電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第506回

国家100年の大計をたまにはじっくりと考えてみよう!


「伝統を守りながらも、常に挑戦しなければならない」という田中浩一郎氏の発言

2022/11/11

 2022年9月12日、実にユニークなメンバーが東京・御茶ノ水の連合会館に集まった。企業100年計画(株)(市岡孝治社長)が主催となって開かれた第1回車座討論会に参加するためであった。かつてわが国は世界から「国民一流、経済二流、政治三流、官僚四流」といわれた時期があったが、給与水準が今日ではOECDの最下位グループになってしまっている。優秀な人材の海外流出も多く、また超一流の人たちが剛腕で経済を動かすという気風もトーンダウンし、「国民一流」という評価も今や危ぶまれる状況となっている。

徳川家康は100年どころか250年の国家の平安を守った(江戸城の一角)
徳川家康は100年どころか250年の国家の
平安を守った(江戸城の一角)
 こうした状況下において、日本経済低成長の根本要因はどこにあるか、「士魂洋才」といわれた日本の近代化が終わりを告げてその後はどうなるのか、100年続けていく企業スピリッツはなくなってしまったのか、という様々な問題が浮き彫りになってきた。憂国の志を持った人たちは嘆いているだけではいけないのだ。フリートークでも良いから、ニッポンの課題を洗い出し、何としても国を企業を、人を建て直すという熱き魂を語り合う場、すなわち車座討論会が今こそ必要になってきたのである。

 冒頭には、市岡孝治社長が現在の日本経済低迷の根本要因はやはり人にあるとして「人間性を磨くことの少なさ」を指摘した。かつてわが国の本来の教育原点は人間学であり、日本人の精神基盤である“和”の本質をもっと見極め、茶道、剣道など道を追求してきた精神性に帰るべきだと示唆した。そして国家100年の大計についても触れ、「1年先を考える人は花を育てるべし。10年先を考える人は木を育てるべし。100年先を考える人は人を育てるべし!」と強調した。

 これを受けて司会の泉谷渉は、バブル崩壊後に日本人が直面したのは「目標感の喪失」であり「現状に甘んじることの楽さ加減」に浸ってしまったと強調した。1970年代~1980年代は米国に追いつけ!追い越せ!の精神で頑張り、90年にはついに半導体の世界シェア53%を握り、頂点に立つもののその後は負けて負けて負け続け、なんと2021年の半導体シェアは世界の8.5%しかないところまで凋落した。ようやくにして「半導体を制するものは世界を制する!」という合言葉のもとに、異次元の大型国家プロジェクトが始まったが、「遅すぎる!いつだってスピードがない!」という識者の声は絶えない、と報告した。

 そして参加者の中から共鳴する形で「やはり人がすべて」「人が変わらなければ、企業も国家も変わらない」という意見が続出した。そしてまた、「匠の技」ともいうべき日本の宝物の技術が中々若い人に伝わっていかないもどかしさがある、という声も多かった。

 市岡氏は、「武士道」「商人道」は戦前の日本にはかなり多く残っていたが、戦後になってこうしたスピリッツは失われ、ただひたすらの成果主義、とにもかくにもの儲け主義が横行し、人の道という考え方が退潮したことを嘆いた。そして、「論語」や「大學」などの本が読まれなくなり、戦前にはあった「道徳」「修身」に関する授業がなくなったことも大きいとした。最近では「人は何のために働くのか」という本が出てベストセラーになるくらい、若い人たちは労働の意義についてわからなくなっている、という問題を重視すると述べた。

 会場からは、「人は金のためにだけ働くのではない」「仕事を通じて自己実現することが大切」「アイデンティティ=存在意義、つまり自分がこの世に生まれてあることをしっかり考えるために働く」という本質的な意見が飛び交い、白熱した議論が始まった。

 明光電子の根本敬継社長は「若者たちの人の道についての勉強の足りなさ」を指摘するだけではいけないとして、同社の場合はかなりの金額をかけて「仕事に生きることのゼミナール」に外部講師を招いて、きっちりとやっている事を明らかにした。そしてまた同社の給料が相対的に高いことも披露し、やはり報酬の高さは目標を達成することにつながると指摘した。

 ジーダットの松尾和利社長は、日本で唯一の半導体設計CADカンパニーであることを誇りに思うとして、「アナログ設計はとても難しい。年期のかかる仕事だ。しかし、若い人たちのために超のつくチャレンジをしたい。つまりは、アナログ設計の自動化に取り組む」ことを言明した。

 成電工業の滝澤啓社長は、レトロな半導体を作っており、また制御盤の作り込みにも注力しているが「やはり人材の育成、そして伝承が大変。またチームワークの重要性、つまりは和の精神が大切」と言明した。

 合成樹脂工業協会の専務理事の杉本利彦氏は「合成樹脂はプラスティックに端を発する材料で重要産業であるが、地味な業界なので学生が集まらない。SNSの社会ですぐ流行に飛びつく若い人たちにどうやってアピールしていくのか」との悩みを明らかにした。

 明治18年に創業し、創業137年の歴史を持つTANAKAホールディングスの代表取締役の田中浩一郎氏は「ギスギスした社風では100年以上生き残ることができない。連帯した力を活かし、伝統を守りながらも、常に挑戦し続けなければ100年以上存続できない」として会衆の感銘を得ていた。同社の場合はジュエリーや貴金属の販売が有名であるが、最近では半導体用ボンディングワイヤー、燃料電池向け触媒などで世界トップシェアを持ち実のところは産業向け分野の方がはるかに売り上げが多いのである。

 ダーウィンの進化論ではないが「強い者が生き残るのではない」「生き残ったものが強いのである」と言うのは誠に言い得て妙なのであり、会場からは変化を恐れていては、企業の存続は難しいと言う意見が続出していたのである。
(「企業100年計画ニュース」から抜粋)


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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