電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第427回

「つなぐ」「つながる」コネクターの進化は一心同体


幅広い用途へ進む技術革新を電動車向けに触れながら

2021/11/12

 「半導体不足も悩みの種ですが、実はコネクターが調達できなくて最終製品に仕上げられなくて困っています」と、駆動系製品を手がけるメーカーに訪問時の雑談話で耳にした。そしてオンライン商社との雑談時には「コネクター需要が旺盛です」との話題になる。コネクターメーカーからは「受注に供給が追い付かない状況が続いており、まずはお客様に迷惑をかけないよう供給することが何よりも最優先です」とのコメントが飛び出す。

 世界各国が2050年~2060年に二酸化炭素(CO2)排出量ゼロのカーボンニュートラル社会の実現を高らかに宣言してから、環境対応車(エコカー)へのシフトは予想以上に加速し、工場の製造現場やあらゆる場面で省人化に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)化の加速、AI、クラウド/エッジクラウドとの連携、5Gおよび5G以降の通信技術の進化、これらに不可欠なデータセンターの拡大など、めまぐるしいスピードで技術革新が進行している。こうした事象に対し、どうしても最先端半導体、ソフトウエアの進化などが注目されがちだが、実はこうしたすべての機器、製品、基板などをつなぐ「コネクター」の存在なくして、こうした技術進化はあり得ないのだ。現実に、冒頭の雑談話が飛び出す有り様なのである。

タイコエレクトロニクスジャパンの「ボディ・コネクティビティ」を体験する筆者
タイコエレクトロニクスジャパンの
「ボディ・コネクティビティ」を
体験する筆者
 そんなことを実感していたころ、CEATEC2021に向けてお声がけがある中で、「人とテクノロジーを『つなげる』 センシング体験型ゲーム機器『ボディ・コネクティビティ』」体験する機会を、タイコエレクトロニクスジャパンの方からいただいた。これは来年の現地開催のリアル展示会に向けた予告編のニュアンスを込めて、メディア向けに先行公開されたものである。

 「コネクティビティーを体験いただくにはどうしたらよいか、と真剣に考え抜いた。その際、人間のボディーの筋肉などの動き、重心移動と当社製25種類100パーツのあらゆる電子部品がコネクトされてゲームが進行する。すべてはつながっていることを表現したかった」と同体験イベントを企画した担当者が語ってくれた。そして、同じコネクターと言えどもあらゆる種類があり、それぞれ役割が違い、さらに各種電子部品がそれらとつながりながら、1つの事象を成し得ていることを改めて実感した。

 実は筆者自身、従来の取材分野に加え、電子部品という分野も取材軸の1つとして活動し始めたタイミングと時を同じくして、コロナ禍へと突入。リアルに各製品群、各電子部品などに出会える機会が少なかっただけに、「コネクター」の存在がいかにエレクトロニクス業界を下支えしているのか、ということを机上の空論のみならず身をもって実感するよい機会にもなった。

 ちなみに、とある業界在籍時に筆者がお世話になった尊敬する某教授がかつて、スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式で語った「Connecting the Dots」という言葉を引用されながら、「人生に照らし合わせた際、きれいにドットがつながれば大成功であり、成功=感謝である」と発言されていたことも思い出した。「コネクト」という要素は、ITの最先端分野であれ、生態系のあらゆる事象であれ、重要なファクターであることがつくづく実感できる。

車載、通信、IoT、データエンター、産機、医療へ高度な技術要求

 さて、実際のコネクター業界に目を転じてみる。そこには日本の電子部品メーカーが多く名を連ねていることがわかる。電子デバイス産業新聞が集計した国内コネクター関連企業の四半期売上高を見ても、上位から順に日本航空電子工業(コネクター事業)、ヒロセ電機、イリソ電子工業、SMK(CS事業部)、本多通信工業、ケルと何十年にわたりコネクター製品群を手がけ続けている老舗企業が並ぶ。ちなみに、電子情報技術産業協会(JEITA)の電子部品部会による出荷統計によれば、電子部品世界出荷額(2020年度)3.7兆円のうち、コネクターは15%を占めると見られている。


 こうした日系コネクターメーカー各社が21年に入り発表した新製品群や、これまでに関係各社に取材した内容を振り返ってみると、コロナ禍による巣ごもり需要を契機とした「ゲームやテレビなど民生機器」が直近では伸びしろの一角だったとしており、中長期的に各社が見据えるターゲット市場は「車載」「通信」「IoT」「データセンター」「産業機器」「医療」などハイエンド技術を要し、かつ長寿命を要する市場だ。各用途で求められるコネクターの特性は異なっており、各社が強みを持つ用途向けに細かな技術改善を重ねている。

 各社の最新技術を見ていて共通ワードとして挙げられるのは「高速伝送」「大容量」「防水・防塵性」「耐振動・耐衝撃性」「高温など幅広い動作温度対応」「省スペース化(小型化・低背化・軽量化)」「高信頼性」だろう。前述の各社が見据えるどの市場をとっても、これらの要素は必要不可欠である。

 少し話は脱線するが、つい先日、とある展示会で産業用海外製コネクター専門に長年携わっている関係者と立ち話をする機会があった。その際、「産業用では何十年にわたり、それほど大きな技術変化や細かい改善を求められる場面は多くない。そういう立場から見ると、電動車などへコネクター製品を展開される日系コネクターメーカー各社は心底尊敬に値する。細かい顧客要求に応えた製品を厳しい価格要求ながら短期に創出し、しかも十数年にわたり走る車で壊れずに機能するコネクターを提供する。これは並大抵のことではない」とのコメントが聞かれた。確かに車が走っている途中でコネクターが外れて故障、遠隔手術の最中にコネクターが接触不良を起こして医療現場が機能不全など許されない。人間の「命」と直結する用途へコネクターを提供するということは、それだけ厳格な製品仕様が求められ、厳しい評価・検査をクリアーしなければならないことも意味する。

 また、今度は半導体デバイスメーカーの方と話す機会があり、そこでは「前はこんな太いケーブルにコネクターが付いたタイプのものを何本も基板につながないといけなかったのですが、接続に関連するここの部分もコネクターに複合化して一体化する開発を手がけてくださり、ケーブルもこんなにシンプルになろうとしている。とても助かる」と実際のデモ基板を前に語ってくださった。それにより、搭載基板も省スペース化が図れ、ケーブル配置の省スペース化も実現できるのだという。コネクターは縁の下の力持ちながら、こうした生の声に触れることで、必要不可欠な電子部品であることが改めて実感された。

車載カメラ搭載増はコネクター需要に追い風

 まず「車載向け」で員数増の一因となっているのは、車載カメラがほぼ標準搭載化してきたことだ。テクノ・システム・リサーチ調べの車載センシングシステム市場(金額ベース)においても、車載カメラ比率は55%前後まで高まってきていることがわかる。しかも、以前はフロントカメラが主流だったところから、最近では駐車支援や自動運転レベル2、同レベル2+などに向けてリアやサイドにもカメラを搭載する動きが進行。さらに、自動運転レベル3以降へ向けて、単なるビューイングのみならず、周辺の対象物を高精度に検知・認識・判断するためのセンシングカメラへと移行が進む流れにある。

 コネクターの員数増という観点から見れば、フロントにセンシングカメラ1台、リアに1台、4隅に各1台、場合によってはドライバーモニター用に近赤外線カメラ1台となれば、カメラ台数だけで1車両に6~7台搭載という状況も想定され、必然的にコネクター需要は高まる一方ということになる。また、センシングカメラでは膨大な周辺情報を瞬時に把握するため高画素なCMOSイメージセンサーが搭載され、かつ得た情報を高速に伝送し、迅速な認識・判断・制御につなげていくことが必然となってくる。そこで、コネクター各社で6Gbps以上の高速伝送対応のデジタル信号用かつ同軸の小型多極同軸コネクター開発が進行している。また、車載カメラに向けては、増え続けるケーブル数、ワイヤーハーネス数を少しでも抑えるため、電源ラインと信号ラインを1本化するPoC(Power over Coax)化の動きなど様々な技術革新が繰り広げられている。

車載コネクターで多彩なシリーズ展開(提供:本多通信工業)
車載コネクターで多彩なシリーズ展開
(提供:本多通信工業)
 車載カメラ以外でもインフォテインメントや車内ネットワークなどに向けても、新たに様々な開発が進行していることを2021年10月21日付の電子デバイス産業新聞「車載用コネクター特集」で報じている。たとえば一部を紹介すると、イリソ電子工業では25Gbps対応電源用端子付きフローティングBtoBコネクター「10143シリーズ」で、25Gbpsと±0.8mmの可動量を併せ持つBtoB(基板対基板)コネクターを実現し、車載用インフォテインメント向けなどで好評だという。一方、本多通信工業では、中長期を見据えて、車内ネットワーク高速化対応の小型高速伝送品として、全面シールド構造を進化させるなどの工夫を凝らした「6Gbps/12Gbps対応LVDSコネクター」の開発を推進中であるなど、各社で活発な技術開発が進行している。

 ちなみに、国内メーカーでは首位を走る日本航空電子工業が車載用コネクターにおいて成長市場に見据えるとして公表しているのは、EV(環境対応車)、ADAS/自動運転、セーフティー(エアバッグ)。また、全社売上高のうち8割強が車載向けコネクターが占めるイリソ電子工業が車載向け強化領域に挙げるのは、安全系、カメラ、インフォテインメント、パワートレイン系、モーター、二輪である。

パワートレイン向け、充電インフラ向けなど電動車へ技術革新

 電動車という観点で注目されるのは、パワートレイン系向けコネクターだ。ここに向けた開発秘話を、かつてイリソ電子工業の方にお聞きしたことがある。当時、ハイブリッド車のキーパーツであるDC/DCコンバーターに、可動BtoBコネクターを使用することでセット価値が向上する、との見込みから開発がスタートし、2015年発売のトヨタ自動車製4代目プリウス向けDC/DCコンバーターへ搭載されたのが3次元可動BtoBコネクター「Z-Move」だったという。X軸、Y軸という横可変に加え、Z軸という縦方向にも可動する点が最大の特徴であり、完成当初は世界初の画期的な製品化だった。今では他社も追随し、製品化されてきている。

左から順にイリソ電子工業製Z-Move「10120シリーズ」「10127シリーズ」「10128シリーズ」
左から順にイリソ電子工業製Z-Move「10120シリーズ」「10127シリーズ」「10128シリーズ」
 しかし、このZ軸、エンジン周りの厳しい耐振動耐性に対応した安全性を満たすことが最も至難の業だったという。かつ-40℃~+125℃という過酷な耐熱性も満たさねばならない。今では実装基板専用の振動シミュレーション技術も確立するなど、パワートレイン系への3次元可動BtoBコネクター需要は高まりを見せている。

 一方、日本航空電子工業は欧米のEV向けへ数々のコネクター製品展開でも採用実績を重ねている。欧州EV向けでは400A対応コネクター、北米大手EV向けではエアバッグ用スクイブコネクターなどを展開。また、EV充電インフラ向けにはEV向け充電プラグのグローバル生産体制やCHAdeMO3.0規格での製品開発など、海外を見据えたEV関連向けの各種コネクター開発で先行している。

急速充電/V2X向けEV充放電用コネクター(日本航空電子工業ニュースリリースより)
急速充電/V2X向けEV充放電用コネクター
(日本航空電子工業ニュースリリースより)
 同社関係者の話によれば、車載エアバッグの作動やシートベルトの固定、調整用インフレ―ターユニットのスクイブ(点火装置)コネクターとして、欧米ではAK2規格、インフレ―タ側のショート端子を無くしたAK3規格、コネクターでアース接続可能なAK2-Plus規格が普及しているという。また、車載エアバッグでは乗員の頭部に加えて、腕、身体、足など全身保護性能、さらには歩行者なども保護する仕組みにもなってきているという。搭載箇所が増えれば、当然員数増となる。EV充放電用コネクターでも各種上市している同社だが、急速充電器/V2X向けでは、筆者が把握している範囲では小型かつ最大37A出力可能という定格電流拡大ニーズに対応するレベルまで製品化が進んでいる。

 なお、今回は国内勢の動向にフォーカスしたが、海外勢のTE Connectivity、Molexなども当然、車載向け各種コネクター製品を展開している。

 このように「コネクトする」と一言で言っても、そんなに生易しいものではないことがひしひしと伝わってくる。今回は車載向けコネクターを中心に触れたが、5G、IoT、データセンター、産機向けなど進化する技術革新には、長年の技術的蓄積、経験を活かした緻密な技術改善を重ねるコネクターをはじめとする電子部品が一心同体なのである。すべてが「コネクト」することの意味を改めて思う。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 高澤里美

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