電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第19回

敬愛なる旧同盟国の日本よ、この次の戦は必ず勝つぜ!!


~ユーロの支配権を完全に掌握したドイツの存在感~

2012/11/23

 ドイツの存在感というものがある。エネルギー政策においては、2050年までに太陽電池、風力発電などの再生可能新エネルギーの比率を80%にまで持っていく、と言ってのけ、世界をのけぞらせている。遠いヨーロッパの政治情勢は、なかなかわが国にはリアルタイムには入ってこないものの、EUにおいてかの女性宰相メルケルの発言が圧倒的に強い、ことぐらいは良く分かるのだ。あんなおば様に振り回されているのね、と筆者は常に思ってしまうが、有識者に聞いたところ、ドイツはすでにユーロの支配権を完全に掌握したというのだ。

 「ドイツはユーロを使うことによって多くのメリットを得ている。政治的にも、経済的にもだ。チェコやポーランドをEUの蚊帳の外に置き、ユーロ安でドイツの輸出は絶好調だ。今や誰が見てもEUの中心はドイツであることが良く分かる」
 筆者が尊敬してやまない著名エコノミストの長谷川慶太郎氏の談話である。

 長谷川氏によれば、欧州を救うための多額のコストをドイツ一国で支えることは充分に可能であるとしている。EUはイタリアにしろ、スペインにしろ、悪名高きギリシアにしろ、過去の観光遺産で食っている国が多い。フランスは原発という武器を持っているが、世界的なトーンダウンで財政の厳しさが増している。
 こうした状況下で工作機械、産業機械、自動車などの先進的な技術は、ドイツが独占しているわけであり、ユーロや関税が障壁となって日本を始めとするアジア勢はEU域内にはなかなか入れない。EUは、まともなものづくりができない国ばかりだから、ドイツは一手にこれを引き受け伸び続けるという図式が成立する。

 世界のエネルギー事情に詳しい三菱重工業の元副社長の福江一郎氏は、ドイツからは学ぶことが多いとして、次のようにコメントする。
 「ドイツと日本の一次エネルギー消費はGDPあたり、人口当たりで比べてほとんど同じだ。しかし日本と違うところは、2012年前半段階ですでにドイツは再生可能エネルギーが24%に達している。これに対してわが国は、水力に多くを頼っており、せいぜいが再生可能エネルギーの割合は8%程度しかない。ここで多くの開きが出ている」

 ところでドイツの2050年における再生可能エネルギーが80%占有というのは、かなりのウソがあるのだ。2050年段階で使われるすべての電源において25%の省エネ/節電を心がけるという。残る75%の電源については、20%を外から買うといっており、ほとんどがフランスの原発であるといわれている。要するにこれらを引いたものの中で自国火力が20%、再生可能エネルギーが80%としているわけだ。かなりインチキじゃないか、という声も多い。

 さて、ドイツ企業といえばなんといっても、メルセデスベンツ、フォルクスワーゲンに代表される自動車産業である。頑丈で壊れずカッコいい、というブランド力は全世界に浸透している。
 また、電装メーカーの大手としてはボッシュがある。この会社は半導体を内製しており、MEMSセンサーやパワーデバイスの世界では量産メーカーのひとつに数えられているのだ。アナログ半導体ファンドリーの雄といわれるXファブもドイツメーカーなのだ。もちろん、世界的な重電メーカーであり医療機器メーカーであるシーメンスは、いまだに潜在的なブランド力を誇り、健在だ。
 一見してドイツと日本とのかかわりは薄いように見えるが、トヨタや日産が九州エリアの工場で量産することに対応し、ドイツの自動車材料メーカーのマーレーが、福岡県直方に新工場建設を決めるなど、水面下では日本と深く結びついている関係だ。

 女性宰相のメルケルは、ヒトラー率いるナチスでもできなかったヨーロッパの完全支配に成功したとも言われている。しかも、一滴の血も流さずに。技術力と強い国家意思力によってユーロを支配し、EUの中心的存在にのし上がったのだ。筆者も若いころにはドイツの記者と仲良くしていたが、ビールとポテトで乾杯したおりに、かのドイツ人記者は筆者にウィンクして、高らかにこう叫んだものだ。

 「先の第二次世界大戦ではお前の国と組んで闘ったが、残念ながら負けてしまった。今度やるときにはまた手を組もう。そして今度こそ米英を撃破してやろうぜ」
 平和主義者の筆者はこの誘いには決して乗らず、へらへらと笑うばかりであった。


ドイツの2050年の電源計画

ドイツの2050年の電源計画



泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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