電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第453回

量産車へ「車載用LiDAR」高まる機運


自動運転レベル3への搭載シナリオが動き出した

2022/5/20

 昨年のちょうど今頃、本連載で車載LiDARメーカーとして成功するカギは、自動車メーカー、ティア1メーカーと紐づいた自動運転プラットフォーマ―と開発時点からコラボレーションできているかにある、と執筆したが、2021年から22年直前まで舞い込んだニュースの数々にはまさにそんな未来を彷彿させるニュアンスが含まれている。

 ただし、車載関連の動きに精通した外資系デバイスメーカーの関係者からは「足元では自律走行への動きが少しトーンダウンし、電動化への動きが強くなっている。だが、中長期的にはシナリオに大きな変更はない」とのコメントが聞かれた。確かに、世界的にカーボンニュートラル社会の実現の一環となる環境対応車の普及促進が優先事項であることから、自動運転レベル3以上の本格始動は予定よりも若干後ろ倒しになる可能性もある。それでも、着実に自動運転レベル3以降を見据えて進んでいることは確かだ。

量産車への搭載シナリオが表面化

 以前は実証車両へのLiDAR搭載などが主流だったため、規模のメリットによるコストダウンを期待するには時期尚早な状況にあった。しかし、最近の主要LiDARメーカーから飛び出すアナウンスには、大手自動車メーカーの量産車への採用獲得案件が目立ってきた。

 直近の2022年4月後半に舞い込んだ日産自動車が現在開発中のクルマの緊急回避性能向上用運転支援技術「グラウンド・トゥルース・パーセプション(Ground truth perception)技術」では、次世代LiDAR技術を重要なコアと位置づけており、その次世代LiDAR開発を米Luminar Technologiesと共同で進めていることを公表。日産は同技術開発を20年代半ばまでに完了させ、順次新型車へ搭載しながら2030年までにほぼ全新型車搭載を目指しているようだ。つまり、30年には次世代LiDARが日産製新型車の大半に搭載されることを意味する。カメラ、レーダーと複数のADASセンサーからの情報を組み合わせ、時々刻々と変化する周辺状況を瞬時に分析し、自動で緊急回避操作を行うことを可能にしていくという。

 Luminarは同様に、22年1月にMercedes-Benzとも将来の乗用車向け高度自動運転技術開発でパートナーシップを締結しており、Luminar製「Iris Lidar」の搭載数が将来的に拡大することが見えている。さらに、Volvo Carsの次世代SUV、上海汽車集団(SAIC)のRブランドEVでもハード、ソフトの両面から自律走行に向けてLiDAR搭載に向けたパートナーシップを締結しているもようだ。

 量産車への搭載シナリオという観点では、21年後半から22年前半にかけて他にも複数社から同様のニュースが発表されている。たとえばイスラエルのInnoviz Technologiesは、具体名は非公開ながら世界最大の自動車メーカー1社に複数ブランドでLiDAR搭載が決まったことを明かした。最終的な受注高は66億ドル規模との予測を打ち出しており、同社製LiDAR「InnovizTwo」および車載グレードの「Perception Software」を提供する計画を持つ。

 米OusterもInnovizと時を同じくして、ソリッドステートフラッシュLiDAR「デジタルフラッシュ(DF)シリーズ」のAサンプル初号機を製造・出荷することを発表し、世界大手自動車メーカー1社が25年から生産開始予定の量産車両に搭載予定であることを公表した。また、米Ceptonは21年7月半ばにGeneral Motors(GM)から量産大衆車3種類のプラットフォームで複数モデルに導入予定であり、生産開始時期は23年に予定されていることを公表している。GMへの供給体制は、協業パートナーの小糸製作所がティア1、Ceptonはティア2となり、小糸製作所が日本国内でLiDARを製造し、米国へ出荷する形となりそうだ。22年4~6月にはCサンプル、23年には小糸製作所の静岡工場で量産開始が予定されているという。

 ハイエンド車種やフラッグシップ車への搭載では、ホンダ自動車も世界初の自動運転レベル3として国土交通省の新型指定を受けた「新型LEGEND」に仏Valeo製の自動運転システム(高性能車載制御ユニットや各種センサー)を採用。具体的には、Valeo製3D LiDAR「SCALA」5台、フロントカメラ2台を搭載し、車両周囲360度を検知する。ハードのみならず、データフュージョンコントローラー内ソフトウエアの最先端アルゴリズムなども駆使している。

日本で初公開のコンチネンタル/AEye製「HRL131」展示品(オートモーティブワールド2022展示ブースより)
日本で初公開のコンチネンタル/AEye製「HRL131」展示品(オートモーティブワールド2022展示ブースより)
 トヨタ自動車もLEXUS新型LSのフロントにデンソー製LiDAR搭載を正式アナウンスしているほか、四隅にはContinental製LiDARを搭載していると推測されている。さらにAEye技術を活用した独Continental製の長距離向けMEMSスキャニングLiDAR「HRL131」は、具体的な提供先は明かされていないが、ContinentalのLiDAR関連説明資料からは、24年生産開始予定の自動運転レベル3車両への搭載が予定されていることが推測される。

 このように、自動運転レベル3以上の量産ベースの新型車への搭載シナリオが具体化してきており、実車両への搭載は24~25年以降から本格化してきそうな気配である。同時に、規模のメリットにより低価格化も進んでいくことが期待できそうだ。

外資系LiDARメーカーで内製化の動き

 さて、前述の量産車へのLiDAR搭載をアナウンスしている外資系LiDARメーカーには、ある特徴が見えてくる。それは、内製化の動きだ。Luminarはその典型事例と言える。

 同社は低コスト化、サプライチェーンの安全性、性能向上を可能にするため、LiDAR中核部品全体で垂直統合を進めている。ここ数年の動きを見ても、17年にカスタム信号処理チップを得意とするブラック・フォレスト・エンジニア社を買収したのに続き、21年には独自のInGaAsチップ設計・製造パートナーだったOptoGrationを買収。ちなみに、LuminarのLiDARは1550nmのInGaAs領域であり、そのInGaAsチップ製造を担うOptoGrationは、マサチューセッツ州ウィルミントンにある専門の製造工場でLuminar設計の年間約100万個のInGaAsチップを生産する能力を持つと見られている。

Luminar製LiDAR展示品(オートモーティブワールド2022のコーンズテクノロジーズ展示ブースより)
Luminar製LiDAR展示品(オートモーティブワールド2022のコーンズテクノロジーズ展示ブースより)

 さらに22年には、22年4~6月期買収完了予定で高性能レーザーメーカーの米フリーダム・フォトニクス社を獲得した。これにより、次世代チップスケールレーザー技術、IP、生産専門知識を獲得し、レーザーチップの内製が可能になった。余談になるが、このLuminarの内製化の動きを見ていると、日本電産の永守CEOが「部品産業で世界一になるには、外からモノを買ってきたのでは勝てない、絶対に」とオンライン決算説明会でコメントされていたことがふと思い出された。

 一方、すべて内製ではないまでも、コアとなるASIC、SoCやソフトウエアは内製化、というLiDARメーカーも見受けられる。たとえば、米Ceptonは、照射用レーザーダイオードや検出用ダイレクトToF(Time of Flight)型Si APDsは単価1ドル未満の車載グレード成熟品としつつも、特許取得済みの独自技術のMMT(マイクロモーションテクノロジー)とMMT駆動用ASICチップ(1ドル強)で差別化している。

 また、米OusterはCMOSデジタルLiDARを特徴としており、独自設計のSoCも差別化の1つと見られる。17年に130nm品「L1」を開発して以来、19年に40nm品「L2」、21年に40nm品「L2X」と後継品をリリースし続けており、22年後半にはプロセスは非公開だが「L3」のリリースを予定しているようだ。ちなみにOusterは21年後半に、自動車連続生産向けソリッドステート式デジタルLiDARセンサーを開発した米センス・フォトニクスを買収した経緯がある。

 なお、まったく別の角度で、カナダのLeddarTechはLiDARへ新規参入するメーカーやLiDAR製品開発時間の削減を意識して、LiDARセンサー開発を容易に実現する「LeddarEngine」新バージョンを今春にリリースする動きも見られた。ルネサス エレクトロニクス製「R-Car SoC」に加えて、ザイリンクス製「Xilinx Zynq UltraScale+MPSoC」とも互換性があるなど、柔軟な設計開発に布石を打っている。また、21年後半にはクアルコムがLiDARを含む自動車部品大手のVeoneerを買収し、ADASや自動運転関連のソリューションを拡大することも明らかになった。

日本へ本格展開の気配も

 大手ティア1メーカーはすでに日本法人や日本支社を置き、以前から日本の自動車メーカーとも関係構築しているが、ここに来て、新興の外資系LiDARメーカーが日本への本格展開に乗り出す動きも顕著になっている。

 筆者が把握しているだけでも、米Ceptonは20年から日本に拠点を設置。米AEyeも21年6月から日本オフィスを開設している。米Ousterも日本にカントリーマネージャーを配置し、営業強化に動いている。いずれも半導体やティア1、LiDAR大手でキャリアを持つキーパーソンを抜擢しているようだ。

 大手自動車メーカーが集結する日本、ドイツ、韓国に照準を定め、現地で迅速に顧客対応できる体制を築こうという姿勢が伝わってくる。日頃の取材活動の中で、日本でもOEM数社と商談段階にある、などの話も聞かれ、今後、日本の自動車メーカーへのLiDAR搭載に向けた提案活動がより活発化することが予想される。

日本勢も車載LiDARへ開発促進

 こうした状況下、日本に目を向けてみると、22年2月にパイオニアが3D LiDAR開発から撤退を表明する動きはあったが、22年3月に東芝が手の平サイズで解像度1200×84の画質、最長計測距離300mを実現した「ソリッドステート型LiDAR」の開発を発表するなど、日本勢も健闘している。この東芝製LiDARは、高精度なインフラ監視やモビリティーの自動運転など様々な用途展開を想定し、23年度内の製品化・実用化を目指しているようだ。

レンズの3次元実装技術で投光器を小型化(提供:東芝)
レンズの3次元実装技術で投光器を小型化(提供:東芝)
 前回開発品では、LiDARを高性能なまま小型化できる2次元アレイの受光技術開発が特徴だったが、今回は投光器側を改良したもの。投光器サイズを小型化する高密度なモジュール実装技術や、計測距離伸長を実現する複数の投光器内モーター同士の同期制御技術(高精度なモーター制御技術)など、様々な独自技術が光る。東芝では今後、MEMSミラー電磁式によるマイクロモーターフリーの完全ソリッドステート型LiDARの実現や、さらなる受光感度向上などに取り組んでいく意向を示している。

 デンソーは前述のとおり、トヨタ自動車の新型LEXUS、新型MIRAIの高度運転支援技術「Advanced Drive」に新開発LiDAR(6世代目に相当する製品)やECUが採用されたことを21年春に発表済みだ。レーザー光の高出力化、受光センサーの高感度化、平面レベルのスキャン方式採用による広い角度検出など、独自技術が随所にみられる。

 ソニーからは直近で新たなLiDAR関連開発事案の発表はないが、21年後半に筆者がソニーの車載関連講演を拝聴する機会があった際、ちょうど開発中の車載LiDAR向け積層型SPAD(Single Photon Avalanche Diode)距離センサー「IMX459」への言及もあった。自動運転プロセスに必要不可欠な要素は、認識、判断、制御であり、AIも絡む構造の中、「従来の人間が見るためのものから、機械が見るためのものになる」変化に触れたことが印象的だった。

 直接正確な距離が出せ、データ量も軽く、リアルタイム地図が作成しやすい利点は、自動走行にも魅力的。拝聴したIMX459はdToF方式による距離計測、かつ光のスピードを15cm間隔で切れる点なども特徴としており、車載用LiDAR向けに活路も切り拓く。

 さらに昨年5月の本連載でも執筆したとおり、ソニーには産業機器向けに提供中のInGaAs受光素子もある。22年3月には、ソニーグループとホンダが高付加価値EVを共同開発し、モビリティー向けサービス提供と併せて新会社を設立し、事業化していく方向性も発表しており、ソニー製車載用LiDARの登場や搭載などの可能性もあり得なくもない、と思いを巡らせてしまう。今後の展開が楽しみだ。

 また、三菱電機も直近ではLiDAR関連の発表はないものの、20年3月に「MEMS式車載LiDAR」の開発に成功したことを公表しており、さらなる小型化・垂直視野角拡大を進めながら、25年以降の実用化を目指す方向性を示しており、今後の展開に期待がかかる。

 このように、24~25年以降に向けたLiDAR搭載シナリオが着実に進行している。技術革新のスピード感、量産時を見据えた内製化や低コスト化への迅速なビジネス戦略の実行、ターゲット市場を見定めた拡販戦略、昨年5月の本連載で触れた開発費など資金面対策も見据えたIPOの動きなど、先を見据えて間髪入れずに布石を打っていく各社の歩みからは学ぶべきことも多い。日本勢からも将来の量産車に向けた採用獲得など明るいニュースが聞こえてくることを楽しみにしながら、今後も刻一刻と進化し続ける動向を追いかけていく。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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