東芝といえば、すぐにもメモリー半導体と考える人が多い。かつて、DRAMというメモリーでぶっちぎり世界トップとなり、今もフラッシュメモリーという分野でキオクシア(旧東芝メモリ)が世界2位にあるのだから無理もないだろう。
しかして、陰の主役であり、今も昔も“金看板”といえるのが、ディスクリート半導体の代表格であるパワーデバイスなのだ。2020年度の国内半導体企業ランキングの1位は前記のキオクシアであるが、6位には東芝本体が入っている。この重責を担っているのが、東芝デバイス&ストレージである。
ここにきて、東芝デバイス&ストレージ社の半導体供給は超タイトであり、少なくとも22年上期までは逼迫した状況が続くという。フルフル稼働しても、全くもって追いつかないのである。同社の半導体はディスクリートが中心であるが、自動車、ゲーム機、各種産業機器、スマホ向けに多く使われている。とりわけ部材不足が続くことから、作っても作っても足りないのだ。
同社の22年3月期の営業利益は前期(125億円)の4倍超となる550億円になる見込みであり、東芝グループの部門別では最大売上になる「とても良い子」なのである。つまりは、今後の東芝の復権は東芝デバイス&ストレージがどれだけやるかにかかっている。東芝グループの収益の柱に躍り出ようとしているのだ。
同社の代表取締役社長の佐藤裕之氏は将来展望について、こう語っている。
東芝デバイス&ストレージ(株)
代表取締役社長 佐藤裕之氏
「当社の柱はやはりパワー系を中心とするディスクリート半導体であり、将来的には売り上げ3000億円を目指していく。要するに倍増の勢いにあるということだ。このため、拠点の加賀東芝エレクトロニクスを中心に生産能力の増強を進めており、19~23年度で総額1000億円を投資して生産ラインの能力を現行の1.5倍まで拡大する」
また、同社は300mmウエハーを採用する新工場建設にも踏み切る考えであり、これが加われば、設備投資はさらに増大していくだろう。SiCの6インチラインも姫路工場に導入済みであり、こちらにも多くの期待がかかる。
19年度からは東芝マテリアル、東芝ホクト電子を傘下に組み入れ、20年度からはNFTを完全子会社にした。こうした一連の統合策により、全軍の一致団結で戦う陣形が作られたのである。とりわけ、次世代のマルチビームマスク描画装置がほぼ完成していることで、一気のジャンプアップも図れることになる。
こうした東芝デバイス&ストレージの一大飛躍を狙う姿勢を見るにつけ、筆者の脳裏には80年代後半から90年代初めまでDRAMというメモリーで世界を席巻した東芝の幹部が、ふと漏らした言葉が胸に突き刺さってくるのだ。それは次のようなものであった。
「東芝の収益の柱はDRAMにあり、と世間の人たちは言うのであるが、ディスクリート半導体も世界一のレベルにあり、これが裏の金看板なのかもしれない。特にパワートランジスタの利益率といったらすごいもので、DRAMを上回っているのだ」
ところで、前記の20年度国内半導体売り上げランキングのトップ10のメンバーを眺めてみれば、とんでもないことが分かる。6位に東芝、8位に三菱電機、9位に富士電機、10位にサンケン電気がおり、何と10社中4社がパワーデバイスを柱にするディスクリート半導体企業なのである。
パワーで頑張る彼らこそが、これからのニッポン半導体復活の核弾頭になっていくのかもしれない。
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。