電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第402回

水戸黄門は、葵のご紋を振りかざしていただけではない


~近代日本の夜明けは水戸学に始まることを認識する必要性~

2020/10/2

 生まれてこのかた、一度でいいからやってみたいことがある。それは、無礼なことを仕掛ける奴らに対して「下がれ下がれ、下がりおろう!この葵の紋所が眼に入らぬか」と言いながら、かっと眼を見開き、脅しをかけるのだ。当然のことながら、周りの者はみな平服し「ははー」と恐れ入るのである。

助さん格さんを引き連れた水戸黄門の銅像
助さん格さんを引き連れた水戸黄門の銅像
 テレビ時代劇でバカ当たりを取った番組である『水戸黄門』のなかで、黄門ちゃまが助さんと格さんを引き連れ、助さんが常套句のようにこの言葉を吐き出し、格さんが葵の紋所を見せつけるという場面が浮かんでくる。もっとも筆者は、本当のことを言えば、そのシーンより、由美かおるのお湯をはじくぴちぴちの肢体が見える入浴シーンこそ大切であった。

 だいたい、筆者はオリンピック競技の中でも、一番好きなのは女子マラソンと女子体操競技である。女子マラソンの場合は順位や記録などはどうでもよく、ただひたすら、ゴールを走り抜ける女子ランナーたちの、苦悶であえぐ顔のどアップだけがうれしいのだ。申し上げておくが、この場合、テレビの音声はすべて切ってある。女子体操競技についても、音声はすべて消して観ている。

 それはともかく、9月の4連休で、コロナ禍にもかかわらず、「GoToキャンペーン」に煽られて、多くの人が旅に出かけた。筆者もまた、お調子者であるからこれに便乗して出かけた。行先は茨城県水戸である。ご当地名物の「スタミナラーメン」、そして「水戸藩ラーメン」をたらふく食べまくり、地酒を飲んで楽しんだ。本来ならば、パチンコの「黄門ちゃま」を打って騒ぎまくるところであるが、人目を気にして、今回は自粛していた。

 ところで、水戸の街を歩きながら、電撃のようにある思いが頭の中を走り抜けた。水戸黄門こと徳川光圀は、徳川家康の孫にあたるわけであるが、実を言えば諸国を漫遊したことなどはない。それはテレビや小説の作り話なのである。何よりも重要なことは『大日本史』の編纂に着手したことである。若いころには結構不良であったが、心を入れ替えて、おそらくは歴史上初めてとなる大長編の書物である『大日本史』の編纂に取り組んだことが最大の功績なのである。

 しかして、この『大日本史』が完成するのは明治になってからであり、なんともはや凄まじいことをやってのけたといえよう。そしてこの光圀の事業は、後の「水戸学」と呼ばれる学問の形成につながっていく。

 この「水戸学」が問題なのである。水戸藩で形成された政治思想であり、民を愛することや「敬天愛人」といったキーワードが、吉田松陰や西郷隆盛をはじめとする多くの幕末の志士たちにとんでもなく大きな影響を与えた。そしてそれが、「尊王攘夷論」につながっていく。水戸藩においては、会沢正志斎、藤田東湖らが水戸学の中心となり、第9代藩主の徳川斉昭は、この思想に多くの感銘を受け、尊王思想を貫く生涯を送った。

 もちろん、尊王攘夷は貫徹されるわけもなく、「尊王開国」という考え方に塗り替わっていく。そしてついに、徳川慶喜による大政奉還がなされ、265年に及ぶ江戸時代は終わりを告げ、近代日本の夜明けが始まるのである。徳川慶喜は最後の将軍(第15代)となったわけであるが、この人は、何と徳川斉昭の子供である。

 さあ、よく考えてみよう。なんのことはない。徳川幕府を作った家康の孫である水戸黄門こと徳川光圀が創始した大日本史の思想は、脈々と引き継がれ、なんと徳川幕府を倒す思想になっていく。黄門ちゃまはただ者ではなかったのだ。

 明治維新といえば、やたらに薩摩や長州、さらには土佐などが褒めたたえられることになるが、よくよく考えてみれば、薩長土肥による討幕のベースになる考え方は水戸学であり、ストレートに言わせてもらえば、水戸黄門こそが、近代日本の夜明けを生み出した大人物なのである。

 歴史とはなんとも「奥が深くてひだがある」ものだなあ、と思いながら水戸の街を歩いていたら、女子大生たちの話し声が聞こえてきた。それは次のようなものであった。

 「茨城県って何にもないじゃない」「魅力度ランキングで全国最下位の県なのよ」「なんかさあ、街を歩いている女性たちもセンスないわよね」「水戸黄門はカッコいいのに、なんでこの街はこんなにだめなの」

 アイスクリームをなめながら、こんな話をしているこの女たちこそ「日本の歴史を知らないバカッチョ」と思ったが、その時脳裏に「水戸は日本三大不美人地帯の一角に挙げられる」という声が走り抜けていったのである。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。35年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『自動車世界戦争』、『日・米・中IoT最終戦争』、(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)、『君はニッポン100年企業の底力を見たか!!』(産業タイムズ社)など27冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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