電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第472回

認知症BPSD予測・予防により介護負担軽減


社会実装へ複数プロジェクト進行中

2022/9/30

 厚生労働省が2020年に公表した資料では、日本における高齢者(65歳以上)の認知症患者数は約600万人とされる。団塊の世代が75歳以上となる2025年には、700万人前後に達する見込みで、その後も高齢者人口の増加に伴い認知症患者は2060年まで増え続けると予測されている。まさしく、高齢化社会は認知症と共存しながら、可能な限り患者のQoLを落とさず、いかに家族、医療・介護スタッフ、ボランティアの負担軽減と医療・介護保険への負担軽減を図るかにかかっている。

 認知症に対しては、診断機器、薬品、ヘッドマウントディスプレーによる脳トレ、食事療法、運動療法など、発症を未然に防ぐ、発症しても進行を遅らせるように様々なアプローチがされている。そのうちの1つとして、BPSD予測・予防による介護負担軽減の取り組みが始まっている。

認知症のBPSDは中核症状より厄介

 認知症の主な症状は、脳の神経細胞の障害、脳の細胞が死ぬことなどによって起こる認知機能障害である「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」に大別され、中核症状は、記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能障害、言語障害(失語)、失行・失認などである。

 BPSD(Behavioral and psychological symptoms of dementia)は、中核症状と環境要因・身体要因・心理要因などの相互作用の結果として生じる様々な精神症状や行動障害を指し、興奮、幻覚、妄想・物盗られ妄想、大声、性的逸脱行為、脱衣、焦燥、易怒性、攻撃性、帰宅要求、過干渉、らん集(収集)、暴力、昼夜逆転、徘徊、過食などとして表れる。このため、BPSDは、中核症状にも増して本人・家族の負担が大きい。また、進行する認知症の中核症状は改善が困難であるが、BSPDは適切なケアによって軽減が可能である。

浴風会、AMED研究開発事業で社会実装へ

 (福)浴風会(東京都杉並区)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の研究開発事業「BPSD予測・予防により介護負担を軽減する認知症対応型AI・IoTサービスの開発と実装」(20~22年度)に取り組んでいる。BPSDは、中核症状である認知機能障害とは別に本人の生活の質を低下させ、介護負担を増やす原因になっている。

 研究では、IoTデバイスで得られた情報と介護記録のデータをAI解析することで、BPSDの発症時期を予測し、発症する前に対応することで発症を抑え、介護負担軽減および介護の効率化による人材不足の解消を目指す。2年目の21年度は、開発されたIoT・AIシステムを介護現場に設置して、その有効性を明らかにする実証研究を中心に進め、22年度では、社会実装に向けた取り組みを進めている。

NECと保険2社が支援サービスの開発着手

 BPSDに関しては、22年9月9日、三井住友海上火災保険(株)、三井住友海上あいおい生命保険(株)、日本電気(株)が、センサー・AIを活用してBPSDを予測することにより在宅高齢者を支援するサービスの開発に着手すると発表した。

 戦略パートナーシップを締結する三井住友海上とNECは、三井住友海上あいおい生命とともに在宅でのBPSD発症予測にかかる実証実験を実施し、在宅高齢者を支援するサービスの開発を行う。

 NECの持つセンサー・AI技術に、保険2社の保険商品や、認知症高齢者東京アプローチ(正式名称:「AIとIoTにより認知症高齢者問題を多面的に解決する東京アプローチの確立」)の成果を組み合わせることにより、在宅認知症高齢者のQoL(Quality of Life)の向上と家族・介護スタッフの負担軽減を実現するサービスの社会実装を目指すとしている。

認知症高齢者東京アプローチ、パイロット事業を実施

 認知症高齢者東京アプローチは、AIとIoTを用いて認知症の行動・心理症状(BPSD)の発症を予測し予防支援策を導くことで、認知症高齢者のQoLの向上と家族・介護スタッフの負担軽減を図ることを目的とし、電気通信大学が東京都に「大学研究者による事業提案制度」で提案し、採択された事業。構成メンバーは、東京都、電気通信大学、順天堂大学、認知症高齢者研究所、認知症介護研究・研修センター、民間企業6社。

 21~22年度で、大学や研究所と企業の協力のもと、認知症の人のからだや環境のデータをIoTセンサーで収集し、BPSDの発症予測と予防支援のAIを開発するパイロット事業を実施している。また、引き続き、22年度に事業に協力できる介護施設を募集している。

 認知症の人たちに、心拍数などを測るセンサーを着けてもらい、からだに表れる不安の兆候や環境・行動の変化をIoTセンサーが見守り、AIがセンサー情報や環境データ、生活の様子と照らし合わせて、介護現場の状況をたくさん学べば、BPSDを予測できるようになると期待されている。BPSDの発症をAIが予測して、さらに、その人の状況に応じた適切なケア、カスタムメイドのケアを、ネットワークを介して介護スタッフや家族にアドバイスすることを目指している。

 AIには、認知症の人と接するときには「どのように接すればよいか」なども学習させ、BPSDを予防するためのよりよいケアをアドバイスできるように育てる考えである。

 こうして、AIが導き出すBPSDの発症予測や予防支援にもとづき、早め早めのケアを行うことができれば、認知症の人の不安を早期に解消し、介護スタッフの負担を大いに軽減することが期待できるとしている。

電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次

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