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第141回

新電力各社、独自戦略で顧客開拓へ


再エネ由来、電気・ガスセット販売など各社各様

2016/4/8

 4月1日の電力小売の全面自由化を契機に、新電力企業各社が申し込み受け付けを開始している。本稿では新電力企業の取り組みをレポートする。

 電力の自由化は電力業界における一大パラダイムシフトだ。これまで大手電力企業10社(北海道、東北、東京、中部、北陸、関西、中国、四国、九州、沖縄)が「地域独占」していた同業界において、新電力企業も参入することでビジネスチャンスが創出され、経済が大いに活性化することが期待されている。電力自由化により新たに開放される市場は8420万件、市場規模は7兆5000億円と見込まれている。

 電力自由化の発端は、1993年に当時の総務庁がエネルギーに関する規制緩和を提言したことが始まり。その後、電気事業審議会で審議を開始し、95年4月の電気事業法改正以後、3回の法改正が実施された。最大の焦点である小売事業においては、2000年から規制が順次撤廃されてきた。最初に2000kW以上への販売が対象となり、04年4月に500kW以上、05年4月に50kW以上と、その対象範囲は段階的に拡大されてきた。そして、今年4月1日から一般家庭向けを含む50kW以下に拡大し、これにより小売の全面自由化となった。

再エネ由来電力に注目

 新電力企業は、再生可能エネルギーを活用したクリーンな電力販売、電力・ガスセット販売、地産地消モデル、ポイントカードとの連携など、様々な特徴を見せている。「発送電分離」政策により、分離した電力会社の小売部門も新電力企業として独自戦略で攻勢をかけてくる。

Looopの小嶋裕輔氏
Looopの小嶋裕輔氏
 最も注目を集めているのが太陽光発電、風力発電、バイオマス発電といった再生可能エネルギー由来の電力を供給する企業だ。その代表格がLooop。同社は全国に14カ所・出力4785MWの太陽光発電所を持ち、高圧分野を中心に電力を販売しているが、4月1日以降は一般家庭向けにも販売を開始している。

 対象エリアは東京電力、中部電力、関西電力それぞれの管内。料金プランは一般家庭向けの「おうちプラン」と事業所向けの「ビジネスプラン」だ。前者は従量電灯Bに相当するもので、料金は26円/kWh。後者は同Cに相当するもので、料金は27円/kWh(関西エリアは26円/kWh)。また、5月までに申し込めば基本料金無料となる。同社 事業本部 企画開発部 部長の小嶋裕輔氏は、「従来の電力企業によるプランと比較して5~10%割安になる。基本料金無料も採算性を見越したものだ」と語っている。

 同社は11年3月11日に発生した東日本大震災を契機に設立された。「電気も自然派でいこう」をスローガンに、太陽光発電所をはじめとした再生可能エネルギーによる電力販売を事業の中核に据えている。

 こうした再生可能エネルギー由来の電力を推進する機運も高まっている。国際環境NGO FoE Japanは、「パワーシフト・キャンペーン」を実施している。これは再生可能エネルギーを重視する電力企業を選ぶことを促進するものだ。自社ホームページ(http://power-shift.org/choice)に先述のLooopや後述の水戸電力を含む14社を有力企業としてリストアップしている。

地域密着型モデルも

 近畿電力は、近畿地方を対象とした地産地消による地域密着型の電力小売事業を展開する。近畿地方内の太陽光発電所、火力発電所といった電源から電力を調達し、関西電力の送電網を活用してユーザーに提供するものだ。

 最大のメリットは、余剰電力が中心であるため、既存の電力企業と比較して電気代を大幅に削減できる点。最大で25%削減できるとしている。これまでの導入事例においても、スーパーマーケットで年間13%、オフィスビルで同8%、工場で同5%削減したという実績を持つ。また、電力の地産地消により地域経済活性化にもつながるという。

 同じく地域密着型の電力小売事業を進めるのが水戸電力だ。同社は太陽光発電などの施工・販売を手がけるスマートテックと、フットボールクラブ水戸ホーリーホック共同出資の企業。
 対象は、水戸市内の法人企業、集合住宅、店舗、学校、商業施設などだ。従来の電力企業から地域発電事業者に切り替えることで地域経済活性化に寄与するという。これにより、地域内企業の事業拡大につながるほか、水戸電力が事業収益の一部をエネルギーインフラ産業に投資する。これにより、雇用創出や企業誘致などにつながるという。

 電源は地元企業が保有する太陽光発電所や東京電力だ。丸紅のバランシンググループサービスの提供も受けており、電力が不足した際も不足分を調達できる。また、将来的には自社の発電所を保有することも視野に入っている。
 水戸電力のスポークスマンは、「使用料金は電力企業と比較して3~6%低い。ユーザー数は初年度で3万人、最終的には20万人をターゲットとしている」と述べた。

電力・ガスセット販売が加速

 一方、既存の電力企業から分離した新電力企業もユニークな戦略を展開する。東京電力はホールディングカンパニー制へ移行し、電力小売事業は東京電力エナジーパートナーが手がける。大きな特徴が従来の東京電力管内に加え、新たに中部電力および関西電力管内へも進出する点だ。また、17年4月1日のガス小売自由化に向けてガスとのセット販売も想定している。

 料金プランは、(1)プラン、(2)おトクサービス、(3)くらしサービスの3つで構成される。(1)では、「スタンダードプラン(S・L・X)」「プレミアムプラン」「スマートプラン」「スマートライフプラン」「夜トクプラン」「動力プラン」をラインアップ。うち、スタンダードプランは提携先セットプランの選択が可能となる。

 提携先セットプランは、東京電力が提携するパートナー企業のサービスを利用することで、料金が割引されるもの。ソフトバンク、ソネット、USEN、TOKAI、日本瓦斯(ニチガス)などと提携している。例えば、ソフトバンクの携帯電話やインターネットを活用すると毎月の料金が下がるという仕組みだ。

 (2)は、電気料金の支払いやウェブサービスを利用することでポイントを貯めることができるもの。ポイントはTポイントカードやPontaカードで利用可能だ。(3)は、料金プランの申し込み受け付け、電力使用量の見える化、料金プランの試算などに対応する。

 一方、ガス企業も電力・ガスセット販売を展開する。大阪ガスは、京都府、大阪府、滋賀県、兵庫県(赤穂市福浦除く)、奈良県、和歌山県および福井・三重・岐阜県の一部をエリアとする。料金プランは、(1)「ベースプランA」、(2)「ベースプランB」、(3)「家庭用ガス発電プラン」などをラインアップ。(1)は、電気をたくさん使う一般家庭向け。ガスとのセット販売や2年契約などで割引できる。(2)は、飲食店、商店、事業所などが対象。(3)はエネファーム、エコウィルを保有するユーザー向けだ。なお、東京ガス、大阪ガス、NTTファシリティーズの3社はエネットを設立し、以前から電力小売事業に参入している。同社は日本全国1万9000件を超えるユーザーを持ち、新電力の市場シェアは約5割。

 このほか、JXエネルギーは、契約アンペアに応じた「基本料金」、単価や使用量に応じた「従量料金」、それに「オプションプラン」などの組み合わせによる料金プランを発表している。オプションプランでは、「ENEOSカード割り引き」「にねんとく割」を用意。前者はENEOSカードで電気料金を支払うとガソリン、灯油、軽油が割引されるもの。後者は2年間契約により電気料金が割引される。同社 広報担当者によると「現在の一般的な電気料金よりも月1000円程度安くなる」という。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也

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