驚くべきことに、世界で電力をまったく使えず、かつ持たない人たちが8億人もいる。そしてまた電力が不安定な状況の中にあって、その恩恵をまともに受け取れない人が20億人もいるという事実は大きい。先進諸国にはまったく想像もつかないことだろう。
つまりは、SDGs革命という言葉が声高に叫ばれているが、電力を節約するどころか、電力自体がないという生活をしている人たちが世界人口の半分近くもいるということは、すなわち経済格差、IT格差、先端技術の格差を意味することになるのであろう。
それはともかく、DX(デジタルトランスフォーメーション)に加えて、GX(グリーントランスフォーメーション)が本格化し始めている。主要国の省エネ目標は明確に打ち出された。我が国を含めて世界各国はおおよそ2050年までにいわゆるカーボンニュートラル、つまりはCO2排出ゼロを目指すという大目標に向かっているのだ。
こうした省エネルギーの動きがある中にあって、世界の電力消費量はこの先、とんでもなく上がってくる。2030年には30兆kWhになると予測されており、2010年比で言えば実に倍増ということになる。その先も飛躍的に伸び続ける。そしてまた、前記のように電力の恩恵を受けない人たちにもまともな電力を供給しなければならないという状況も生まれてくる。そしてまた、5G~6G高速という通信量の拡大により、データセンターはついに2030年には全電力の25%を使ってしまうということが明確に言われ始めた。
さあこうなると、まさに半導体の出番なのである。電力節約の切り札は、何と言ってもIGBT、パワートランジスタをはじめとするパワーデバイスの活躍がカギを握っており、世界各社はしのぎを削ってこの設備投資、増産に力を入れ始めた。我が国においても、三菱電機、東芝、富士電機、ローム、ルネサス、新電元工業、サンケン電気など錚々たるメンバーが最先端技術を駆使して開発を続ける一方で、投資拡大をはっきりとアナウンスし始めている。
電力消費の“悪者”とも言うべきデータセンターについても、HDDをNANDフラッシュメモリーに全部置き換えることができれば、とてつもなく電力消費は下がってくる。また、車載の電力需要を下げるためには、ルネサスが得意とするマイコンに加えて、システムLSIの進化がどうしても必要になってくる。加えて、東北大学のMRAM、東京大学の積層型SRAMなどの新型メモリーの革新により、電力消費は画期的に抑えられていく可能性が強まってきた。
さて、SDGs革命には3000兆円が投じられると言われるが、このうち3%は半導体デバイスに落とし込まれると言われている。簡単に言えば、これまでの半導体の生産額の伸びに加えて、毎年5兆~6兆円のSDGs絡みの半導体需要が出てくるのであるからして、半導体はとんでもなく伸びるという予想は、誰が考えても妥当なところである。そしてまた、メタバースによる半導体需要も凄まじいことになっており、インテル社によれば、今後のコンピューティング能力は現在の1000倍が必要になるとしており、半導体100兆円時代はもうすぐそこまで来ているのだと言えよう。
直近の世界の半導体売上高を見ても、2021年については驚くなかれ、前年比26%増を達成し、約64兆円まで押し上げてきた。半導体の出荷数としては1兆1500億個を突破したと見られている。
意外なことに、一番伸びた製品は自動車用ICであり前年比34%増、次いでアナログ半導体が同33%増となっている。これを見ても、SDGsの時代にあっては、最先端半導体も伸びるが、ミドル、ローエンドといったレガシーチップも伸びてくることを深く認識しなければならない。その意味では、シリコンファンドリー世界最大手のTSMCが熊本に新工場を計画し、最先端ではないプロセスのラインを立ち上げることには、ある種深い意味があるのであろう。
■
泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。