電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第442回

半導体パッケージ基板供給網、日系勢が有利な戦い


問われる機動的な投資対応力と開発力

2022/3/4

 半導体パッケージ基板業界を巡る動きが活発になってきている。コロナ禍によるDX化の加速や5Gといった大容量・高速通信技術の導入に伴い、ハイエンドサーバー向けなどに搭載される高性能CPUやAIチップなど、アクセラレーター用のパッケージ基板需要が急拡大しているためだ。同市場は今後年率10%前後の2桁成長を見込み、2026年前後には現在の市場規模から倍増し、140億~150億ドルまで拡大するとの見方も出てきている。

 同業界は、高性能なCPU向けパッケージ基板のトップサプライヤーであるイビデンや新光電気工業を筆頭に、高度な細線化プロセスを保有するFICT(旧富士通インターコネクトテクノロジーズ)や京セラ、凸版印刷などが大きな存在感を放つ。また、基板を製造するための部材や製造装置の業界供給網もほぼ日系勢が独占する。細線化の切り札になるビルドアップ層の絶縁膜(ABF)を供給する味の素、低熱膨張のコア材で圧倒的シェアを誇る昭和電工マテリアルズ、露光装置のウシオ電機、ビア形成装置のビアメカニクスなど、数えたらきりがない。

イビデン、新光電気が巨額投資を継続

 ハイエンドPCやサーバー向けCPU用パッケージ(FCBGA)基板業界では日系企業が先頭集団を走る。難易度の高いインテル向けパッケージ基板でトップサプライヤーのイビデンは、2021年5月に1800億円の新工場建設計画を公表した。既存の河間事業場(大垣市)をスクラップ&ビルドして、23年度中にも新棟(Cell6)を稼働させるというもの。21年度下期から建屋建設に着手している。投資額は1800億円にのぼり、順次量産稼働を進める予定だ。

 さらに同社は、半導体パッケージ基板への事業集中を加速させる。新たな拠点工場を岐阜県大野町内に新設する。河間事業場での新棟計画に次ぐ、次期投資案件と位置づけられており、稼働開始は早くて25年ごろになる見通しだ。いずれにせよ3年先までのビジネスが見えているということだ。

 新光電気工業(株)もFCBGA基板への投資を継続する。21年度の設備投資金額は621億円と、高水準な投資を維持する。引き続き高丘工場への設備導入が中心案件となり、今期投資で同工場はほぼ満杯となる見込みだ。

 このため新たなパッケージ基板の新工場を長野県千曲市に建設することを決めた。24年度から順次稼働させる。一連の増産投資により、FCBGA基板の生産能力は、現行比で50%程度引き上がる見通しだ。同社もさらなる需要増を受け、千曲新工場の新規投資を決めた。22~25年度の4カ年でFCBGA基板への投資総額は1400億円まで引き上げる。

 同社のFCBGA基板も、前年度から引き続きPCやサーバー向けに需要が堅調に推移。20年10月から高丘工場(長野県中野市)の新ラインが稼働を開始しており、21年度は年間通じて業績に貢献する見通しだ。また、メモリー向けが主力のプラスチックBGA基板も引き続き好調に推移する。

 高性能な半導体パッケージ基板は近年、微細化が進展してチップレット化の流れにあるため、高多層化・大型化の進展により、SAPプロセスの負荷が増加しており、これが海外勢を含むパッケージ基板メーカー各社の大型投資につながっている。

 先端パッケージ基板分野で先行する日系勢2社を猛烈に追い上げているのが、オーストリアのAT&Sだ。同社は、マレーシアで新たに高性能半導体パッケージ基板の新工場を建設する。26年までの6年間で約17億ユーロを計画、同社では過去最大の投資となる。新工場の主要顧客は、インテルならびにAMDとみられる。

 ユニマイクロンも台湾・楊梅工場でインテル向けに専用ラインを稼働させているが、21年3月には台湾・湖口工場(新竹)に新棟を建設してFCBGA基板の量産ラインを整備する計画を公表した。同ラインは非インテル向けパッケージ基板を強化するとみられる。AMDやNVIDIAなどの非インテル向けへの供給量を増やす計画とみられる。

高性能パッケージ基板市場は日系サプライチェーンが席巻
高性能パッケージ基板市場は日系サプライチェーンが席巻
 また、サムスン電機(韓国ソウル市)も、FCBGA向けのパッケージ基板事業に本格参入する。ベトナム工場内に関連する生産設備とインフラ整備の確立に、合計8億5000万ドルを投資することを決定した。投資は2023年まで段階的に実施する。同分野で先行した日系や台湾勢の追い上げを目指す。

機敏な投資戦略と開発力の強化が求められる

 そして、このパッケージ基板を製造するために必要な装置・部材のサプライチェーン網は、現状は国内勢有利の状況が続く。例えば、パッケージ基板では基板そのものが反らないように内層コア基材が必要となり、その供給メーカーは事実上、昭和電工マテリアルズがデファクトを握る。小さいことを言うとそのガラスクロスなどの素材面では日東紡の特殊な低熱膨張のガラスがないと作れない。

 ビルドアップ層の先端回路を形成する露光工程をはじめ、ビア形成プロセスなどの主要工程において、分割投影露光機(ステッパー)ならびに対抗馬のダイレクトイメージング(DI)装置やビア加工装置、真空ラミネーターなどの装置群の能力増強が実施中だ。ウシオ電機はハイエンドパッケージ基板の露光装置ではトップシェアを擁しており、主力の御殿場工場において従来比3割増産を進めている。早ければ22年上期中には増産対応が整う。さらに部材工程でもめっき液をはじめ、感光材や特殊なガラスクロス、摩耗しにくいコーティングドリルなどの増産も継続的に実施中だ。

 露光工程では、高性能パッケージ基板向けのウシオ電機のステッパー装置が圧倒的に強く、主要部材の回路用レジストでは昭和電工マテリアルズと旭化成エレクトロニクスが市場を二分している。次世代はライン/スペース(L/S)が5μm/5μmとされ、有機パッケージ基板では製造難易度がより一層切り上がる。さらにその先、2μm L/Sが待ち構えている。

 その露光工程ではマスクレスのDI装置の普及も進む。GPUやAIチップ向けではこの高性能なDI機が市場を拡大している。特に台湾などのサブストレートメーカーの採用機運が高く、旺盛な購買意欲が続く。同市場ではオーク製作所が先行しており、アドテックエンジニアリングが追う展開となっている。

 サーバーなどの高性能パッケージ基板では20層前後の高多層化が要求されており、ビルドアップ層のビア加工でも高性能なレーザー装置が使用されている。ビア径では40μm径を安定して形成しなければならず、CO2レーザーで対応可能だ。しかし、最先端パッケージ基板ではさらに微細なビア加工が必要な領域があり、位置決めや生産性の向上が不可欠となる。この分野ではUVレーザー装置が必要で、ビアメカニクスがほぼ独占供給しているとみられる。

 ビルドアップ層の絶縁フィルム(ABF)は味の素の原料を使い、藤森工業がフィルム加工で連携している。また、パッケージ基板には反りを抑制するためコア基板も形成される。ここにも電源回路やビア加工が必要となり、国内主要プレイヤーが活躍する。コア層は、150μm径のビアとみられており、ここをメカニカルドリル装置で形成する。コア層は前述のとおり、反り低減や電気特性の向上を図るため、各種フィラーが混ぜられ、低熱膨張のガラスクロスなどの部材が不可欠となっている。低熱膨張の特殊ガラスクロスは日東紡の牙城だ。

 今後は100μm径レベルまでの極小ビア形成加工が要求されるとの見方もある。摩耗しにくいDLC(ダイヤモンド・ライク・カーボン)の特殊形状のドリルが必須で、同領域ではほぼユニオンツールが独占供給している。銅めっきや表面処理薬剤も重要な役目を担い、上村工業やメックなどが先行する。また、高性能なパッケージ基板の最終電気検査では日本電産リードの独壇場となっている。

 しかし、次世代のパッケージ基板ではさらなる細線化や高多層化が避けられない。より複雑な加工がパッケージ基板メーカーには突きつけられる。新たな製造装置や部材の採用検討も並行して行われており、低コスト化要求や生産性改善に向けた新工法なども登場する可能性がある。UV光源に代わるエキシマレーザーや、新たな露光機技術の台頭が出てくることも考えられる。

 パッケージ基板メーカーのかつてない投資意欲を前に、関連の装置・部材業界も臨機応変に供給能力の確保で応えていく必要がある。国内外で盛り上がるFCBGA基板の新規投資が実を結ぶ24~25年に向けた部材・装置の安定供給が大事になってくる。

 次世代のパッケージ基板を巡る日系勢中心の現在の供給網体制が一気に崩れることはないだろうが、技術開発で後塵を拝することになると、いつまでも安泰というわけにはいかなくなるだろう。また、現在の旺盛な需要に機敏にタイムリーに部材や装置供給を滞りなく行わないと、他の工法や部材に切り替えられる恐れもないとは言えない。現状に甘んじるのではなく、常にライバル企業の一歩先を見据えた戦略が常日頃から求められている。

電子デバイス産業新聞 特別編集委員 野村和広

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