電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第444回

ロボットベンチャーへの出資がさらに加速


1億ドル超えの大型案件も増加

2022/3/18

 ロボット技術に対する期待が高まっている。生産年齢人口の減少による人手不足対策としての役割に加え、非接触、ソーシャルディスタンスの確保、遠隔化、無人化、省人化、三密回避といった感染症対策の面からもロボット技術が活用できるという認識が高まっているためだ。そういった状況を受けて、ロボット製品を開発するスタートアップ・ベンチャーへの注目度も高まっており、投資会社などによる出資も相次いでいる。

 筆者の試算では、直近の12カ月(2021年4月~22年3月)で、ベンチャー投資会社などからロボットスタートアップ・ベンチャーに約50億ドルが出資されたとみており、1回の資金調達で1億ドル以上の出資を受けた企業も10社あった。その10社のなかで最も大きな資金調達を実施したのはCMR Surgical(英ケンブリッジ)と、Nuro(米カリフォルニア州)で、いずれも6億ドルの出資を得た。


   CMR Surgicalは、手術支援ロボット「Versius system」を手がける14年設立の企業。Versius systemは、切開の範囲を最小限にとどめ、患者の身体的な負担とリスクを抑える「鍵穴式手術」に対応する手術支援ロボットで、19年から本格的な販売を開始し、欧州を中心に、豪州、インド、中東などでも採用されている。

   Nuroは、グーグルの自動運転車プロジェクトのメンバーなどが16年に設立したベンチャー企業で、車道を走行する大型の配達ロボットを開発しており、カリフォルニア州マウンテンビュー、テキサス州ヒューストン、アリゾナ州フェニックスなどで配達実証を進めている。手術支援ロボットと配達ロボットというまったく異なる分野に取り組む両社だが、実は共通点がある。いずれの企業にもソフトバンクグループ(株)が主導する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」が出資しているということだ。

ソフトバンクが大型出資を複数実施

 ソフトバンクグループの孫正義会長は、2021年9月に開催した自社イベントで、「スマートロボット」に関する重要性を熱く講演した。スマートロボットは、AIロボット、知能ロボット、インテリジェンスロボット、自律型ロボットなどとも呼ばれる高性能ロボット群を指し、「日本の成長戦略の要になるのではないかと思っている」と孫氏が語る領域だ。そして、ソフトバンクグループはソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じてロボット関連企業にも多数出資しており、直近はさらに勢いを増している。というもの、直近の12カ月で1億ドル以上の出資を受けた企業が10社あると上記で述べたが、そのうち4社がソフトバンク・ビジョン・ファンドから出資を受けている。その4社は、前述のCMR SurgicalとNuro、そしてKeenon RoboticsとAgile Robotsである。

Keenon Roboticsの配膳ロボット
Keenon Roboticsの配膳ロボット
 Keenon Roboticsは10年設立のベンチャー企業で、自動走行型の配膳ロボット、案内ロボット、消毒ロボットなどを主力製品として展開。飲食店、ホテル、病院などで主に使用されており、これまでに1万台以上の販売実績を有する。地域別では、中国を中心に、米国、ドイツ、カナダ、スペイン、イタリア、ギリシャ、ベルギー、日本、韓国、シンガポールなど、60カ国以上で採用実績を持つ。日本では、ワタミ(株)が運営する「焼肉の和民」や(株)三笠会館がプロデュースする玉川高島屋S・C内のレストランなどで採用されている。

 Agile Robotsは、ドイツ航空宇宙センターのロボット研究者が18年に設立したベンチャーで、安全性の高い協働型ロボットアームをベースに、独自のAI「Agile Core」を搭載したビジョンシステムや、力覚センサー技術などを組み合わせた知能ロボットソリューション「DIANA」を展開している。ロボットが様々なワークの形状や素材などを判断でき、動作計画を自律的に生成できる。

口コミサイト大手も出資

 ソフトバンク・ビジョン・ファンド以外で、大型出資に絡んでいるのがMeituan(美団点評、中国・北京市)だ。Meituanは、中国最大級のグルメ口コミサイト「大衆点評」のほか、フードデリバリー、レストラン予約、映画チケット予約、旅行予約、クーポン、美容室予約など、生活に関する総合プラットフォームサイトを運営しており、年間4億人にサービスを提供している。そんなMeituanは、Pudu Roboticsが(中国・深セン市)が実施したシリーズC1ならびにC2ラウンドの資金調達(総額1億5500万ドル)と、Mech-Mind Robotics(中国・北京市)が実施したシリーズC1ラウンドの資金調達(総額1億5500万ドル)においてリードインベスターとして名を連ねた。

 Pudu Roboticsは、商用サービスロボットを手がける16年設立の企業で、配膳ロボット、広告ディスプレー付き案内ロボット、ビル内配送ロボットなどを展開。現在までに世界60カ国で販売され、累計販売台数は数万台規模に達している。一方のMech-Mind Roboticsも16年設立の企業で、独自の3D知能カメラならびに画像処理用のソフトウエアに強みを有し、そういった技術と既存の産業用ロボットを組み合わせた知能ロボットソリューションなども展開している。

日本での市場展開を加速

 このほかにも、大型の資金調達を実施した企業の共通項として挙げられることがある。日本市場での展開を強化しているということだ。Pudu Roboticsに関しては、日本における販売代理店網を拡充しており、21年10月には外食チェーン大手の(株)すかいらーくホールディングスが、Pudu Roboticsの配膳ロボットを約2000店舗で導入する方針を示した。

 そのほか、Mech-Mind Roboticsは20年に東京都内に日本法人を設立。倉庫用ロボットを手がけるHAI ROBOTICS(ハイロボティクス、中国・深セン市)は、21年8月に日本法人の(株)HAI ROBOTICS JAPAN(埼玉県三芳町)を設立した。同じく倉庫向けロボットシステムを手がけるエグゾテックソリューションズ(Exotec Solutions、仏クロア)も、20年1月に東京都にEXOTEC NIHONを設立するとともに、京都府に倉庫を設置し、日本での活動を本格化させている。Keenon Roboticsに関しては、アイリスオーヤマとソフトバンクロボティクスが、Keenon Roboticsの配膳・運搬ロボットを国内市場で展開することを2月に明らかにした。

 海外のロボット企業からみると、生産年齢人口の減少などによって人手不足が進み、かつロボットへの理解度もある日本は市場として魅力が高いという声が多く、大きな資金調達を実施した企業が日本へ進出するという事例は今後しばらく続きそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 浮島哲志

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