電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第447回

メタバースで注目高まるスマートグラス


メガネ型はマイクロディスプレーの動きに注目

2022/4/8

メタバースではVR向けHMDが先行

 2022年1月5日から米ラスベガスで開催された「CES 2022」では、VR/AR/MR関連の発表が目立った。中国のTCLはコンセプト品ながらもARグラスを発表し、米ビュージックスの初の両眼ARグラスはアワードを受賞。マイクロソフトとクアルコムは、ARヘッドセット用チップ開発での協業を発表し、エヌビディアは3Dコンテンツ制作者をサポートするプラットフォーム「Omniverse」を公表した。

 最近盛んに耳にする「メタバース」空間において、ヘッドセットデバイスの使用が急速に普及している。現状、没入型のVR用ヘッドマウントディスプレー(HMD)がメーンとなっており、ディスプレーの解像度や人体の動きを感知するセンサーなどが同デバイスで重視されている。また、HMDでは近年、低遅延で広視野角の有機ELディスプレーが人気だったが、一層の高解像度が要求されるようになったことで、液晶ディスプレーの採用が復活しているのは面白い動きだ。

 メタバースとは、meta(超~)とuniverse(宇宙)の造語で、仮想空間において現実世界のような活動ができる空間のことを指す。現在はアニメーションに近い自分のアバターがメタバース空間で活動するのがメーンだが、将来的には、3次元の仮想空間にもう1つの現実世界が構築される、パラレルワールドのようなものに進化するらしい。一説では、来たるべきよりリアルなメタバース世界の構築のために、以前からスマホのカメラについているセンサーでは、すでに現実世界の3D画像が収集されているという。そこでは、より現実空間との境を無くすべく、現在メーンストリームとなりつつある没入型のVRグラスよりも、オープンな透過型AR/MRスマートグラスがメジャーになるとみられている。

民生用は高機能なメガネを目指す

 AR/MRに用いられる透過型のスマートグラスが目指すのは、メガネそのものだ。様々な機能を搭載した上にメガネと変わらないようにする技術は非常に高度で、グラス側に通信、演算、電源の機能が実装されて1つで動くようになるには、技術的なブレークスルーが必須だという。バッテリー、CPU、光学系などをどう小型化し、軽量化し、発熱を抑えるかということは今後も課題であり続けるのだろう。

 透過型のスマートグラスは産業用途での採用が先行しており、スマートフォンと連携したり、別途バッテリー機器とセットになって動作するものが多い。産業用途では軽量化や長時間身に着けても疲労しないような人体工学的改善が進められており、その用途や要求される機能から、メガネそのものを目指す流れにはない。しかし、スマホの次世代デバイスとして期待されてきたスマートグラスが普及拡大していくには、コンシューマー用途でブレークする必要があるため、スタンドアローンで動作するスマートグラス(=高機能なメガネ)を実現することを目標とし、単独で動作可能な機種の発表が出始めている。

シャオミーは単独動作で51gの軽さ実現か

 スマートグラス関連の開発には米国のほか中国勢も注力しており、新製品やコンセプトの発表が相次いでいる。

 21年10月には、中国大手スマホメーカーの小米科技(シャオミー、北京市)が発表した、重さ51gの「Xiaomi Smart Glasses」が話題となった。販売価格や時期は明らかにはなっておらず、ほぼコンセプト発表だが、「200万ニットのピーク輝度を持つモノクロディスプレーソリューションで、スマホのセカンダリーディスプレーとしてではなく、独立して操作機能を持つ新しいスマート端末」と位置づけている。

 発表動画を見ると、片目に表示が出る単眼タイプで、クアッドコアARMプロセッサー、バッテリー、タッチパッド、Wi-Fi/Bluetoothモジュール、Android OSなど、わずか51gの筐体の中にミニチュアセンサーや通信モジュールを含む、合計497のコンポーネントを統合したという。このため、基本的な通知、通話表示などに加えて、ナビゲーション、写真の撮影、プロンプター、リアルタイムのテキストと写真の翻訳などの機能を、グラス単体で動作することが可能だ。また、XiaoAiAIアシスタントにより、重要な情報をタイムリーに表示することができる。

 モノクロディスプレーには、マイクロLEDを採用。光を180度で屈折させる光導波路技術を用い、光導波路レンズの内面にエッチングされた微細な格子構造が光を独自の方法で屈折させ、人間の目に安全かつ正確に透過させている。光の屈折プロセスでは、光線が無数に跳ね返ることで人間の目で完全な画像を見ることができ、着用時の使いやすさを大幅に向上させた。ほかの製品のような、複雑なマルチプルレンズシステム、ミラー、ハーフミラーを使用せず、1つのレンズ内で処理できることが、軽量化に寄与した。また、ディスプレーチップの大きさは2.4×2.02mmで、ピクセルのサイズは4μmを実現。これにより、ディスプレーをメガネフレームに完全に収めることができたという。

 22年1月には、中国大手テレビメーカーのTCLもARグラスのコンセプトモデル「LEINIAO AR」を、CES 2022において発表した。詳細は不明だが、光学ホログラフィック導波管技術と、2つのフルカラーマイクロLEDを搭載するという。テンプル部分をタッチして操作し、電話やビデオメッセージ、スケジュールやリマインド、ホームセキュリティーなどにアクセスすることが可能で、複数の仮想ディスプレーを映し出して作業することもできるようだ。

GAFAはマイクロLEDに高い関心

 米国勢は、老舗のビュージックスやイメージン、Kopinといった軍需を中心としたマイクロデイスプレーメーカーのほか、GAFAがスマートグラス関連の開発に注力している。

 アップルが22年に上市すると噂されるHMDには、マイクロディスプレーと7型のディスプレーが搭載され、ソニーがマイクロ有機ELディスプレーを供給するといわれている。ソニーのマイクロ有機ELはデジカメのEVF(電子ビューファインダー)向けでトップシェアを持ち、すでに実績がある。アップルはマイクロLEDにもアプローチしており、14年にマイクロLEDベンチャーのLuxVueを買収し、HMDやARグラスだけでなく、アップルウオッチにもマイクロLEDを採用する計画を持つという。

 メタに社名変更した旧フェイスブックは、ヘッドセットメーカーのOculusを傘下にし、20年3月には英マイクロLEDメーカーのプレッシーとの協業を発表している。これにより、メタが開発中のARグラスには、プレッシーがマイクロLEDを独占供給すると見られている。メタは、16年にもアイルランドのLEDベンチャーInfiniLEDを買収している。

 グーグルもARグラスの開発を積極化している。Google Glassは民生用での展開を一旦は断念したものの、その後業務用に特化したエンタープライズ版で事業展開してきた。20年6月には、カナダのスマートグラスメーカーであるNorthを買収したことで、再び民生向けも手がけるのではないかとみられている。

マイクロディスプレーは有機ELとLEDの2択か

 スマートグラスに搭載されるディスプレーは、小型化できるという点で、これまでにシリコン有機EL、HTPS(高温ポリシリコン)、LED、MEMS、LCOSが採用されてきている。製造技術が進展したことで、今後は有機ELかマイクロLEDの2択になっていきそうだ。調査会社のDSCCによれば、スマートグラスに搭載されるマイクロディスプレーの中で、最大の市場を形成すると予想されるのがSiOLED(シリコン有機EL)だという。通常のディスプレーのようなTFT(Thin Film Transistor)ではなく、シリコン基板上に形成する高精細な有機ELディスプレーで、半導体技術を持つエプソンやソニーなどが手がけている。エプソンは自社のスマートグラス「モベリオ」に搭載しており、ソニーはすでにEVFで高シェアを獲得しているほか、中国Nrealのスマートグラスなどに採用されている。

 シリコン(マイクロ)有機ELはエプソン、ソニーのほか、イメージン、コーピン、仏マイクロオーレッドなどが手がけている。近年はBOEやLakeside、Seeyaといった中国勢が参入してきており、17年以降、生産体制の構築に50億ドル以上を投資しているという。

 マイクロLEDは、単色での採用が進んでおり、すでにスマートグラスメーカーのビュージックスが、中国のJade Bird Display製の単色マイクロLEDを次世代グラスに採用することを発表している。マイクロLEDで期待されるのがモノリシック型のマイクロLEDだ。モノリシック型とは、シリコン基板上(窒化ガリウム基板)に青色(B)のLED素子を形成し、赤(R)・緑色(G)の発光は波長変換させてRGBを発光させるものだ。発光素子を一括で作り込むために、高精細化が可能とされている。TCLでは、ARグラスのコンセプト製品でフルカラーのマイクロLEDを搭載する計画を発表している。

 スマートグラスは、製品化やコンセプトの発表のみならず、搭載されるマイクロディスプレーも参入各社により研究開発や量産計画が意欲的に進められている。22年は、スマホの次世代を担うコミュニケーションツールとして、スマートグラスがその第一歩を踏み出す年となりそうだ。

電子デバイス産業新聞 編集部 澤登 美英子

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