電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第323回

5Gアンテナ市場攻略に動くTEコネクティビティ


高付加価値市場に進化

2019/11/1

 第5世代移動通信システム(5G)の到来で活性化する市場がある。データセンターと連動する基地局用のアンテナ市場だ。大容量/高速伝送を背景に、高付加価値市場に進化する。

 当然、アンテナ内部接続用のコネクターやケーブル、アセンブリー部品群も付加価値が引き上げられ、ビッグ市場を形成する。この市場動向を受け、接続部品コネクター最大手のTEコネクティビティ(本社スイス、日本法人はタイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社)も5G対応のアンテナ市場攻略に向けて動き出した。

5Gアンテナ市場

 スマートフォンなどモバイル情報機器の加入者数は、世界規模で2017年に78億人。これが23年には89億人に達する。このうち、5Gの通信環境を享受できる加入者は10億人強で、全データ通信量の20%を占めることになる。

 地域別では北東アジア域を筆頭に、北米、西欧州が世界市場をリード。とりわけ北東アジア域は、加入者の34%が5Gユーザーになる見通しだ。

 この市場成長に対応するため、5Gを焦点とするインフラが、21~22年にかけて顕著に動き出すと推定される。その核となるアンテナが、MIMOアンテナRFシステムである。MIMOとは大規模複数入出力の意味。つまり、1つのアンテナユニット内に、64~128にも及ぶアンテナエレメントを搭載。5Gにおける通信容量の大容量化に応える。

 市場はすべてのアンテナがMIMOに代わるのではなく、既存アンテナにMIMOタイプが追加されるかたちで市場規模を拡大する。

白井浩史氏
白井浩史氏
 MIMOタイプを周波数帯で見ると、6GHz以下(サブ6GHz)と6GHz以上に分かれる。後者はミリ波を活用する。技術的にはミリ波/6GHz以上に注目が集まるが、実市場はサブ6GHzが中心となる。市場構成はサブ6GHzが65%を占める。このため、タイコエレクトロニクスもまずは「サブ6GHz市場を徹底攻略していく」(データアンドデバイスアドバンスドテクノロジー本部長の白井浩史氏)方針である。

アンテナ接続へのニーズ

 アンテナ接続へのニーズは大きく3ポイントある。この3ポイントをより高いパフォーマンスで同時に満足させるとともに、コスト抑制も重要な課題となる。

(1)高速設計
 高速設計は5G対応にかかわらず、既存アンテナにも要求される普遍的なニーズ。約30年前のアナログ伝送時代と比較すると、5G突入で伝送速度は10万倍に高速化されたことになる。今後もこのトレンドは継続されるものであり、永遠の開発テーマとして取り組んでいく必要がある。

(2)コンパクト設計
 データセンターでもそうだが、伝送信号のデジタル処理が端末に近いところ、いわゆるアンテナヘッドで処理されるようになってきた。このためコンパクトで、高性能な接続が不可欠になってきている。もちろん、アンテナのみならず、コネクターやケーブル、アセンブリー技術などにもコンパクト設計が要求される。

(3)堅牢性を持つ設計
 今後をにらむと、電子機器は屋内のみならず、屋外での設置が増加する。アンテナも堅牢性を確保し、現状の数倍の信頼性を獲得する必要がある。また、モビリティーへの搭載を考慮すると、堅牢性に加え、耐振動性や温度対策も付加される。

アクティブアンテナシステムの台頭

 既存のアンテナシステムは、リモートラジオユニット(RRU)。通信信号は基地局サーバーから光ファイバーでRRU内のリモートラジオヘッドにデジタル送信。その先は、RFのアナログ送信でアンテナに送信される。

 5Gの大容量化を迎えると、MIMOの複数入出力数をさらにスケールアップした、マッシブMIMOが導入される。外観はRRUと同じだが、内部にデジタル処理システムが内蔵されている。従来はアンテナから離れたところに設置されていたが、複雑で大容量の5G信号を処理するため、アンテナヘッド近くに内蔵したかたちとなる。このマッシブMIMOも含め、様々な機能をアンテナユニットに一体化させた、アクティブアンテナシステム(AAS)が5G時代の主流アンテナとなる。

 AASではコンパクト設計のほかに、EMI(電磁妨害)干渉シールドや放熱性、あるいは多基板間の同時接続など、様々な技術課題をクリアしなければならない。

タイコエレクトロニクスの取り組み

 タイコ エレクトロニクス ジャパン合同会社では、5G時代のアンテナの進化を受けて、コネクターのみならず、周辺部材の進化も精力的に推進中である。

 同社は5G対応AASを焦点に、アンテナと無線のRF基板対基板接続コネクターおよびRF基板対フィルター接続コネクターを市場に投入。両コネクターとも、一体型圧縮設計により、使い勝手と低コスト化を徹底追求している。

 ハイスピードケーブルも、内部スイッチング速度と連動させ、現状の28Gbpsから56Gbpsへと移行中。22~23年ごろには112Gbpsへ、さらにその3~5年先には800Gbpsの領域に達するロードマップを描いている。「112Gbpsまでは56Gbpsの技術延長で対応可能。製品的には56Gbps品は市場投入しているが、112Gbps品はサンプル供給」(白井氏)で顧客ニーズに応えている。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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