「IoT時代の本格到来で電子デバイス産業は一気に抜け出してくる。超スマート社会を実現するためにはIoT技術の導入が不可欠であり、365兆円の新市場創出には500億台の端末、数兆個のセンサーが必要になるのだ」
力強くこう語るのは、一般社団法人日本電子デバイス産業協会(NEDIA)代表理事・会長の齋藤昇三氏である。ちなみに齋藤氏は東芝半導体を率いて一大躍進を築いた元副社長であり、その論点の鋭さに驚く人は多いのだ。
ちなみにこの談話は、産業タイムズ社創立50周年記念カンファレンス(11月27日 主催=電子デバイス産業新聞)における講演でのことである。
産業タイムズ社50周年記念カンファレンスで
熱く語るNEDIAの齋藤会長
「IoTの本質とは、価値の所在が変わることだ。これまでのモノの価値は主にハードの機能や性能であったが、これからはソフトが組み込まれることにより、ソフトの機能や性能がモノの価値を規定していく。世の中の要求は個別化、多様化しており、低コストでカスタマイズを容易とする仕組みが必要である」(齋藤氏)
確かに現状で普及しているIoTはクラウドでの処理を基本としているが、課題はかなり多い。リアルタイム性に欠ける、データのセキュリティーが危ない、通信トラフィックが増大する、データセンターでの消費電力が大きいなどの問題が横たわっているのだ。すべてをデータセンターのクラウドと端末でやらせてしまえば、消費電力という点でも、またスピーディーな処理という点でも、IoT革命の阻害要因が大きくなってくる。そこで齋藤氏が強調するのは、エッジコンピューティングによるコスト削減なのだ。
「センサーで取得したデータをリアルタイムでクラウドに送信・分析し、分析結果に基づき機器を最適制御しようとしているが、8割近くのデータは非構造化データのため有効活用は難しい。また、データ通信量が膨大で即座にフィードバック制御するリアルタイム処理も難しい。そこで必要なのがエッジコンピューティングであり、センサーに近いエッジ側で分析に必要な情報を検出し、必要不可欠な情報のみクラウドに送る、これならいけるのだ」(齋藤氏)
現状のIoTを見ても、クラウド/ネットワークサービス/AIはすでに米国企業主導で、日本に勝ち目はない。しかし、クラウドに依存しない自律・分散システムであるエッジシステムは、これからが勝負となるのだ。日本の強みはセンサーの世界シェア50%を持つことであり、カスタマイズ技術にも秀でていることだ。これを活かせば、ニッポンにも勝機は十分にある、と齋藤氏は指摘するのだ。
こうした背景から齋藤氏が自らリーダーシップを取り立ち上げた組織が「エッジプラットフォームコンソーシアム(EPFC)である。これはオープンイノベーションでエコシステムを実現し、インテリジェント自立電源センサーの実現も目指し、さらなる各構成デバイスの低消費電力化を図るというものなのだ。もちろん、AIはフル活用する。重要なことは、このAIをベースに各用途のセンサーモジュールが相互連携しインテリジェント化され、自己学習機能によりすべてが最適な状態にコントロールされるという設計プランなのだ。これをやれば2030年以降には日本は勝てる、と齋藤氏は言い切る。
ちなみに、日本の優位性は8インチ半導体の生産キャパシティーでは世界最大であることであり、これから必要とされる膨大なセンサー量産に向いた条件を備えているのだ。そしてまた、東芝が加速度的に進めている微細化と多値化を同時に実現する新たな3次元フラッシュメモリーは、インテリジェントエッジ端末には必須のものとして高成長していくともいう。
「確かに日本企業の半導体の生産シェアは、2016年段階で9.5%まで落ち込んでしまった。しかして世界トップシェアを持つソニーのCMOSイメージセンサーをはじめとするセンサーテクノロジーの強さは、IoT時代にフルに発揮されることは間違いない。そしてまたクラウドに依存しないエッジシステムの必要性が各種センサー、フラッシュメモリーなどに大きな利得をもたらし、日本企業の復活につながる。半導体産業は今や40兆円を超えてきたが、2025~2030年には100兆円規模に拡大する可能性は充分にある。ここでの日本勢の活躍に大きく期待したい」(齋藤氏)
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泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。