電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第13回

中国、ローエンド~ミドルクラス国産CISを自給自足


ギャラクシーコアは500万画素BSIを製品化

2013/9/27

 スマートフォン(スマホ)市場の拡大により、CMOSイメージセンサー(CIS)ビジネスが活況を呈している。800万~1300万画素の高画素タイプでは、業界最大手のソニーの独占状況に韓国サムスンや米オムニビジョン、米アプティナイメージングが対抗勢力として力をつけてきている。その一方で、ローエンド端末向けでは、中国のギャラクシーコアやスーパーピクスなどの新興ファブレスが国産サプライチェーンを確立している。

中国のローエンドスマホ市場拡大で、CIS需要も急拡大

 今年のスマホの最上位モデルでは、1300万画素クラスCISの搭載が当たり前となった。中国の新興スマホメーカーのシャオミー(北京小米科技)が8月に新発売した「紅米」は、799元(約1.3万円)のいわゆるローエンドスマホだ。しかし、正面カメラに1300万画素、背面に800万画素のCISを搭載している。低価格モデルを購入する若者層のニーズを汲んで、サムスン製CISを採用して、カメラ機能はハイスペックに対応した。

中国の路地裏で売られているフィーチャーフォン
中国の路地裏で売られているフィーチャーフォン
 「紅米」はマーケティング上の戦略からローエンドスマホながら、あえてハイスペックのCISを搭載したが、100ドル(約1万円)を切る中国のローエンドスマホの多くが、実は国産CISを使っている。中国の低価格携帯電話の代表的な存在である「老人机」(高齢者向けフィーチャーフォン)を販売するジオニー(Gionee、金立通信設備)は、「A100」という低価格スマホを販売している。その価格は499元(約8000円)。背面カメラのCISは200万画素クラスだ。ディスプレーパネルは2.3型、3G通信には対応せずGSM仕様のみとなっていることからも、ローエンドデバイスで構成された低価格機だということがわかる。

CMOS-IMSの中国ファブレス台頭

 1300万画素クラスのハイエンド機種用のCISでは、ソニーやサムスン、オムニビジョン、アプティナイメージングなどが激しい競争を繰り広げている。特に500万画素クラス以上で必須となるBSI(裏面照射型)工程では、先行開発したソニーが依然として強い立場をキープしている。これらの主要CISメーカーが800万~1300万画素を主戦場としている一方、低価格スマホ向けの300万画素以下のCIS市場で中国の新興ファブレスがマーケットシェアを支配しつつある。

 300万画素以下(130万画素やVGAなど)のCISを手がける中国ファブレス大手は、ギャラクシーコア(格科微電子)を筆頭に、スーパーピクス(思比科微電子技術)やブリゲーツ(鋭芯微電子)が有名だ。これらの企業は2003~2008年に創業したばかりのファブレスベンチャーで、創業者や技術開発者が中国の「千人計画」のメンバーに選出されているのが特徴だ。「千人計画」は、中国政府が海外で実績をあげた中国人の人材を中国に呼び戻す政府プログラムで、創業時の資金支援やその後の開発費の助成など手厚い庇護を受けることができる。

中国の路地裏で売られているフィーチャーフォン


ギャラクシーコア(Galaxycore)

 CISファブレス、ギャラクシーコアの趙立新CEOは、1990年代に清華大学の微電子研究所の修士を卒業し、米国の半導体会社の設計部長を経て、中国に帰国して同社を創業した。今春は中国ファブレスとして初めて、BSIの500万画素のCISを販売した。中国ファンドリーのSMICの天津と上海の200mmファブにこれまではチップ製造を生産委託してきたが、500万画素CISは300mmウエハーでの製造とBSI工程が必要になるため、台湾のTSMCに生産を委託している。

 ギャラクシーコアの製品の大半は、200万画素以下の低価格のFSI(裏面照射型)CISとなっている。30万画素や8万画素、VGAなどが中心で、セルサイズは2.2μmクラスが多い。
 今春から販売を始めた500万画素CISは、セルサイズが1.4μmだ。中国CISファブレスで1.4μmのセルサイズを実現したのはギャラクシーコアが初めてだ。趙立新CEOは「中国企業で初めて海外大手が名を連ねる1.4μmクラブに加入できた」と語る。

 最先端CISの1200万画素クラスになるとセルサイズは1.2μm以下になり、ギャラクシーコアと海外のCISメーカーとの世代格差はまだ開きがある。しかし、「ギャラクシーコアがこんな短期間で技術力をキャッチアップしてくるとは、数年前なら予想もできなかった」(CIS関連の日系ベンダー企業幹部)。ギャラクシーコアは今後も、中国CIS業界のフロントランナーとして業界を牽引していくことだろう。
 ギャラクシーコアは昨年、SMICに合計20万枚のCISを生産委託し、今年は25万枚規模の生産委託が見込まれている。

スーパーピクス(SuperPix)

 中国のCISファブレス第2位のスーパーピクスは、日本留学帰りの陳傑CEOが2004年に北京で創業した。陳傑CEOは日本の電気通信大学で博士号を取り、同大学の助教授、WCDMA用画像処理SoCの設計開発などの実績を持つ。中国に帰国後、中国科学院の研究員、北京六合万通微電子のCTOを歴任した。スーパーピクスを操業後2年で200万画素のCISを開発し、これを世に送り出した。

 製品は8万画素(セルサイズは2.8μm)や30万画素(同2.2μm)、120万画素(同1.75μm)など。最上位のCISは200万画素でセルサイズは1.75μm。トップのギャラクシーコアとは1世代の差がある。工業用やセキュリティーカメラ用などにセルサイズが6μmと大きい1200万画素クラスのCISも製品化している。
 当初はSMICにファンドリー委託していたが、SMICがギャラクシーコアとの関係を強めたため、韓国の東部半導体に生産委託している。

ブリゲーツ(Brigates)

 ブリゲーツの羅文哲CEOは1994年に清華大学で博士号を取得後に渡米し、ベル研究所で半導体開発に携わり、その後中国に帰国した。2002~2007年までSMICに在籍し、08年に同社を創業した。同社の幹部にはSMICでCISのプロセス開発に携わった曹慶紅博士やサムスンでASIC開発をしていた李斌瑞博士も在籍する。

 300万画素以下のCISを設計開発し、200万画素や30万画素、VGAなどの製品を展開している。携帯電話用途だけでなく、セキュリティーカメラ用の製品も多い。12年末には従来のCCDの3倍の赤外線感度を持つ「BG0601」という新型MCCDを商品化した。
 IC設計では天津大学と共同研究プロジェクトも持っている。チップ製造はSMIC、ウエハーレベルのパッケージ組立は江蘇省蘇州市のWLCSPに生産を委託している。

 中国のCISファブレスはまだ海外大手の設計力には及ばず、ローエンドからミドルクラスの領域にとどまっている。しかし、海外メーカーが重視しなくなったローエンド~ミドルクラス領域でのマーケット支配力をどんどん強めている。低価格スマホの多くは、30万画素以下の低画素のイメージセンサーを搭載しているが、この分野で中国でIC設計、チップ製造、パッケージ組立した中国製CISが中国のローエンドスマホのサプライチェーンをカバーできるようになった。ギャラクシーコアは800万画素クラスの開発に着手済みで、中国産CISが中国スマホのカバー範囲を徐々に広げていくことだろう。

半導体産業新聞 上海支局長 黒政典善

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