電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第457回

アメーバ経営を先駆けし、有機的に動く少数集団を作った土方歳三の凄み


決してブレず、成功を求めず、時代の流れに関係なく、夢を追い続けた

2021/11/12

 京都で開催された「電子デバイスフォーラム」(日本電子デバイス産業協会主催)に今年も参加させていただき、基調講演でまたも吠えまくりであった。とりわけ、日本政府が本気になって取り組む半導体支援プロジェクトのところについては、オフレコ情報を交えながら、きっちりと解説させていただいた。今こそ戦う時であり、このタイミングを逃せば、ニッポン半導体の減衰は目に見えている。今こそ国を挙げて、総力を尽くし、ニッポン半導体の復興を図らなければならないと切に思っている。

京都の壬生寺には新選組隊士の墓所が残っている。
京都の壬生寺には
新選組隊士の墓所が残っている。
 「国を守る」という概念で言えば、まさに明治維新の時に、勤皇と佐幕に分かれて多くの若者たちが戦い、そして散っていったことを思い出してしまう。そして、「燃えよ剣」という小説で描かれた新選組副長の土方歳三の生涯を思い返してしまうのだ。

 新選組の物語は、今に至ってもレジェンド(伝説)となっている。日本の歴史上、最大の変革期であった幕末から明治維新までの短い期間に、全力を挙げて生きた若者たちのネガフィルムと言ってもよいだろう。勝ち組はもちろんのこと、西郷隆盛であり、桂小五郎であり、大久保利通であり、坂本龍馬であり、これらの維新の英傑と言われる人たちがもてはやされるのは当然のことだ。ところが、ひたすらに暗い宿命を背負った人殺し集団である新選組が何ゆえに今も関心を集めるのか、ということを考えてみたい。

 その思考回路の先にはやはり、土方歳三という天才的な副リーダーの姿が浮かび上がるのだ。彼は、剣客としても超一流であったが、基本的には西洋式の軍隊の手法を学び、最終的にはこれを取り入れた。そしてまた、新選組の中に厳しい規則を設けて、きっちりと統制する体制を作った。また、組織全体をいくつもの組に分けて、それぞれのリーダーを設けて自律的に動くような形をとった。言ってみれば、京セラの稲森和夫氏のアメーバ経営はすでに土方歳三が作り上げていたのだ。

 英国の生物学者であるロビン・ダンバーの言うダンバー係数は、人間が安定的な社会関係を構築できる上限は150人までと喝破している。これを超えれば、あうんの呼吸は無理、以心伝心で動かすことも無理。ところで新選組は常に150人くらいの組織であった。いたずらにパイを追わなかった。そして、副長の土方歳三は、すばらしいコントロール能力を持っていた。

 有名な池田屋事件は、土方の戦略により新選組はたった30人の小勢で戦い抜いた。そして、見事に勝ったのだ。この時、会津、桑名、京都所司代などの3000人の軍勢が池田屋の会合を追いかけたが、まったく無力である。スピードも追い付かなかった。この時、土方歳三は大変なことを学んだのだ。

 指揮系統が機能しない3000人の兵よりも、一致団結し、それぞれが有機的に動く一体化した30人の兵が勝つことを証明したのだ。これは後に人に知られるようになり、新選組がレジェンドになっていくきっかけともなるのである。

 そしてこの映画の「燃えよ剣」のキャッチフレーズは、「時代を追うな。夢を追え。」というものである。誠に言い得て妙なのである。土方歳三という人は、ただひたすら新選組という組織に夢をかけ、生き抜いた人だ。数々の戦いに参加し、大局的には負けていても、彼が率いた軍勢は一度も負けたことがない。最後は、函館の五稜郭まで行き、ついに銃弾が彼の体を貫き、35歳の生涯を終えた。

 ここには一つの教訓がある。一番大切なことは、ブレないことである。成功を求めないことである。ただひたすらに夢を追うということである。言い換えれば、時代に合わせてこズルく、うまく、右に行き左に行き、上に上がり下に下がるという処世術には何の価値もない、と土方は言っているのだ。

 これを現代に置き換えてみても、様々な教訓を感じることができる。戦後すぐの焼け跡の中に誕生した東京通信工業は、ちっぽけな町工場という存在であったが、昭和29年のトランジスタラジオの一大ヒットにより、世界ステージに飛び出す。そして、社名を「ソニー」と変えるのだ。食べるものもなく、着るものもなく、敗戦の暗いムードの中にあって、この会社が持ち続けた夢は、ひたすらに「世界でただひとつだけのものを作る」ということであった。もちろん、ソニーという会社は現在においても大成功物語を築いたカンパニーとして評価は高い。

 しかして、筆者は思うのだ。始めに「成功」という言葉が、ソニーにはあったのだろうか。ただひたむきに夢を追い続けた結果として、成功が付いてきたのではないだろうか。そして極端に言えば、自分たちの開発した製品が、時代にマッチングしないで、夢で終わってしまうということも考えられた。しかして土方歳三の物語は、「それでもよい。夢は達成するためにあるのではない。夢はそれを追いかけるためにあるのだ」という考え方が、筆者の胸を打つのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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