電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第449回

次世代の太陽電池を支えるn型技術


TOPConは本格量産へ、SHJは低コスト化模索

2022/4/22

 現在の結晶シリコン太陽電池(SiPV)は、PERC(Passivated Emitter Rear Contact)技術で高い変換効率を実現しており、量産用の大面積セルでも変換効率が23%を超えている。そして、Ga(ガリウム)ドープのSiウエハーを使用することで、p型特有のLID(光誘起劣化)やLeTID(高温光誘起劣化)の問題が解決できるが、変換効率の上限が近づいており、これ以上の大幅な性能向上は難しい。

 そこで、p型PERCを置き換える次世代技術としてn型が注目されている。n型技術としては、TOPCon(Tunnel Oxide Passivated Contact)やSHJ(ヘテロ接合)、IBC(バックコンタクト)などが提案されているが、近年はTOPConの開発が活発化しており、中国を中心にTOPConモジュールの量産に乗り出すPVメーカーが増えてきた。

TOPConはJinko Solarが先行

 TOPConは電極界面でのキャリア再結合が低減でき、LIDおよびLeTIDが少なく、両面発電にも対応している。また、PERC技術との互換性も高く、理論限界効率は28.7%とされる。これまでに、Jinko Solar、Jolywood、Trina Solar、LONGiなどの中国企業が25%以上のセル変換効率を実現しているが、量産ではJinko SolarとJolywoodが先行している。

 Jinko Solarは163.7mm角のTOPConセルで変換効率25.4%(JETで認証)を達成しているが、TOPCon技術を導入した新型モジュール「Tiger Neo」は、182mmウエハーを採用し、マルチバスバー(MBB)、ハーフカット、タイリングリボンなどの技術を組み合わせることで、モジュール変換効率22.3%、量産モジュールの最大出力は620Wに達する。

22年はセル生産能力の4割がTOPConに(Jinko Solar)
22年はセル生産能力の4割がTOPConに
 (Jinko Solar)
 22年1月には安徽省合肥市でTOPConセルの新工場(第1期の生産能力8GW)が完成し、同年3月には、浙江省海寧市の生産拠点でもTOPConセルの生産を開始した。22年のTOPConの生産能力はセルが16GW、モジュールが10GWになる。

 Jolywoodは7年前からTOPConの開発に着手しており、182mm角セルで25.4%(中国計量科学研究院で認証)の変換効率を実現している。20年には第2世代の「J-TOPCon 2.0」を開発した。TOPConセルを用いた高出力モジュール「NIWA」を発表しており、210mmの大型セルを用いた「Niwa Max」の最大出力は700Wとなっている。

 TOPConの生産能力は21年が3.9GWだったが、22年にはさらに8GW増強する計画。また、第3世代の「J-TOPCon3.0」の開発に取り組んでおり、25年までに25~27%のセル変換効率を目指しているが、24年以降はタンデム型の開発にも着手するという。

Trian Solarが最高効率

 Trina Solarは19年にTOPConセル(247.79㎝2)で変換効率23.22%を実現したが、22年3月には、210mm角の大型セルで25.5%(中国計量科学研究院で認証)を達成した。TOPConセルでは世界最高効率になる。

 一方、210mmベースの次世代のi-TOPCon技術を採用した新型モジュール「Vertex N」を開発し、一部で生産・出荷を開始している。132セル(ハーフカットセル)、両面発電型のモジュールの最大出力は685W(モジュール変換効率22.1%)になる。

 20~21年の2年連続でモジュール出荷トップだったLONGiもTOPConおよびSHJの開発に力を入れている。21年には、n型TOPConで25.21%、p型TOPConで25.19%、さらに、n型SHJで26.30%の変換効率を達成しており、182mmのn型TOPConセルを用いた新型モジュール「Hi-Mo N」はモジュール出力が570Wとなっている。

 Risen Energyは21年6月にn型技術を採用した次世代モジュール「NewT@N」を発表した。「NewT@N」は210mmセルを採用し、TOPConとSHJを組み合わせているのが大きな特徴で、トンネル酸化膜とアモルファスSiを併用することで、パッシベーション効果を改善した。モジュール変換効率は22.5%、最高出力は700Wで、世界市場ではすでに販売を開始しているが、日本では22年下期の市場投入を予定している。

 Suntech PowerはTOPConセルで24.5%の変換効率を実現しており、22年の主力モジュールとして、n型TOPCon技術と182mmウエハー/セルを導入した「Ultra 5 Pro(モジュール変換効率22.1%、出力550~570W)」をラインアップしている。22年1月には、無錫市にTOPConセルの新工場が完成し、生産を開始しているが、22年下期からモジュールの販売を開始する予定だ。

 Chint Solarもn型TOPConセルで変換効率24.79%、182mmセルを用いたモジュールで575W超(モジュール変換効率22.25%)の出力を実現している。また、中国・海寧市でTOPConの新工場を建設しており、22年第1四半期(1~3月)からモジュール(6GW)、第2四半期(4~6月)からセル(2GW)の生産を開始する。TOPConモジュールは22年秋から順次販売を開始する。

 Canadian SolarもTOPConやSHJなどのn型技術を開発しており、量産はSHJが先行しているが、早ければ、22年秋からTOPConの量産を計画している。

 中国以外のPVメーカーもTOPCon技術に着目している。Hanwha Q Cells(韓国)はn型Si基板の裏面側にNEO Power Transmitterと称するトンネル酸化膜を配置した「Q.ANTUM NEO」を開発し、同技術を導入した新型モジュール「Q.TRON」の市場投入を計画している。RECグループ(ノルウェー)も21年に第2世代のn型TOPConセルを用いた新型モジュール「N-Peak 2」を発表した。モジュール(120セル)出力は最大375Wになる。

LONGiはSHJの低コスト技術提案

 SHJは、低い温度係数、高い両面発電性能、プロセスの簡素化といった利点があるが、製造コストが高く、生産能力はまだ少ない。Voc(解放電圧)はTOPConよりも高いが、アモルファスSiの吸収損失があるため、Jsc(短絡電流密度)が低下するという課題がある。

 SHJのパイオニアはパナソニック(旧三洋電機)で、1997年からSHJの量産を開始し、これまでにHBCセルで変換効率25.6%、モジュール(72セル)で23.8%を実現したが、22年3月末でPV事業から撤退した。

 一方、中国や欧州の企業は活発にSHJ技術の開発に取り組んでおり、Hanergy、GS Solar、TW Solar、LONGi、Huasunなどの中国企業はいずれも25%以上の変換効率を実現している。

 Huasun Energyは中国におけるSHJのパイオニアで、SHJの技術開発および生産で8年以上の実績がある。ラボでの最高効率は25.26%だが、生産ラインで試作したSHJセルの最高効率は25.2%、平均効率は24.4%となっている。210mmセルを用いたモジュール(ハーフカット132セル)の出力は700Wに達する。

SHJの生産能力を増強(Huasun Energy)
SHJの生産能力を増強(Huasun Energy)
 現在の生産能力はセルが750MW、モジュールが500MWだが、22年上期にモジュールの新工場が完成する予定で、モジュールの生産能力が2GWになる。SHJモジュールは中国や欧州で販売しているが、日本での販売も計画している。

 Canadian Solarは、22年4月からn型SHJ技術を用いた新型モジュール「HiHero」の量産を開始した。「HiHero」は182mmのハーフカットセルを使用しているが、ハーフカットウエハーから直接セルを作成するため、セルの切断による性能劣化が抑制できるという利点がある。モジュール変換効率は22.5%、最大出力は440Wで、22年7月から日本市場で販売を開始する。

 JA Solarは現在、Gaドープのp型PERCセル(182mm)を用いた新型モジュール「DeepBlue 3.0」を販売しているが、次世代技術として、n型PERCやn型SHJの開発も進めている。Trina Solarも210mmセルとSHJを組み合わせたPVモジュールを開発している。

 欧州企業では、Meyer Burger(スイス)が21年5月からドイツでSHJセル&モジュールの製造・販売を開始しており、ENEL Green Power(イタリア)、Ecosolifer(ハンガー)、Hevel(ロシア)もSHJを量産している。

 LONGiは21年10月に166mm角のウエハーを使用したSHJセルで変換効率26.30%(ISFHで認証)を達成したが、22年には、Gaドープのp型SHJセルで変換効率25.47%(ISFHで認証)を達成したと発表した。166mmウエハーを用いたp型SHJセルでは世界最高効率で、p型Siウエハーを使用することで、セルコストの低減が期待できるとしている。

 さらに、In(インジウム)フリーのターゲットを用いた透明電極を開発し、これを用いたSHJセルで変換効率25.40%(ISFHで認証)を達成した。Inを使用しないことで、製造コストの低減が可能と説明している。

24年にはコストが低減

 PV InfoLinkの調査によると、TOPCon、SHJ、IBCを含めたn型技術全体の生産能力は20年が14GW(TOPConは6.3GW)だったが、22年は62GW(TOPConは37.4GW)、23年には124GW(TOPConは80.7GW)まで拡大すると試算している。そして、TOPConの生産量は20年が3.0GWだったが、22年は11.5GW、23年は24.4GWまで増えると予測している。

 現在主流のp型PERCとn型のコスト比較では、ウエハー価格に大差はないものの、セル価格はTOPConの方が高価で、ノンシリコンコストについても、現状では、TOPConの方が高い。ただ、生産ラインの最適化により、24年にはTOPConの製造コストはPERCと同水準まで下がると分析している。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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