電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第215回

小型無人機「ドローン」の市場は2023年に世界で10兆円に拡大


~圧倒的シェアを持つ中国を急追する日本企業の活躍に期待~

2017/1/6

 ある半導体関連企業の工場完成披露に出かけたところ、集まった多くの群衆の上に小さな機体音を響かせて飛んできたのが小型無人機「ドローン」であった。要するに空中からすべての群衆を撮影するわけであり、この用途を終えてドローンはいずこともなく立ち去って行った。実に便利なものだな、との思いと、今までは調べられなかったことがドローンによって分かってしまう、という恐ろしさも同時に感じることになった。

 それはともかく、IoTを構成する新たな機器の1つにドローンの存在が際立って浮上してきた。2023年にはドローン関連事業の市場は世界で10兆円になる見通しであり、ロボットと並んで注目を集めるIoT機器にのし上がるといえよう。

 ところが現状において、機体の世界シェアは中国のDJIが70%以上を占有しており、日本メーカーの存在感はほとんどないといってよい状況だ。ちなみにDJIはすでに3万機以上を生産しており、売り上げも500億円を突破、株式時価総額は1兆円に達するなど、まさに世界の注目を集める企業となってしまった。

 ところで、日本国内ではセキュリティーを扱う企業がドローンの活用を一気に進めようとしている。綜合警備保障はドローンを活用したメガソーラーパネルの点検サービスに本格的に取り組もうとしている。また、セコムは民生における防犯用途でドローンを提供すべく全力を挙げている。セコムと深いつながりを持つチノーは、温度センサーで世界トップ企業であるが、これまた小型ドローンを飛ばして様々な空間の温度計測、さらには制御をすることを考えている。

 ドローンという分野で後れを取っていた日本勢であるが、16年12月に至ってようやく大手企業が動き出した。すなわち、総合商社トップの三菱商事と電機産業トップの日立製作所が共同出資で新会社を作り、17年春からドローン事業に参入するというのだ。この新会社はスカイマティクスであり、資本金は2億9000万円、三菱商事が66%、日立が34%を出資する。

 顧客ニーズに合わせ込んだオリジナルの機体を製造し、データ計測・分析までを一貫して手がけ、ドローンによる総合サービスを展開しようというのだ。当面は農業、建設、鉱山などでの現場での利用を見込む。ドローンによる農薬の散布、建設資材における場所や量の把握、鉱山における作業指示、監視などのアプリを考えているようだ。

 これまで国内においてドローン機器の開発はベンチャー企業がほとんどであり、大手企業の参入はあまりなかった。しかして、三菱商事と日立の参入により、急速にドローン活用の機運がみなぎり始めた。現在は立ち遅れている日本であるが、ヤマハはすでに1987年に農薬散布向けの無人の小型ヘリコプターを世界で初めて開発している。一時期はソニーを追い抜き、エレクトロニクス企業の株式時価総額トップを誇ったキーエンスは、センサーメーカーとして多くの開発を手がけているが、91年には重さ90gのドローンを発売しているのだ。ところが、日本では安全性の懸念がひたすら言われたことから、どうにもこうにも盛り上がらず、ブームにならなかった。

アマゾンはドローン時代のフロンティアランナー
アマゾンはドローン時代のフロンティアランナー
 政府はここに来てロボット産業支援策を徹底的に強化する方向にあるが、この中にドローンも含めることを了承し、国内数カ所にドローン特区を作ろうとしている。ドローンの本格的なブーム到来はアマゾンドットコムが荷物の無人搬送に活用したことから始まる、といわれている。やはり米国企業の先見性は大したものであるが、規制でがんじがらめの日本もうかうかしていれば、巨大ドローン市場を取りに行くことができなくなるのだ。

 CMOSイメージセンサーで世界トップを行くソニーもドローンへの取り組みを強化する方向を打ち出している。災害現場やトンネル、さらには農作業での利用を見込んでの開発が促進されている。先進的な半導体を開発できる日本企業は、当然のことながらドローンに熱い視線を注いでいる。現在世界には50社のドローンメーカーがあるが、かなり多くが中国製の安い半導体や電子部品を使っている。これを日本製に置き換えていくことが重要な課題なのだ。もちろん日本企業が手がける高感度センサー、高機能モーター、高性能電池などの電子デバイスも、次世代ドローンには大きな貢献を果たしていくことになるだろう。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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