightも150MWの試作ラインを整備済みで、GCL Nano Technologyは23年に100MWの生産体制を確立する予定だ。

(8)p型技術は健在

 現在主流のp型単結晶PERCは理論限界効率が24.5%とされるが、すでに量産セルの平均効率で23%超、ラボの大面積セルでは24%を超えている。変換効率の伸びしろは多くはないが、Siウエハーのバルク寿命が十分に長い場合はさらなる高効率が期待できる。また、従来のB(ボロン)ドープのp型Siウエハーはボロン―酸素複合体によるLID(光誘起劣化)の発生で、発電性能が低下するという課題があるが、Ga(ガリウム)ドープのSiウエハーはLIDの抑制が期待できる。

 LONGiは19年に156.75mm(M2)のp型PERCセルで変換効率24.0%を達成したが、22年7月には、Trina Solarが210mm(G12)のp型PERCセルで変換効率24.5%を達成した。大面積のp型PERCセルでは世界最高効率になる。ちなみに、p型TOPConでは、Fraunhofer ISE(ドイツ)が19年に変換効率26%を達成している。

 p型SHJでは、LONGiが22年12月にGaドープの166mm(M6)セルで変換効率26.56%を達成し、p型SHJセルの世界記録を更新した。一方、p型IBCはISFH(ドイツ)が26.1%を実現しているが、LONGiは22年に182mm(M10)のp型SiウエハーとHPBC(Hybrid Passivated Back Contact)技術を採用した新型モジュール「Hi-MO6」を発表した。セル変換効率は25%以上、モジュール変換効率は22.5%で、出力は72セルのモジュールで560~585Wとなっている。23年には生産能力を25GWまで拡大する計画だ。

(9)極薄&超軽量で用途拡大

 PVの用途開発として、極薄&超軽量かつフレキシブルなモジュールが注目されている。MIT(マサチューセッツ工科大学)は導電性ナノインク材料と高強度ポリエチレン繊維のダイニーマを用いた超軽量の布型PVを開発。1kgあたりの出力は約370Wで、500回以上の曲げ伸ばし試験で初期性能の90%以上の発電を維持するなど、高い耐久性を確認している。船舶の帆や災害用テント、防水シート、ドローンなど、様々な用途が期待できるという。

 理化学研究所などの研究グループは、極薄OPV(有機薄膜太陽電池)で発電した電力でリチウムポリマー電池に再充電することで、長期間の活動が可能なサイボーグ昆虫を開発した。OPVの膜厚は4μmで、昆虫への貼り付け方法を工夫することで、昆虫の基本的な動作を損なうことなく、最大17.2mWの高出力を実現した。より薄型化した制御回路を用いて、センサーなど他のコンポーネントと組み合わせることで、サイボーグ昆虫の機能拡大を目指す。

(10)ManzもCIGSから撤退

 ドイツのPV製造装置メーカーのManz AGがCIGS事業から撤退した。同社は17年に中国企業と協業し、重慶市にCIGSの量産工場を建設する計画を進めてきたが、その後、同計画が頓挫し、計画再開のめども立たないことから、プロジェクトの終了を決めた。さらに、CIGS薄膜技術の技術開発も終了し、同事業から撤退した。今後は、自動車&eモビリティ、バッテリー製造、エレクトロニクス、エネルギー、医療技術などの成長分野に注力するという。

 なお、出光興産の子会社のソーラーフロンティアも22年6月でCIGSの生産を停止した。PVの価格下落や販売数量の伸び悩みで業績が低迷したことから、これ以上、汎用CIGSモジュールの自社生産は困難と判断し、生産終了を決めた。ただ、タンデム型などの次世代CIGS技術については、出光興産次世代技術研究所で継続している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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