電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第364回

RoHS3の新規制対象は最大9物質?


代替物質の検証・適用不可欠に

2020/8/21

 EU(欧州連合)の環境委員会が、新たなRoHS指令(RoHS3)を発動すべく準備中との情報が出てきている。世界の電子機器関連の工業会や専門家など利害関係者へのコンサルテーションが2020年2月に終了した。早ければ、21年1~3月に規制対象物質を公表し、同年4~6月でEUの官報に公示するスケジュールで進んでいるようだ。欧州をはじめ世界各国のエレクトロニクス関連の環境規制・動向に詳しい業界関係者が明らかにした。

 規制対象物質は現在のところ、以下の9物質が候補に挙がっているという。

1.三酸化アンチモン
2.テトラブロモビスフェノールA(TBBPA)
3.クロロアルカン(中鎖塩素化パラフィン)
4.ベリリウム
5.硫酸ニッケル
6.スルファミン酸ニッケル
7.リン化インジウム
8.二塩化コバルト
9.硫酸コバルト

 もちろん、これら9物質が一度にすべて規制対象とされるとは限らないし、上記の日程も前後する可能性が十分にあると、先の関係者は強調する。グローバル化がこれだけ進展して、サプライチェーンも複雑化しているなか、国内の電子機器メーカーもこうした情報を普段からいち早く把握し、規制が強化された場合の対応について、「川中」や「川上」に位置する部材などの関連業界とともに情報を提供・共有しておくことが重要になる。例えば、代替物質の確認や検証・適用製品をしっかり業界として準備しておく必要がある。これら9物質を含有していないか分析をして確認することが、まず重要になる。もし含まれているならば、代替の検討が必要になってくるからだ。

難燃剤などに依然使用例も

 1つ目の三酸化アンチモンは、難燃助剤としてプリント配線板の紙フェノール銅張積層板に使用されていた時期もあったが、日本では現在、基板への採用はないという。しかし、成形品の難燃剤として依然使用されていると同氏は指摘しており、エレクトロニクス製品の筐体に採用されている可能性があるという。

 さらに、2つ目のテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)だが、これも難燃剤として使用されており、特にエポキシ樹脂やフェノール樹脂に添加して利用されている例もある。また、臭素化エポキシ樹脂の原料として利用されるため未反応物として残っているのではないかとの懸念も指摘されているが、臭素化エポキシ樹脂を使った最近の銅張積層板を分析すると1ppm以下の検出であり、残存問題はないという。

 ベリリウムなどの金属元素も俎上に上っており、これらが規制対象になれば当然、電子機器セットメーカー各社らは代替材料などの選定・評価が必須となり、少なからず影響が出てくるだろう。特に前述の1~3までの物質が現在、優先的に規制をかけるべきとして、RoHS3の第1段階で公示される可能性が高いと、先の関係者は指摘する。その裏付けの根拠として、14年1月にオーストリア環境省が決めたRoHS指令に採用する優先物質の第2優先順位に挙げられているためだ。

RoHS指令、これまでの歴史と経緯

 RoHS指令(Directive on the Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical equipment)とは、電気電子機器などの特定有害物質の使用制限に関する指令で、03年2月にEUが公布。06年7月1日以降、EU市場で販売される電気・電子製品への鉛、水銀、カドミウム、六価クロム、ポリ臭化ビフェニール(PBB)、ポリ臭化ビフェニルエーテル(PBDE)などの6物質の使用が原則禁止された。これが最初のRoHS指令(RoHS1)となった。

 電子業界は、1990年代から環境を意識した電子機器などの設計を重視する時期となった。その背景にあったのが、大量生産で生まれた急増する電気・電子機器の廃棄問題だ。特に鉛などは毒性も強く、胃腸や腎臓障害および神経障害(頭痛、興奮状態、不眠、筋肉の痙攣など)様々な障害を引き起こすことが指摘されている。廃棄される電気・電子機器を削減するには、寿命を延ばしたり、あるいは、リサイクルして再利用を促したりする案が検討された。

 特に欧州では、指令を策定して解決する手法が検討され、リサイクルする場合には有害物質が入っていない方が好ましいとされたためだ。

 当初の最終製品の規制対象は、AC1000V/DC1500V以下の定格電圧を持つ大型家電、小型家電、情報技術および電気通信機器、民生用電子機器、照明器具、電気電子工具、玩具・レジャーおよびスポーツ用品、自動販売機の10分類の電気・電子機器に適用された。

 その後、改正RoHS(RoHS2)では、その他の電気・電子機器が追加され、11分類のすべての電気・電子機器が対象となった。規制物質もフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)、フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ジ-n-ブチル(DBP)、フタル酸ジイソブチル(DIBP)の4物質が新たに追加され、合計10物質まで拡大している。そして19年7月から施行されている。


意見調整や議論は十分だったのか

 もし、国内電子機器メーカーらが欧州で製品を販売することになれば、これらの物質を使用していないことを宣言する必要があり、同市場で事業を展開していくために、電子機器にはCEマーキングと呼ばれるラベルを貼付して、その製品の販売記録や技術製品資料などを10年間保管する義務が生じるという。一歩対応を間違えると、欧州市場から締め出され、事業機会をみすみす失う危険がある。

 今回の改訂RoHS指令は、RoHS3とも呼ばれる新規の指令案となり、上述の9物質が現在最終的に議論されているのだ。

 このEUの環境委員会に対峙し、電気・電子機器の環境規制に対して意見できるのは国内には業界関連4団体(CIAJ、JBMIA、JEMA、JEITA)および在欧日系ビジネス協議会(JBCE)などがあり、コンサルテーション時に意見を述べることができる。

 だが、同氏が言うには、こうした環境規制が始まる前に、国内のセットメーカーの立場を踏まえて、サプライチェーン上の関係者の意見も聴衆したうえで、EUに対してしっかりと意見を表明し、ロビー活動を行ってほしいと話す。今回のRoHS改正案の対応策についても、業界内でどれだけ真剣に議論したのかが伝わってこないという。今後、EUが公示した際に、材料メーカーらが「そんな話は聞いていなかった」では済まされないとも語る。

 グローバル化が加速し、ますます複雑化するサプライチェーンをしっかり見据えたうえで、国内電子産業界全体の立場を反映した意見調整や情報発信力のできる仕組みづくりが求められている。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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