電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第447回

ソニーの株式時価総額は14.5兆円でパナソニックの5倍


半導体最重視の戦略とそれを捨てた哲学の違いを考えている

2021/9/3

 大学に入った年に、ソニーのステレオ(これはもう死語ですねぇ)、つまりオーディオセットの中古品を買ってもらった。飛び上がらんばかりに嬉しかった。ソニーのトランジスタラジオは持っていたが、レコード(これも死語!今でいえばCD)を聴くことができなかったからである。

 昨今にあっては、音楽は保有するものではなく、スマホ、パソコンなどで共有するものであり、オーディオセットを持っている人は少ない。好きな時に、好きな音楽を呼び出して、格安料金で聴くことができるのであるから隔世の感がある。

 しかして、アルバイトなどをして自分で稼ぐようになってからは、ソニーとは縁が遠くなった。理由は1つしかない。テレビにしても、パソコンにしても、とにかくソニーはひたすら高いのだ。そして家電品売り場にいっても、ソニー製品はあまり値引きをしない。大昔にウォークマンを買いに行った時に、全く値段を勉強してくれないので頭にきて、「それならパナソニックのものを買うからいいよ」と叫んだところ、かの店員はこう言い放ったのである。

 「ウォークマンでもたらされる幸せは、そんなに安くは買えない」

 それはさておき、現在において我が家のビデオカメラは4Kハイビジョン対応のハンディカムである。そしてまた仕事上で必須のものであるデジタルカメラは、ソニーのRX100シリーズである。これも4K対応であるが、コンパクトカメラなのに、そこらの一眼レフよりもはるかに高いのだ。

 このカメラは愛用しており、どんな時でも手から放すことはない。何を撮影しても素晴らしい。うっとりしてしまう。(別に筆者はソニーから金をもらってこの原稿を書いているわけではない。念のため)。切れ味、スピード感、色味のほとんどに満足できる。動画もまた4Kハイビジョンで撮れるために、ショート版であればハンディカムはいらないほどなのだ。

 このカメラを自宅でためつすがめつ眺めていた時に、ソニーとパナソニックはなんでこんなに大差がついてしまったのかと考え込んでしまった。何しろソニーの株式時価総額はいまや14.5兆円であり、これに対してパナソニックのそれは3.3兆円。なんと5倍近い差がついてしまった。直近の利益水準を見ても、ソニーの1.1兆円に対し、パナソニックはわずか1651億円なのである。

 半導体と言う観点でいえば、ソニーは世界を驚かせたトランジスタラジオ以来、ひたすら製品の差別化の切り札として半導体を使ってきた。そして、多くの分野を切り捨ててきた。なんと一大ヒット商品であったパソコンのVAIOすら捨ててしまったのだ。

 これに対してパナソニックは家電にこだわり続けた。高付加価値、高価格の家電ならば、中国、韓国、そしてアジア全てと勝負できると考えた。ところがどっこい、家電分野は敗戦に次ぐ敗戦、テレビでは液晶に対しプラズマにこだわったが、全くもって成功できなかった。現在は創業以来の「電池」の復活を掲げて頑張ってはいるが、ソニーの背中は遠くなるばかりなのだ。ちなみに、ソニーはこの7月、4Kテレビで一年半ぶりに国内シェア30%を取り圧勝している。

 ソニーは半導体事業についても厳しい切り捨てを続けてきた。メモリーを捨て、マイコンを捨て、またシステムLSIも捨てていった。そして今スマホ、デジカメ、タブレットなどに掲載されるCMOSイメージセンサーという半導体で大輪の花を咲かせた。

世界最小のソニーCCDカメラはサプライズであった
世界最小のソニーCCDカメラは
サプライズであった
 そしてゲーム機分野においても、ぶっちぎりトップを疾走しており、映画の分野でも『鬼滅の刃』で世界的メガヒットを放ち、ソニーはいよいよ日本の電機業界で頂点を極めるだけでなく、世界においても戦える企業としてブランドイメージは高まっている。

 一方のパナソニックは2020年9月1日、半導体事業を台湾のヌヴォトンテクノロジーへ全面売却してしまったのだ。オリジナルの半導体を持って製品の差別化をつけるという戦略の構図を描けなくなったのだ。

 つらつら考えてみるに、ソニーとパナソニックの差は、半導体にこだわったかどうかという戦略と哲学の違いにあるのかもしれない。そしてまた常に世界を観るというソニーに対し、パナソニックの視野はやはり狭かったのかもしれない。

 ただ1つだけパナソニックを褒めておきたいことがある。我が家のヘアドライヤーはずっとパナソニックを使っている。また、出張先のホテルに置いてあるそれも、パナソニックが圧倒的に多い。その理由は使いやすく、おしゃれで、髪にやさしく、環境に配慮した最高傑作であるからである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 代表取締役 会長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』(以上、東洋経済新報社)、『伝説 ソニーの半導体』、『日本半導体産業 激動の21年史 2000年~2020年』、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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