電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第157回

「チキンゲーム」の再燃燻るNAND市場


2016/7/29

 中国の福建晋華半導体(JHICC)が中国企業として初のDRAM工場の建設を開始したり、ソフトバンクが英ARMホールディングスを約3.3兆円で買収したり、さらには東芝が大規模投資を決定するなど、世界の半導体業界は今、大きく揺れ動いている。

 こうした最中、メモリー半導体業界最大手のサムスン電子は、3D-NANDフラッシュメモリーに大規模投資を断行する。2017年までに約25兆ウォン(約2兆2727億円)を投じ、競合する東芝とマイクロンの追撃を突き放す戦略だ。また、3D-NAND市場に新規参入した米インテルと中国XMCなどを牽制する狙いもある。

 サムスン電子は華城(ファスン、韓国京畿道)に位置する半導体工場「第16ライン」の一部を3D-NANDに転換することに続き、第17ラインのフェーズ2にも3D-NANDラインを設置することにした。キャパシティーは月産10万枚規模で、16年末をめどに完成し、本格量産に踏み切る予定だ。

 第17ラインは元来、非メモリー(システムLSI)専用工場として14年に建設されたが、関連市場の低迷でフェーズ1投資は月産4.5万枚のキャパシティーを持つDRAMに変更した。

空からみたサムスン電子の平澤半導体工場敷地の全景
空からみたサムスン電子の平澤半導体工場敷地の全景
 同社はまた、平澤(ピョンテク、韓国京畿道)工場においてもフェーズ1の月産10万枚のキャパシティーを3D-NAND向けとし、16年末から投資を開始して17年下期の稼働を目指す。

 一般的に月産1万枚規模の設備を整備するには約1兆ウォン(約909億円)が必要となることから、16年1~3月期に3D-NANDを月産4万枚に増設した西安工場(中国陝西省)などを含むと、17年までに同社は3D-NANDに25兆ウォン程度を投入することになる。

 同社のNANDフラッシュ事業では、14年に1Xnm製品を生産するなど、プロセスを微細化した製品の構成比を次第に高めてきた。16年の主力製品は、同社が主導する36段の3D-NANDであろう。SSDといったハイエンドの用途向けに積層技術が普及・拡大し、16年末には3D品がNANDフラッシュ市場全体の20%程度を占める見通しだ。

同社の最新鋭3D V-NANDフラッシュ
同社の最新鋭3D V-NANDフラッシュ
 さらに同社は14年7月、自社技術で開発したV-NANDフラッシュを搭載した個人用SSDの販売に乗り出し、14年末には競合する東芝とマイクロンの追撃をさらに突き放した。今後も次世代大容量V-NANDフラッシュを搭載したSSDを適時に出荷し、革新的なコンピューティング環境作りを目指す。

 サムスン電子の攻撃的な投資の背景には、NANDフラッシュ市場では東芝、マイクロンに加え、インテルや中国メーカーまで参入することを受けて、3Dにおける技術的な優位性を武器にして市場を完全に掌握したいという思惑がある。いまメモリー半導体の市況はあまり芳しくない。PC需要の継続的な減少によって、DRAMの需要も減少が続いているためだ。

同社のV-NANDフラッシュを搭載したSSD製品
同社のV-NANDフラッシュを搭載したSSD製品
 だが、NANDフラッシュ市場は好調といえよう。SSDに代表されるストレージ装置の需要が急増しているからだ。人工知能(AI)とビックデータ時代において、サーバーに搭載されるSSDの容量は毎年、急激に増大している。スマートフォンに組み込まれるNANDフラッシュの容量も大きくなっている。とりわけ、16年9月に発売されるとみられるアップルのiPhone7には、256GB(ギガバイト)のNANDフラッシュが採用される見通しだ。

 このようにNANDフラッシュの需要は増えるものの、メーカー間の競争は今後さらに熾烈さを増す。NANDフラッシュ市場ではすでにサムスン電子、東芝、マイクロン、SKハイニックスの4社が競い合っている。これにインテルも参入し、16年7~9月期から3D-NANDを生産する。さらに、「半導体強国作り」を打ち出した中国もNAND市場に参入している。XMCは16年3月に河北省武漢で3D-NAND工場の建設を開始した。

 NANDフラッシュ市場を巡って、かつてのDRAMのような「チキンゲーム」が再燃する可能性が燻ってきたといえよう。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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