中国半導体の先行きを懸念する向きはかなり多いのであるが、少なくとも中国最大のメーカー、SMICの動きを見る限り、まったくもって止まっていない。それどころか、驚くべきことに1兆円を投じて中国天津に半導体工場を建設するというのであるからして、ただ事ではない。
中国半導体は、ここ数年間をかけて大型設備投資を断行している。かつて中国製造2025と言われた政府の手厚い半導体支援策が奏功して、中国の世界における半導体シェアは急速に引き上がってきた。生産シェアで言えば、すでに日本を凌駕しているのである。
皮肉なことに、半導体不足が続くことにより、中国の工場投資は予測よりも大きく押し上げている。そしてまた、国産化ロードマップを発表して以来、米国制裁リスクが増しているが、それでも中国半導体はめげることなく前進している。
3D NAND製造のYMTCは、第2工場を立ち上げており、128層の量産ラインを構築している。DRAM製造のCXMTは、北京に新棟を稼働させ、2023年は合肥第2工場を立ち上げる。CRマイクロは重慶の300mmラインを立ち上げており、BYDも寧波のパワー半導体を強化している。
ファーウェイ傘下の中国最大手のファブレスであるハイシリコンも16年度には45億ドル程度の売り上げであったが、20年度に至っては、この3倍以上となる139億ドルまで押し上げてきた。スマートテレビ向けにアプリケーションプロセッサーを供給するなど積極姿勢が目立っている。
そして何よりも、中国最大のシリコンファンドリーであるSMICの活躍は目覚ましいばかりだ。22年4~6月期の純利益率は33%を確保している。そして、かつてない大型投資に踏み切るのだ。すなわち、天津に約1兆円を投じる新工場計画を決定した。22年通期の設備投資額は7000億円近くになるとも言われている。
一方、半導体製造装置分野においても、国産装置導入率引き上げを狙うために、中国勢は全力を挙げている。装置メーカーの世界ランキング30社のうちに、NAURA、AMECなど5社が名前を連ねるに至っている。国産化ロードマップによれば、25年までに製造装置の国産化率30%を目標にするとしており、すでに現時点で20%を超えてきているのである。
セミコンチャイナでも中国装置企業の
出展は目立っている
エッチング装置ではAMECは中国市場の15%、洗浄装置ではACMリサーチは16%、縦型炉などの熱処理装置ではNAURAが19%、CMP装置では華海清科が15%の国内販売シェアを持つに至っている。
PVD装置においてもアプライドマテリアルズの68%に対してNAURAは27%を持ち、健闘している。アッシング装置では、米国のマトソンを買収したイータウン・セミコンダクター・テクノロジーがなんと、国内93%のシェアを誇っているのである。中国は装置の分野においては技術的なキャッチアップは難しいだろう、と見る向きもあったが、この分野においても、中国勢の大躍進には目を見張る必要があるのだ。
中国における工場撤退が相次ぐという報道も一部にはあるものの、少なくとも日本企業は積極的な設備投資に乗り出している。中国のエアコンにおいてトップシェアを持つダイキン工業は、蘇州に12万m²の新工場建設を決めており、一気増強を図る構えである。パナソニックも調理家電が絶好調であるために、これまた中国内に8万m²の土地を確保し、延べ4万m²の新工場を立ち上げることを決めた。シャープもアップル向けの液晶や部品の工場増強を続行している。これすなわち、日本メーカーの中国に対する期待感は決して衰えていないことがわかるのである。
米国の中国制裁は過熱する一方であるが、欧州勢はかなりクールに考えている様子がここに来てよくわかる。自動車分野においても、産業機械分野においても、中国はドイツをはじめとする欧州勢の上顧客であり、そう簡単に縁は切れない。切れないどころか、中国に投資し始めている。
もちろん、中国のGDPは22年4~6月期に0.4%増という超低水準であり、かなりの証券アナリストが22年通期においてもせいぜい2.5~3%増であろうと見る人たちが多いだけに、これまでのような「イケイケどんどん」は通用するとは限らないのは、確かではある。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2021年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。