電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第448回

「キオクシア岩手」に行ってきた。


K2の建設開始、北上市もインフラ面で全面支援

2022/4/15

 NANDフラッシュ大手のキオクシアが、国内主要生産拠点の1つであるキオクシア岩手(岩手県北上市)で第2製造棟の建設を開始、2022年4月6日に起工式を開催した。筆者もその起工式を取材する機会に恵まれ、現地で建設現場の様子や現在稼働中の第1製造棟(K1)のクリーンルームを視察した。工場がある北上市も駅前の再開発事業に着手するなど、インフラ面の整備にも力を入れる。地域活性化の好機と見て、全面支援の姿勢を強調した。

「四日市集中生産」から脱却

 東芝のメモリー事業が分社化して発足したキオクシアは現在、三重県四日市市に主要工場を構え、NANDフラッシュを生産している。四日市工場に現在、工場5棟(N-Y2/Y3/Y4/Y5/Y6)が稼働しているほか、4月には最新鋭の第7製造棟(Y7)が竣工。今後需要動向を見ながら設備導入を行っていく。

キオクシアの早坂伸夫社長
キオクシアの早坂伸夫社長
 キオクシアはこの四日市工場での集中生産体制を他社にはない大きな強みとしており、5棟の建屋を連結、工程ごとにウエハーが工場間を行き交い、「1つの巨大工場として運営」(早坂伸夫社長)している。集中生産による効率的な生産体制はメリットが大きい一方、やはり生産上のリスクをすべて取り除くのは難しく、BCP(事業継続計画)の観点からも、複数拠点での生産体制が求められている。実際に四日市工場も災害や停電といったトラブルにここ数年見舞われており、19年には停電被害、22年に入ってからは不純物混入による操業停止を起こしている。

 生産リスク低減に向け、キオクシア岩手(北上工場)の存在は今後より一層大きくなりそうだ。北上工場ではK1の建設を18年から開始、19年に竣工し、現在は96層世代以降の3D-NANDを中心に生産を行っている。

K2竣工は23年

K2の建設現場(22年4月撮影)
K2の建設現場(22年4月撮影)
 21年からK2建設に向けた土地整備工事も進め、このほど建屋建設を開始した。K2の建屋面積は約3.1万m²で7階建て。竣工は23年を予定しており、需要動向を見ながら順次製造装置の導入を進めていく。四日市工場やK1と同様に免震構造を採用するほか、太陽光パネルなど再生可能エネルギーを積極的に活用。環境面にも配慮した工場となっている。なお、量産開始時には162層世代(BiCS6)以降の生産を計画している。製造装置への投資については、パートナー企業であるウエスタンデジタルの共同投資はまだ確定していないが、今後協議を続けながらジョイントベンチャー(JV)の枠組みを作っていくものと見られる。

 また、生産棟の建設に加えて、エンジニアリング業務を担当するスタッフの執務スペースとして管理棟の建設も進めている。地上13階地下1階建てで延べ床面積は約3.9万m²。約2000人のスタッフが執務を行えるスペースを確保しており、将来的な人員拡大に備える。

 北上工場ではK2の稼働開始など生産規模拡大にあわせて、新卒採用を強化しており、今春も134人を採用。来春も245人の採用を計画しているほか、キオクシア本体でも今春401人、来春503人の採用を予定している。人材獲得競争が激化するなか、「社会全体で半導体が注目されており、学生の関心も高まっている」(早坂社長)として、より一層採用活動に力を入れていく考えだ。

 現在、稼働中のK1の建物面積は約4万m²。常時300人以上のスタッフが働いているが、その多くがラインエンジニアやマシンキーパーなど製造装置のメンテナンスや状況確認を行う業務に従事しており、徹底した自動化を進めている。筆者もK1のクリーンルームを見学したが、目視ではオペレーターやエンジニアを確認することができなかった。

K1のクリーンルーム内部
K1のクリーンルーム内部
 K1は5階建てでクリーンルームは2層構造となっている。下層および上層の各クリーンルーム下部にサブファブと呼ばれるエリアがあり、そこにチラーや真空ポンプなどの付帯設備が設置されている。また、空調も従来あるダウンフロー方式でなく、横方向から空気を流す「SWIT」方式を採用。近年は製造装置が発する熱が問題となっており、ダウンフロー方式だと暖流が発生する懸念があるため、空気の取り入れ方を見直しているという。

「北上川バレー」で地域活性化へ

 起工式にはキオクシア社長の早坂氏のほか、岩手県知事の達増拓也氏、北上市長の高橋敏彦氏(※「高」の正しい表記ははしご高)などが参加。達増岩手県知事は「キオクシア岩手がある北上川流域での半導体産業の集積に力を入れる」として、米国シリコンバレーに倣って、「北上川バレー」と呼び、県全体で支援を行っていく姿勢を強調した。

 また、髙橋北上市長もキオクシアの進出によって、「活気のある町になり、都市機能が大きく変わってきている」と、地域活性化につながっていると言及。こうした流れをより加速させるべく、市では昨年度に「都市再生推進課」を新たに設置。現在、北上駅東口エリアで再開発事業に着手しており、ビジネスオフィスなどインフラ整備にも力を入れていく姿勢を強調した。

 北上のように大規模な工場の進出によって、地域全体が活性化する好循環は半導体産業では今後も期待できそうだ。その筆頭はTSMCが進出を決めた熊本県だ。熊本県はソニーや東京エレクトロンなど、以前から半導体産業が集積しているエリアでもあるが、TSMCの存在によってそのレベルはもう一段引き上がりそうだ。幹線道路や鉄道などの交通インフラ整備はもちろんのこと、商業施設やホテルの建設なども今後期待される。

 個人的な今後の取材テーマとしても「半導体工場の進出に伴う地域経済への波及効果」については力を入れて取り組んでいきたいと考えている。TSMCもこの4月から建設工事に入ると見られており、現地取材をベースに情報発信を行っていければと考えている。

電子デバイス産業新聞 編集長 稲葉 雅巳

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