電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第150回

熊本地震、復旧から復興へ


生産再開相次ぐ、完全フル稼働はまだ先

2016/6/10

 はじめに、この度の熊本地震により被災された皆様には、心よりお見舞い申し上げます。

震度7の前震と本震

崩落した熊本城石垣
崩落した熊本城石垣
 4月14日21時26分頃、熊本県上益城郡益城町を震源地とする震度レベル最高の震度7の前震が襲った。その28時間後の16日1時25分頃、同じく益城町と阿蘇郡西原村を震源地とする震度7の本震が畳みかけた。本震は広範囲におよび、阪神大震災に匹敵する規模だといい、甚大な被害をもたらした。前震と本震の間には、震度6前後を3回含む震度3以上の地震が42回、断続的に起こっている。


 6月5日時点で、震度3以上の地震が272回、震度1以上を含めれば1600回を超え、今も余震が残る。内閣府によると損壊被害額は2兆4000億~4兆6000億円になるという。

 シリコンアイランド発祥の地である熊本には半導体工場、液晶工場、電子部品工場、半導体製造装置工場、協力工場などが集積している。そのほとんどが生産を停止した。立地場所によって被害の大小があるが、被害が少ないところも設備の点検作業が必要だった。

土砂に潰された「熊本大神宮」の社務所(写真はいずれも5月20日撮影)
土砂に潰された「熊本大神宮」の社務所
(写真はいずれも5月20日撮影)
 関係者によると、震度7は突然、底から突き上げるように来た。全く動けずなすがままだった。工場の外観はきれいでも、中は相当な被害を受けているはず、という。復旧はしても、地震前と同じかそれ以上の状態への復興は、これからと見るのが自然だろう。

主な企業の震災への対応

【ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(株)熊本テクノロジーセンター(菊池郡菊陽町)】
 地震発生直後より生産活動を停止した。イメージセンサーおよびディスプレーデバイスの基幹工場だが、低層階に位置するウエハー工程が5月21日より順次稼働を再開し、徐々に稼働率を上昇させている。また、高層階に位置する、後工程の一部である測定工程および組立工程など他の工程については5月中旬より段階的に稼働を再開している。

 熊本地震による影響は、売上高が地震前の想定を下回ることによる機会損失や復旧に関連する費用の発生に加え、売上高に応じて配分する固定費の減少などを含めて、合計で約600億円の売り上げ減を見込む。

 また、熊本TECで量産に向けた準備を行っていた外販向けの高機能カメラモジュールについて、長期的観点から事業方針の再検討を行った結果、その開発・製造の中止を決定した。

【ルネサス エレクトロニクス(株)の生産拠点、ルネサスセミコンダクタ マニュファクチュアリング(株)川尻工場(熊本市南区)】
 4月22日より一部工程において生産を再開、同社のBCP(事業継続計画)に従い、他工程の生産を段階的に開始し、5月22日に震災前の生産能力(生産着工ベース)に復旧を完了した。同社は引き続き、サプライヤー、協力会社などを含めた、サプライチェーン全体で震災前の生産能力に早期に復帰させることを目標に復旧にあたっている。
 なお、同社錦工場(球磨郡錦町)、大分工場(大分県中津市)は通常どおり稼働している。

【三菱電機パワーデバイス製作所(合志市)】
 5月31日に震災前の生産能力に復帰している。また同社グループの液晶工場、メルコ・ディスプレイ・テクノロジー(株)(菊池市泗水町)は5月20日の一部生産再開以降、生産能力のさらなる回復に取り組んでいる。

【コーター/デベロッパー開発・生産拠点の(株)東京エレクトロン九州】
 合志事業所(合志市)と大津事業所(菊池郡大津町)は地震直後から生産を停止。合志事業所については、専門家による点検を実施した結果、建屋の耐震性に問題はないことおよび生産設備への大きな影響はないことを確認。大津事業所も順次、安全確認および設備への影響の確認を行うが、まずは生産に寄与する合志事業所の復旧を優先している。合志事業所は、4月25日より工場の一部操業を再開しており、6月末までには通常の生産体制に戻す予定。

 なお、熊本地震の影響による機械装置、在庫、建物などの復旧費用と各種支援、その他で概算100億円の特別損失の発生を第2四半期累計期間において見込んでいる。

【液晶ディスプレー用の光学フィルムを製造する富士フイルム九州(株)(菊池郡菊陽町)】
 地震発生直後より操業を停止したが、生産設備は4月23日より試運転を開始し、復旧した設備より順次生産を再開、5月22日にすべての生産設備での生産を再開した。製品出荷についても4月19日より在庫品の品質再確認とともに出荷を再開、復旧後に生産した製品の出荷も順調に拡大し、地震発生前の水準に回復している。

【三井ハイテック】
 IC組立の熊本事業所(菊池郡大津町)と、リードフレーム製造子会社の三井電器(阿蘇郡西原村)を、地震後に操業停止したが、5月末に生産を再開した。2施設の被害額は合計2億7300万円。操業停止中は、同社の福岡県内の工場で代替生産し、サプライチェーンへの影響を最小限とした。

【各種生産システム、産業用ロボットメーカーの平田機工(株)(熊本市北区植木町)】
 5月20日の一部生産再開以降、生産能力のさらなる回復に取り組んでいる。物的な被害については、工場場内の壁、天井などの一部剥落、部品加工機の一部で調整作業を要するなどの影響はあったものの、現在は問題なく生産活動を継続している。

【トヨタ自動車グループのアイシン精機の子会社、アイシン九州(株)(熊本市)】
 熊本地震で被災して操業を停止しているが、8月上旬までに工場を復旧し、同月下旬にも生産を再開する見通し。同社はドア部品などを生産しているが、操業停止に伴い、生産設備や金型を協力工場など代替生産先に移して、全従業員約680人のうち半数以上を派遣して対応している。

【ホンダの国内唯一の二輪生産拠点、ホンダ熊本製作所(菊池郡大津町)】
 地震発生後、工場の稼働を停止し、5月6日に一部(部品生産)の操業を再開、6月中にエンジン組立から二輪車生産を再開し、8月中旬に震災前の生産能力へと回復を目指す。ホンダの16年度の二輪車の生産計画は19万8000台を掲げていたが、地震の被害で減産台数6万台、地震による売上高減少額は210億円を見込んでいる。今回の震災復旧で、塗装や溶接の方法などを改善し、生産効率を高め、進化したかたちで完全復旧を目指す。

祈り

 九州地方は6月4日、梅雨入りした。熊本地震の影響で、熊本市南区や上益城郡益城町で地盤液状化の被害が広域に出ている。また、被災地を中心に地盤が緩んでいる地区も多く、土砂災害への警戒が必要だ。

 そして九州の人間は地震に耐性がない。今回の震災による精神的なダメージは予想以上と思われる。どうか「肥後もっこす」の反骨精神で、この困難に打ち勝っていただきたい。

電子デバイス産業新聞 福岡支局長 松山悟

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