電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第301回

中国ネット通販大手、京東集団のIoT・ロボ戦略


ロボレストランや無人スーパーも展開

2019/5/31

 京東(ジンドン)集団と聞いてピンとくる方はどれほどいるだろうか。中国に詳しい方なら知っていて当たり前かもしれないが、同社は中国の大手インターネット通販サイト「京東商城(JD.com)」を運営する企業である。2018年の売上高は4620億元(約7兆7709億円)に上り、18年末までに京東が中国で運営した大型倉庫は550を超える。そんな大手ネット通販企業が近年、力を入れていることがある。物流におけるIoT・ロボット化に関する取り組みだ。

 京東は07年に独自物流網を構築して以来、技術革新や研究などを重ね、特に「物流のスマート化」で大きな実績を上げている。京東が目指すのは「ボーダーレスリテール」の実現。オンラインとオフライン(実店舗)、物流機能まで融合させたビジネスの総称で、消費者にいつでも・どこでも、オン・オフラインの境界線すらも越え、快適に消費できる環境を提供する世界を意味している。

 例えば14年には、高度なオートメーション機能とシステム性を備えた超大型スマート物流センター「アジアNo.1」を上海に建設。それ以降もスマート物流センターの整備を進め、現在は中国国内の20カ所にセンターを構え、今後さらに40カ所以上増やす予定だ。

 スマート物流技術は大きな成果を上げており、中国のインターネット通販の最大の商戦日である「独身の日」(11月11日)において、京東は90%以上の注文を受注当日または翌日までに消費者まで届けることに成功。1日に70万件の受注を処理した物流センターもあり、物流業界の最高記録を達成した。

物流センターに5G活用

 スマート物流センターには、ロボット、センサー、AIなどの先端技術が積極的に導入されており、自社開発技術も活用している。その1つとして、世界で初めて10秒で2000件の商品バーコードを読み取れるマシンビジョンシステム「秒収(ミョウシュウ)」の運用を3月から開始。4月には、フレキシブルコンテナバッグ(荷物を保管・運搬するための麻袋)などの袋状の荷物を、自動識別・自動仕分けできるIoTシステムを開発した。AI技術や360度コード解読技術などを組み合わせ、1袋0.9秒で識別でき、仕分け精度は99.99%を実現。1時間で4000袋を識別でき、作業効率は5倍以上改善されている。

倉庫内にロボットを多数活用
倉庫内にロボットを多数活用
 そして現在、「5Gスマート物流モデルセンター」の建設を進めており、19年内に運営を開始する予定だ。5G(第5世代移動通信システム)を活用し、AI、IoT、自動運転、ロボットなどのスマート物流技術と設備を融合したスマート物流施設で、人、機械、車、設備を連携させ、自動運転、自動仕分け、自動検査システムを構築し、5G技術を使用した新しい物流応用モデルの実現を目指している。

ロボットやドローンで配送

 物流センターだけでなく、配送でもIoT・ロボット化に関する取り組みを進めている。その1つとして15年からドローンの開発に着手し、16年に江蘇省や陝西省などで世界初の商用ドローン配送を実施。1月にはインドネシアで同国初となる政府承認ドローン試験飛行にも成功し、インドネシアおよび東南アジアでの商用ドローン基盤も構築している。

 また、17年には宅配用の地上配送ロボット(UGV)を発表。現在までに複数の大学構内に導入され、一部の都市でも運行している。そして18年11月には中国・長沙市およびフフホト市に中国初の「無人配送車スマート配送ステーション」を開設した。

 同ステーションは、最終中継拠点から消費者までの配送、いわゆるラストワンマイル配送をロボットで自動化した拠点で、配送ロボットは最大30個まで荷物を積み込むことができ、半径5km以内を自動で配送している。ロボットは最短配送ルートを自動で計算し、走行中は障害物を避け、信号を認識することも可能。商品の受け渡しには顔認証システムを活用することで、正確かつ安全に配送が行える。配送ステーションではロボット配送と通常の配送を両方行い、両配送がフル稼働した場合、1日に2000個の荷物を配送することができるという。

 そして2月には、楽天(株)(東京都世田谷区)と無人配送ソリューションの領域で連携すると発表。楽天が日本国内で構築を目指す無人配送システムに、京東集団のドローンとUGVを活用し、日本における無人配送サービスの早期実用化を目指している。

18年末にロボレストラン開設

 物流以外では、18年11月にロボットレストラン「京東X未来レストラン」(中国・天津市)を開設し注目を集めている。料理の注文、調理、配膳、サービス、会計までの全工程をAIロボットとAI管理で運営するレストラン(面積約400m²)で、100人まで収容できる。来店者はQRコードを読み込み、40種の中から料理をアプリ上で注文。その注文を受けて5台のロボットが調理し、自律移動型ロボットによって料理を配膳している。

ロボットレストランも運営
ロボットレストランも運営
 調理ロボットは1日に600食以上を調理し、各テーブルで注文された料理は平均15~30分ですべて揃うという。また、料理を運ぶ配膳ロボットは自動で経路を計算して1日に約20kmを移動し、配膳を500回以上行っている。

 そのほか、京東では無人スーパーも展開。店舗全体に配置されたカメラが顧客の動きを認識し、トラフィックフロー・商品選択・顧客の好みを把握できる。17年10月に北京本社に初めての店舗をオープンして以降、その数を着実に増やし、現在中国全土で約20店舗を運用。18年8月には、初めての海外店舗となる店舗「JD.ID X-Mart」をインドネシア・ジャカルタにオープンした。

 日本では近年、物流、飲食、小売業などを中心に人手不足が深刻化するなか、IoTやロボット技術を導入する動きが進みつつあるが、京東では上記のようにロボットやAIなどを本格的に導入し、すでに高い成果を上げている。そして楽天との連携などを機に日本での展開も加速していく方針であり、日本において京東の省人化技術が活用され、UGVやロボットレストランなどが我々の目に触れる日もそれほど遠い未来ではないのかもしれない。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

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