電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第208回

世界の半導体メーカーは歯をむき出しにしてIoT車載に向かうのだ


~業界で過去最大規模の買収、クアルコムのNXP取得が意味するもの~

2016/11/11

 「自動運転技術を支える4つの要素はセンシング、認識、操作、判断である。また、IoT対応の次世代コネクテッドカーには通信技術が必須となる。さらにエンジン制御、インバーターなどはさらに進化していく。こうした状況下で電子デバイス技術の重要性はいやがうえにも高まってきたのだ」

日産自動車総合研究所 白土良太氏(正しくは土の右上に点)
日産自動車総合研究所
白土良太氏(正しくは土の右上に点)
 こう語るのは日産自動車の総合研究所にあって、モビリティ・サービス研究所の主任研究員の任にある白土良太氏(正しくは土の右上に点、以下同)である。日産は1979年当時、世界初となるエンジンの電子制御を搭載。2007年にはモーターショーでロボット搭載の次世代エコカーを発表し、国内外をあっと言わせている。

 「電気自動車の代表格ともいうべき日産LEAFは、16年8月末時点で23万3911台も出荷している。世界を走るLEAFの状況は、リアルタイムに把握できている。経済の発展とともに人の移動距離は増加するばかりだ。安全走行支援のADAS技術は今後のテクノロジーのキーであり、様々な新たなデバイス技術が要求されている」(白土氏)

 このスピーチは第3回電子デバイスフォーラム京都(日本電子デバイス産業協会=NEDIA主催、11月1~2日)の基調講演の中で語られたものだ。この京都フォーラムの技術セッションは自動車分野で3つが設けられ、いずれも満席の盛況となった。IoTに向かう時代にあって、いかに自動車の次の方向性に多くの企業が関心を持っているかが物語られているといえよう。

 さて、先ごろ半導体世界ランキング3位のポジションにいる米国の大手ファブレス企業であるクアルコムが、オランダのNXPセミコンダクターズの買収を決めた。何と5兆円を投入する買収劇であり、ソフトバンクの英アーム買収の3.4兆円をさらに上回り、業界で最大規模となった。この狙いはただ1つ、車載IoTをクアルコムが最大重視しているということなのだ。

 「NXPセミコンダクターズは昨年にフリースケールを約1.2兆円で買収しており、世界最大の車載向け半導体メーカーに躍進した。そのNXPを今度はスマートフォン向け半導体で最大の存在であるクアルコムが手に入れてしまった。IoT時代の到来は、まず車載向け電子デバイスの世界が主役になることを表す出来事だろう」

 こう語るのは半導体業界の著名アナリスト、南川明氏である。南川氏によれば、平均的な新車に搭載されている半導体は現状で600個強であり、半導体搭載金額は1台あたり350ドルを超えてきて、2000年の250ドルと比べ大幅に増加しているのだ。

 このクアルコムの買収案件に先立ち、半導体メーカーの米アナログデバイセズは、同業のリニアテクノロジーを1.5兆円で買収している。これもリニアの持つ車載半導体を手に入れたいとする思惑のためだ。また世界最大の半導体メーカーであるインテルは、すでにFPGA大手のアルテラの買収に成功しているが、これまたIoT対応の車載向け半導体の開発をにらんでのことであった。

 要するに、今や世界の有力半導体メーカーはIoT対応、ADAS搭載の次世代車に搭載するデバイスに熱い熱い視線を注いでおり、具体的なアクションを開始した、ということなのだ。

 迎え撃つ日本勢の先頭に立つルネサスもまた、先ごろ米国のインターシルを約3000億円で買収することを決めた。これまで守り一方であったルネサスが攻めに転じたのだ。ルネサスの新たなトップは日産自動車から来ており、やはり車載IoTを明確に意識した買収劇であった。

 15年の車載向け半導体シェアランキングは、筆者調べによれば1位NXP=4200億円、2位インフィニオン=2800億円、3位ルネサス=2600億円、4位STマイクロ=2000億円、5位TI=1900億円、6位ボッシュ=1500億円、7位デンソー=1400億円、8位オンセミ=1100億円、9位マイクロン=650億円、10位東芝=630億円とみられる。しかして、クアルコムのNXP買収、さらには今後も巻き起こるであろうM&Aで、順位はころころと激変していくことだろう。

 「全方位の運転支援システムは今後の要の技術となるだろう。07年発売の車線逸脱防止支援システム、ディスタンスコントロールアシストはいずれも世界初のものであった。11年には移動物検知付きアラウンドビューモニター、12年には後退時衝突防止支援システムを世界に先駆け発売した。日産はこれからもセーフティー・シールド技術で世界の先頭を走る考えだ」(白土氏)

 いやはや、思い起こせば日産はかつて自前で大規模な半導体量産工場を建設しようとしていた時期があった(社内世論で見送られてしまったが)。トヨタはすでにかなりの半導体量産設備を持っている。ティア1のデンソーやアイシン精機も半導体本格参入を狙っている。これからは自動車およびティア1メーカー自らが半導体のカスタマイズ・内作に乗り出してくるのかもしれない。


泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報 社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
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