「2003年に一部上場を果たしましたが、社員は50人強で、ピークは110億円近くまで売り上げました。1人あたり2億円の売り上げを上げるカンパニーはまずもってないと思います。自己資本比率も90％近くを維持しています。売上高総利益率もここ数年は22％前後で推移しているのです」

　こともなげにこう言い放つ人は、日本高純度化学（東京都練馬区北町3-10-18）にあって経営企画部長の任にある小島智敬氏である。同社のキャッチフレーズは「電子機器分野を事業フィールドにして貴金属めっき液のリーディングカンパニーを追求」というものだ。プリント基板、コネクター、リードフレームなどの接点・接続部位に使われるめっき用薬品の開発・製造でその名を知られている。

　同社が製造するスマートフォンのマイクロコネクターなどに使われている硬質金めっき薬品「オーロブライトBAR7」は海外市場にも多く出ており、世界的な製品として認められている。これからは電子部品用途にとどまらず、新分野である車載用途にも展開が進みつつある。

　本社内に入ってまず驚かされるのは、女性の社員はみなすべて白衣を着ていることである。それも研究や開発の人ばかりではなく、総務や営業に至るまで、みな「白衣の天使」なのだ。何しろ約50人の社員のうち技術畑が約8割を占めるという技術志向の会社であるから、「みんなが研究者みたい」というのは社風に合うのだろう。

　「我が社にとって最大の財産は何といっても人です。人は有形資産なのです。設備は償却すればその役割が終わりますが、人の持つ付加価値は長く続いていくのです。人を育成するのに2億円かけても、5億円以上の売り上げを上げるかもしれません」（小島部長）

　この考え方があるがゆえに、一人ひとりの生産性は抜群に高いことも頷ける。給与水準も高く、離職率は非常に低く、何よりも技術系の人はほとんど辞めないという。小島部長によれば、人を採用する場合に重要な条件は（1）何といっても地頭がいい人、（2）言葉のキャッチボールができる人、であり、要するにコミュニケーション能力に優れ、頭脳も明晰な人を採用するのだ。

　「日本初のMBOを実行し、JASDAQを経て一部上場となりましたが、我が社の社員は全員が自社株を持っています。ストックオプションの権利も全員が保有しています。全体はひとりのために、ひとりは全体のためにという意識は非常に強いです」（小島部長）

　業績も抜群で、社員全員が株を持ち会社を支えてゆく。何というすばらしい運動論だろう。こんなサプライズカンパニーはめったにあるものではない。つまりは、会社は技術が強く、営業が強いだけではダメであり、総務、経理、製造に至るまで一丸となって戦う体制が必要だと言っているのだ。まさに「全員野球」で戦う。それが日本高純度化学の哲学なのだ。

　さて、ここまで順調に来ている同社であるが、最近はコストダウンの観点からユーザーが金の量をかなり減らす傾向にあり、この対応策として様々な新技術の研究も含め、IoT時代にふさわしい「めっき液」を追求していく構えだ。同社の場合、分析についても無償サポートを断行しており、これが好評であるがゆえに当面の客離れの心配はないものの、やはり「脱金めっき」の新路線は必要になってくるだろう。それにしても同社は1台1.5億円もする集束イオンビーム加工観察装置（FIB）などの高額設備を持ち、ユーザー目線ですべて無料で分析するのであるから、コスト面でもユーザーの評価は高いのだ。

　「2020年の東京オリンピックに向けて我が社もはっきりとした目標を立てています。それは、過去最高の営業利益を上げてみせるということです。達成していく原動力はもちろん、一人ひとりの能力をフル発揮していく全員野球なのです」（小島部長）

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■泉谷　渉（いずみや　わたる）略歴
神奈川県横浜市出身。中央大学法学部政治学科卒業。30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は産業タイムズ社 社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』（長谷川慶太郎との共著）、『ニッポンの環境エネルギー力』（以上、東洋経済新報 社）、『これが半導体の全貌だ』（かんき出版）、『心から感動する会社』（亜紀書房）など19冊がある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。