電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第445回

露のウクライナ侵攻、自動車産業にも多方面で影響


長期化で原材料価格の高騰・供給不足に拍車

2022/3/25

 ロシアによるウクライナ侵攻が開始されてから約3週間、両国ともエネルギーや鉄鋼資源の主要な供給国であることから、その影響は様々な製造業へと広がりを見せている。自動車業界も例外ではなく、この情勢が長期化すれば、車載半導体・車載部品の供給不足にさらに拍車がかかる懸念があるほか、ロシア市場に進出している自動車メーカーなどでは、現地での販売・完成車工場の稼働停止に加えて、事業の撤退を検討する動きも聞こえてくる可能性もある。

 欧州自動車部品工業会(CLEPA)よると、ウクライナでは西部地域を中心に自動車産業が集積しており、欧州系の自動車部品メーカー7社が配線・ワイヤーハーネスを生産。すでにフォルクスワーゲン(VW)やシュコダが、完成車の生産に短期的に影響が出るとの懸念を明らかにしている。また、ロシアには世界の主要自動車メーカーの生産工場が30カ所以上立地。日系OEMでは、トヨタならびに日産がロシア西部のレニングラード州サンクトペテルブルクに生産工場を有している。

 一方、長期的な課題としては、ガスやメタル材料の原材料不足や価格上昇が懸念される。電子デバイス産業新聞(3月10日号)で既報の通り、ネオンガスは半導体の製造工程で必要とされ、ウクライナが主要供給国の1つ。また、電気自動車の普及により需要が倍増すると予測されているLiBの生産に必要なニッケルは、ロシアがニッケル鉱石の重要な資源国となっている。

 3月8日のロンドン金属取引所では、経済制裁によりロシアからの供給が停滞するとの懸念からニッケルの相場が暴騰。当面の取引停止が発表されている。カーボンニュートラルの実現に向けて、電動化戦略を推し進めるOEM各社にとっては、新たな逆風になることは必至だ。

日系OEMで相次ぐ販売・輸出停止

ロシアのサンクトペテルブルク工場で生産しているRAV4(提供:トヨタ自動車)
ロシアのサンクトペテルブルク工場で生産しているRAV4(提供:トヨタ自動車)
 トヨタ自動車は、「世界中の皆様と同じようにウクライナの人々の安全を憂いており、一刻も早く平和で安全な世界が戻ることを願いながら、ウクライナ情勢を注視している。ウクライナとロシアで事業を行う企業として、私たちが何よりも優先していることは、すべての従業員、販売スタッフ、仕入先の皆様の安心と安全。トヨタは、広く公正な視野で事態を見極めた上で、必要な意思決定を行った」とのコメントを発表。ウクライナトヨタでは、ロシアによる侵攻が始まった2月24日付ですべての事業活動(販売・サービス拠点数:37拠点)を停止。また、ロシアトヨタでは供給問題により、3月4日から当面の間、サンクトペテルブルク工場の稼働および完成車の輸入を停止(販売・サービス拠点数:168拠点、サンクトペテルブルク工場:ロシア市場向けRAV4とカムリを生産)している。

サンクトペテルブルクにある日産ロシア製造会社(提供:日産自動車)
サンクトペテルブルクにある日産ロシア製造会社(提供:日産自動車)
 日産自動車では、ロシアにおける事業については車両の輸出を停止するとともに、サンクトペテルブルク工場(SUVエクストレイルを生産、年産4.5万台)の稼働も近日中に停止するとしている。また、同社は「日産ケア基金」を創設し、従業員とその家族を含め、今回のウクライナ危機に影響を受けている人々を支援するための幅広い取り組みを進めていくと発表。内田誠CEOは「私たちは、多くの人々や家族、そして私たち日産ファミリーのメンバーが苦しんでいることに心を痛めている。私たちは、日産ケア基金を設立し、従業員とともに、この計り知れない人道的危機に24時間体制で対応している国際的な取り組みを支援していく。そして、一刻も早くこのような状況が終結することを願っている」と語った。

 ホンダは、ロシア向けの四輪車・二輪車の輸出を一時停止している。ロシアに対する経済制裁の影響から、決済や資金回収ができなくなるリスクがあるとともに、物流の混乱で船による完成車の輸送が難しくなっていることが背景にある。なお、同社はロシアに生産拠点は持っていない。

 スズキも、ロシアにおける物流の停滞などを受けて、四輪車ならびに二輪車の輸出を停止したと明らかにしている。日本からは軽自動車・二輪車、ハンガリーからSUVをロシア向けに輸出しており、20年の現地販売台数(四輪車)は約8000台。スズキもロシアに生産拠点を有していない。

欧州自動車メーカーにも影響深刻

 欧州自動車産業では、車載部品や車載半導体が新型コロナの感染拡大ですでに逼迫した状況にあったが、ウクライナ情勢の悪化により、その状況がさらに深刻化することが見込まれている。海上輸送や空輸、陸路による中国からの物流も一部のルートで閉鎖され、ますます困難な状況に直面している。

 ドイツ自動車産業連合によると、部品の逼迫でドイツの自動車メーカーは多くの拠点において、生産調整を余儀なくされている。ドイツからロシアへの乗用車輸出台数は3万5600台(21年ベース)、ウクライナは4100台(同)。総輸出台数に占める割合は1.7%。しかし、ドイツの自動車メーカー、自動車部品メーカーはロシアに計40カ所以上、ウクライナに6カ所の生産拠点を有している。ロシアではドイツOEMが年間約17万台の車両を生産し、ロシア自動車市場の約2割をドイツOEM製車両が占めており、その影響は決して小さくない。

韓国OEMが強いロシアの自動車市場

 英調査会社LMC Automotiveによると、21年の世界新車販売台数は、前年比4.4%増の8120万台となった。前年のマイナス成長から一転、プラス成長を果たしたものの、コロナ禍前の9000万台を超える規模からは依然としてほど遠いレベルに留まっている。半導体・部品の供給不足により、ディーラー在庫は低水準となる一方で、割引は低く、販売価格は高値で推移する結果となっている。国別の販売台数ランキング上位は、1位中国、2位米国、3位日本で前年から変動はない。


 一方、ロシアにおける21年の新車販売台数(小型商用車含む)は、前年比4.3%増の166.7万台となり、2年ぶりのプラス成長を記録した。国別ランキングでは第10位にランクする規模で日本の3分の1程度。

 メーカー別の販売台数を見ると、第1位は35.1万台を販売したロシアのアフトワズで、前年に引き続き首位を堅持している。第2位にランクしているのは韓国の起亜で20.6万台、第3位も同じく韓国の現代自動車で16.7万台としており、韓国勢の合計販売台数はアフトワズの販売台数を上回る。日本勢を見ると、トヨタが9.8万台を販売し第5位にランクしているほか、日産が5.1万台を販売して第9位にランクしている。そのほか、中国車も好調で、長城汽車は前年比2.3倍の3.9万台、奇瑞汽車は同3.2倍の3.7万台と大幅なプラス成長を果たしている。

 なお、22年の新車販売台数は、当初前年を上回る172.2万台と予測されていたが、現在の情勢を踏まえるとマイナス成長は必至であり、どこまで縮小するのか先行きが見通せない状況にある。

電子デバイス産業新聞 編集部 清水 聡

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