電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第443回

村田製作所が中期方針で打つ布石


30年以降を見据え新ビジネス創出

2022/3/11

 村田製作所は2021年11月、22~24年度を期間とする新中期方針を公表した。24年度の事業目標として売上高2兆円、営業利益率20%以上を掲げているが、同時にこの3年間は30年までおよびそれ以降のさらなる成長に向けた布石を打つ期間と位置づけられる。新たに事業ポートフォリオを3層に区分し、それぞれの特徴に即した戦略を打ち出したのはその一環だ。本稿ではこの中期方針の内容に加えて筆者が実施した中島規巨社長へのインタビュー(本サイト「特別インタビュー」2月25日付で掲載)をはじめとしたこれまでの取材で得た情報も踏まえ、村田製作所の中長期的な打ち手に迫りたい。

広範な市場で高シェア堅持を狙うMLCC

 3層ポートフォリオのうち、1層目に位置づけられるのがコンポーネント。主力製品である積層セラミックコンデンサー(MLCC)を擁するセグメントだ。周知のとおり村田製作所はMLCCのトップメーカーであり、世界シェア40%を持つ。0603サイズ以下では45%、高周波用途では70%、自動車市場では50%と、スマートフォンに代表される通信機器から自動車に至るまで幅広い市場を押さえていることが特徴だ。特に、電動化の加速を背景に高信頼性、高温・高電圧耐性などの要求が強まる自動車市場では先んじており、競合に勝るポジションを確立できているという。

 この市場シェアを支えているのが圧倒的な供給能力だ。近年は能力負荷ベースで年率10%という増強ペースを維持し、国内外の生産拠点で積極的な増産投資を続けている。年率10%ということは当然ながら年々ベースが拡大するため、投資規模は増加していく。全方位的にシェアを堅持するための拡張をいつまで続けるかはいずれ検討課題となる、と中島社長は述べているが、当面はこのペースを維持してボリュームゾーンの確保を図っていくという。

1005サイズで世界最大静電容量の車載用MLCC
1005サイズで世界最大静電容量の車載用MLCC
 コンポーネントでもう1つ注目される製品がインダクター(コイル)だ。MLCCと同じく通信・自動車の両方の市場で需要拡大が続いている。売り上げ規模としてはMLCC、高周波フィルターなどの通信関連製品に続く3番目の規模に成長しているという。村田製作所は通信端末ではもともと強みを持っていたが、12年に東光をグループ傘下に収めた(16年に完全子会社化し、現在は埼玉村田製作所に改名)ことで産業機器や自動車向けインダクターをカバーした。コンポーネント第2の柱として今後もさらなる成長が期待できそうだ。

高周波モジュールは差異化技術で逆転目指す

 2層目はデバイス・モジュールで、高周波フィルターやモジュール、樹脂多層基板(メトロサーク)、電池などが含まれる。特に高周波モジュールは村田製作所がコンポーネント部品メーカーから脱皮して、新たな事業領域を確立するに至った画期的な製品だったといえる。中島社長はその契機は移動通信システムが3Gから4Gにシフトするころだったと振り返り、「モジュールメーカーにフィルターを供給し続けるか、自社でモジュールを手がけるのか」の難しい判断を迫られたと述べている。村田製作所は後者の道を選び、結果的に世界的な高周波モジュールメーカーとしての地位を確立した。

 ただし、高周波モジュールは市場競争が激しく、コンポーネントのように安定的な地位を保つのが難しい。村田製作所は20年にコロナ禍による渡航制限で顧客との十分なすり合わせを行えず、「北米大手スマホ」21年モデル向けのシェアを落としてしまった。リモート体制の構築などで22年モデルではやや巻き返す見込みだが、大逆転とまでは至っていない。一気に盤面をひっくり返すためには、プラットフォームの転換などのきっかけが必要になるという。

 村田製作所はそのタイミングで一気にシェア奪取を図るべく、差異化技術の取り込みに余念がない。ここ10年あまりにもルネサス エレクトロニクスのパワーアンプや米ペレグリンの半導体RF、メトロサークといった要素技術をM&Aや提携を通じて獲得し、モジュールの強化に活用してきた。

 現在、中期的なシェア拡大のカギとして期待する技術が「XBAR」だ。ミリ波5Gやビヨンド5Gといった高周波帯域で求められる、より高精度なフィルター性能を実現可能となる。村田製作所はXBAR技術を持つ米レゾナントと19年から協業してきたが、製品化のめどが立ったことで同社を子会社化することを決めた。23年度にXBAR技術を用いた製品の投入を計画している。

 また、21年9月にはRF回路の消費電力を低減可能な独自技術を持つ米イータ・ワイヤレスを買収した。これまでのハードウエアの作り込みやアナログ的な手法では限界のあった広帯域信号領域での消費電力削減を、ソフトウエアで実現できるという。

メトロサークは高周波帯域のキーパーツとして広がり

 モジュールの要素技術として事業化を進めてきたメトロサークも、採用が広がりつつある。もともとミリ波帯でこそ特性を活かせる技術と位置づけられていたが、肝心のミリ波帯の普及が遅れていた。しかし、徐々にミリ波帯の普及が進むことで競合の変性ポリイミド(MPI)と比べた際の高周波数領域での優れた特性が知られるようになってきているという。

 また、水を吸わないこともメトロサークの特徴であり、UWB(数百MHz~数GHzの非常に広い周波数帯域を使用する無線通信)モジュールにも採用されている。UWBは位置情報の高精度検出が可能なことから、スマートシティーやスマートファクトリー機器に利用が進んでいるという。

 ほかに2層目に含まれる製品にはセンサーや電池がある。センサーは自動車の安全性向上技術や自動運転で利用拡大が見込まれ、村田製作所は加速度・ジャイロコンボセンサーや車両周辺の状態を把握するための超音波センサー、車室内モニター用のセンサーなどを展開している。

 また、電池はソニーから譲受したリチウムイオン電池(LiB)の事業構造転換を図っている。競争の激しい民生向けから安全性、高信頼性が求められる産業用、業務用へのシフトを進める。目下好調なのが工具や掃除機などのパワーツール向けで、需要の増大に対応するための増産投資で事業黒字化目標を後ろ倒しにせざるを得ない「嬉しい悲鳴」状態という。LiB市場の目線が車載市場に向いており、パワーツール向けに積極対応する動きが乏しいからではないかと中島社長は語る。なお、村田製作所は「車載用では当社の強みを活かせない」(中島社長)という考えのもと、現状では車載市場への参入には否定的である。

メトロサークを用いたミリ波アンテナモジュール
メトロサークを用いたミリ波アンテナモジュール
 一方、電池事業で投入を目指す新製品に全固体電池がある。村田製作所の全固体電池は酸化物系としては業界トップクラスの高容量を誇り、高温環境への対応が求められる産業機器向けに開発している。特性改善に時間がかかったため量産投入は22年度になりそうだが、軌道に乗れば他社が参入できていない領域への展開も期待できそうだ。

ソリューションは中長期目線で新たな柱へ

 3層目はこれまでとは全く異なる新規ビジネスモデルの創出を掲げる。ソリューション、いわゆる「コトビジネス」の立ち上げを目指しており、すでにセンサーや無線通信技術を活用した作業者安全モニタリングや交通量の可視化システムといった取り組みを始めている。
 しかし、ソリューションビジネスは長期的な目線での立ち上げを志向しており、中期方針期間の24年度まではあくまで成功事例の積み上げに注力する。25年度以降にビジネスモデルを構築し、30年以降に本格的に拡大させてポートフォリオの柱とするビジョンを想定している。まさに過去10年あまりにおいて2層目のビジネスを立ち上げ、ポートフォリオの1つに確立させてきたことと同じ時間軸での取り組みといえる。現時点ではまだまだこれからといった事業セグメントだが、中島社長は「他社との提携やM&Aなどあらゆる手段を駆使して取り組む」と意気込みを語っている。今後の取り組みに注目すべき事業だ。

将来を見据え工場再エネ化を推進

 最後に、中期方針で掲げる戦略投資についても触れておきたい。3年間で2300億円の投資枠を設定しているが、具体的には環境投資や差異化技術の獲得、工場のスマート化などが含まれている。

再エネ化のモデル工場、金津村田
再エネ化のモデル工場、金津村田
 環境投資では中期方針の発表に先立つ21年10月、金津村田製作所(福井県あわら市)を100%再生可能エネルギー利用工場にするとの計画を公表していた。太陽光発電と蓄電池ユニット、独自の制御システムの組み合わせにより工場で使用する電力の100%再エネ化を図るもので、金津村田をモデル工場に国内外の拠点へ展開していく計画だ。

 中島社長はこの工場での取り組みを披露するにあたり、いずれは顧客から製品の再エネでの製造を求められるようになる可能性があり、先んじて取り組むと述べていた。また、環境投資というと収益度外視の持ち出しになるイメージが強いが、村田製作所は再エネを利用することで収益にもつながるモデルを追求するという。こちらもソリューションと同じく時間を要する遠大な取り組みだが、将来を見据えた村田製作所の選択がどう実を結ぶのか、今後も目が離せない。

電子デバイス産業新聞 副編集長 中村 剛

サイト内検索