電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
新聞情報紙のご案内・ご購読 書籍のご案内・ご購入 セミナー/イベントのご案内 広告のご案内
第164回

ヨコからタテへ ~競争ルール変えた3D-NAND最前線~


サムスン独走態勢、東芝ら競合他社はキャッチアップできるのか?

2016/9/16

 NANDフラッシュの世界において、ここ2年ほどで大きな変化が起きている。ヨコからタテへ――。従来の 2D-NANDから、3次元方向にメモリーセルを積層化する3D-NANDへと主役が交代したのだ。3Dの台頭により、NANDフラッシュ業界には様々な変化が起こった。注力するアプリケーションの矛先が変化したこと、購入する製造装置のミックス変化(リソ中心からエッチ・成膜中心へ)、そして市場シェアなどの業界勢力図も大きく変わった。今回は3Dの現状を整理するとともに、東芝をはじめとする2番手のキャッチアップが今後どこまで可能であるかを展望していく。

2Dの技術的限界

 フローティングゲート(FG)構造をはじめとする従来の2D-NANDフラッシュは横方向の寸法を微細化していくことで、コストダウンを図ってきた。ウエハー1枚からのチップ取れ枚数を維持・増加させることで、単位容量あたりのビットコストを削減、結果的にこれが
大容量化を可能とし、スマートフォンやSSDをはじめとするNAND需要の拡大に応えてきた。

 しかし、1Xnmを境に2次元方向の微細化は限界を見せていく。隣り合うメモリーセルの干渉が大きな問題となるほか、リソグラフィープロセスの複雑化(SAMPなどのマルチプル・パターニング)によるコストの上昇などが顕在化。東芝は15nm(1Znm)など他社に比べて2Dの微細化を他社よりも推し進めたが、業界全体では1X~1Ynm世代が2Dの最終世代となった。

 これに取って代わって台頭してきたのが、3D-NANDだ。横方向の寸法ピッチを縮めていくことで、コストダウンを図る2Dに対し、3Dは縦方向にメモリーセルを積層していくことで、単位面積あたりの容量を稼いでいくコンセプト。よって、積層数が増えれば増えるほど、ウエハー1枚/チップ1個あたりの容量は増え、コストを下げることができる。東芝などは2000年代後半から、こうした3D構造のNANDフラッシュを「BiCS(Bit Cost Scalable)」と名付けて提唱してきた。

 業界内への提唱をいち早く行ったのが東芝だったにもかかわらず、量産をいち早く開始したのは韓国サムスン電子(Samsung)であった。結果論になってしまうが、Samsungは2Dの微細化で東芝よりも先に技術的限界を迎え、3Dに活路を見出さざるを得なかった。これに対し、東芝は2Dの微細化でSamsungよりも先行していたために、3Dへの移行に遅れを取るかたちとなった。また、我々が考えていた以上に3Dが業界内で「市民権」を得たことも予想外のことであり、これが現在の3D分野におけるSamsungの独走態勢を築くことになった。

エンタープライズ市場で急速に普及

 現在3D-NANDの拡大が急速に進んでいる分野が、エンタープライズ/クラウド用サーバーだ。なかでも、データの取り出しや読み書きが頻繁に行われる「ホットストレージ」といわれる分野での採用が急ピッチで進んでいる。頻繁なデータアクセスを行うために、HDDに比べて読み書きの速い3DベースのSSDが好まれるほか、2Dに比べて3Dの方が長寿命であることも採用に拍車をかけている。東芝で半導体事業を統括するストレージ&デバイスソリューション社社長の成毛康雄氏も7月に開催された事業説明会で、「1万~1.5万回転の高付加価値HDD市場において、SSDへの移行が進んでいる」と現状を分析する。米HPによれば、15年7~9月期からエンタープライズ向け出荷実績において、オールフラッシュがハードディスクを上回ったとしており、当初予測に比べてHDDからSSDへの置き換えが進んでいることがうかがえる(グラフ1参照)


 Samsungは他社に大きく先行するかたちで、14年から中国・西安工場で3Dの量産を開始。この約2年間の経験が生き、現在エンタープライズ/クラウド用SSD市場で圧倒的な地位を築くことに成功している。こうした状況を、東芝をはじめとする競合他社も指をくわえてじっと見ているわけでない。15年後半ごろから3Dへの設備投資を活発化させている。

16年7月に竣工した東芝 四日市工場の3D専用製造棟「N-Y2」
16年7月に竣工した東芝 四日市工場の
3D専用製造棟「N-Y2」
 東芝は現在48層品の量産を一部開始しており、巻き返しの世代と位置づける64層品のサンプル出荷を16年度上期から開始する。NANDを中心とするメモリー事業に16~18年度の3カ年で8600億円の設備投資を計画。16年7月には3D工程の専用棟となる「N-Y2」が竣工。本格的な生産体制が整うことになる。さらに、次期新棟も現在、土地の造成を進めており、17年初頭から建屋建設を開始、17年末の完成を予定する。48/64層品をベースに、GB(ギガバイト)アウトプットベースで17年度に3Dの出荷を2Dと同等程度にまで引き上げていきたい考えだ。

 米Micron Technologyもシンガポールで専用ラインとなる「Fab10X」の立ち上げを進めており、16年夏から初期ウエハーの出荷を開始した。現状、同社のNANDビット出荷のうち、2桁台前半程度が3Dで構成されているが、Fab10Xの本格稼働に伴い、これが16年秋には3Dの出荷が2Dを上回るとしている。米Intelも従来MPU用チップセットを量産していた中国・大連工場(Fab68)を3D量産ラインに改修。現状、月産3万枚相当の製造装置が導入されているもようで、Intelは16年4~6月期決算カンファレンスコールで、大連工場のウエハー投入を4~6月期から開始したとアナウンスしている。

 こうした他社の動向を牽制するかのように、Samsungはここにきて3Dの大型投資を再開させている。同社は16~17年の2年間で3Dの設備投資に25兆ウォンを投じる計画で、西安工場および韓国内の工場で生産能力の増強を進める。具体的には華城の第16ラインおよび第17ラインでの新規ライン構築を進める。第16ラインは既存の2Dから3Dへの転換投資を行うほか、第17ラインは新規投資となる。第17ラインはフェーズ1がDRAM向けとして稼働しており、フェーズ2は当初、10nm世代のロジックラインになると目されていたが、3Dラインに計画を変更した経緯がある。

 また、現在の主力拠点である西安工場での拡張投資(月産10万枚→13万枚)を行うほか、16年末~17年初頭には新拠点となる平澤工場への装置導入も予定されており、競合他社を振り落とすための投資戦略とも見て取れる。東芝を筆頭とする2番手勢に加え、Samsungも大型投資を再開したことで、16年末には業界全体のNAND月産キャパシティー147万枚のうち、35万枚前後が3Dに切り替わる見通し(グラフ2参照)


コントローラーが最大の課題か

 国内唯一のメモリーメーカーとして、東芝がいかにして3D分野で先行するSamsungに肉薄できるかも大きな関心事だ。48層品の量産開始や64層のサンプル出荷など、ここのところ3Dにおける公式アナウンスが相次いでおり、順調に進捗しているかのようにもうかがえるが、やはりそこには今後乗り越えるべき大きな問題がありそうだ。

 最大の課題がコントローラーだ。コントローラーはエラー訂正やウエアレベリングなど、ストレージ製品として機能させるうえで、非常に重要なデバイス。ストレージ製品として市場に出していくことを考えた場合、NANDチップだけでなく、コントローラーの優劣も競争力を左右するうえで重要なファクターだ。この点はSamsungやIntel、ウェスタンデジタルに買収されたSanDiskが優れているとされており、東芝の弱点とされている部分だ。

 エンタープライズ/クラウド用SSD分野が主戦場の3D業界で捲土重来を果たすには、このコントローラー技術の競争力強化が必須命題とされており、同社もリソース投入を強めている。成毛社長も「まだまだチャネル数(リソース)は不足している」と7月の説明会で現況について触れており、チップ開発と同時に、コントローラー開発の強化を並行して進めることが強く求められている。

 エンタープライズ市場はSSDを含め、部品の認定取得期間がコンシューマー製品に比べて非常に長期にわたる傾向が強く、場合によっては1年かかるケースもあるという。すぐにはSamsungと肩を並べることは難しいのが現状だが、業界の掟としてマルチソース化は常にあり、東芝にとっては、セカンドソースとして地位を確固たるものにすることが当面の目標といえそうだ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

サイト内検索