電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第10回

ニッポンのものづくりはやはり高品質・高付加価値


~世界首位の空調メーカー「ダイキン」のすばらしさ~

2012/9/21

 半導体をはじめとするエレクトロニクス関連のカンファレンスで講演すれば、青息吐息のうつろな眼がこちらを見つめている。シャープの経営危機問題に代表されるように、日本の家電産業を取り巻く環境は、史上空前といっていいほど悪いことの重なりばかりだ。

 一般消費者の代表格である主婦のおばちゃんでさえ、街角で「もう日本の電機メーカーはだめかもね、どうせなら今度はサムスンにしてしまおうかしら」などと、ひそひそ話をしているほどなのだ。この風潮に別に驚くことはない。もはや携帯電話の世界ではこの日本市場においても、サムスンのGALAXYが堂々と闊歩しているわけだから。

 トホホという思いで厳しい残暑にのた打ち回りながら新聞を眺めていたら、久方ぶりの威勢のよい記事が眼に飛び込んできた。見出しは次のとおりだ。

 「ダイキン、米社を買収 空調大手3000億円で 中国勢に対抗 世界首位固め」(日本経済新聞東京版8月29日付1面)

 すでにダイキンは、2011年度の空調部門の売り上げで1兆400億円に達しており、世界第1位の地位にある。米国の家庭用エアコン首位のグッドマングローバルを買収することで、総売上高は1兆2000億円を超えてくるのだ。

 卑近なことで恐縮であるが、筆者はあまりの残暑に耐え切れず、先ごろダイキン工業のエアコンを買うに至った。「うるるとさらら」というすばらしい技術を駆使し、冷暖房と加除湿が同時並行で作動するというウルトラ離れ業を見せる代物なのだ。とりわけ快適エコ自動モードの機能は絶賛に値するほどだ。

 ちなみに、エアコンを買い換えたのは、ほんの3年前に川崎の家電量販店で超特価のエアコン(一応国内製)を買ったところ、たったの3年で壊れたからだ。そのときさすがに日本びいきの筆者も「ニッポンのものづくりももはやこれまでか。こんな製品を作っているようではお話にならない」と低くつぶやいたものだ。

 思い返してみれば、筆者の家業は横浜駅近くの蕎麦屋であり、ここで二十数年間使い続け、まったく壊れなかったエアコンは、ダイキン製であった。ダイキンのコア技術はなんと言っても、日本が世界に誇るヒートポンプ技術とインバーター技術に裏打ちされており、低価格で勝負せず、高品質・高付加価値で勝負するという日本企業の今後のあり方を象徴しているといえるだろう。

省エネ大賞を受賞したパナソニックのヒートポンプ技術
省エネ大賞を受賞した
パナソニックのヒートポンプ技術
 ちなみに、テレビ販売の不振であえいでいるパナソニックも高品質な白物家電で今後勝負すると言っている。同社のヒートポンプ技術も超一流であり、自然冷媒ヒートポンプ給湯器「パナソニック エコキュート」は平成20年度の第19回省エネ大賞(資源エネルギー庁認定)を受賞するほどのレベルの高さだ。ヒートポンプやエアコンについては滋賀県草津工場が主力拠点となっている。

 ところで、先ほどの日経新聞8月29日付1面トップに「ダイキン、米社を買収」という勢いのある記事が掲載されたわけだが、その横には米国投資ファンドのKKRが、経営再建中の半導体大手ルネサス エレクトロニクスの経営権を取得すべく1000億円の出資案を提示した、との記事があるのだ。かたや米社を買収し、世界ブッチギリ首位を狙う。かたやかつて世界ナンバーワンを誇ったNECの後の姿であるルネサスが米社に経営権を取られる。栄枯盛衰という言葉がどうしても胸の中を占めるのだ。

 ときあたかも大阪市長の橋下徹氏が率いる維新の会が、次期衆議院選挙に乗り出し、過半数を取って見せるといきまいている。大阪からこの日本を変えて見せるとの意気込みであり、ダイキンもまた本社を大阪に置き、世界と勝負しようとしている。大阪維新の波は、怒涛のように押し寄せてきているが、くだんの橋下氏は「比叡山焼き討ち」も平気でやるという感じだから、筆者は「あなおそろしや」と今から打ち震えているのだ。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。日本半導体ベンチャー協会会長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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