電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第139回

あの頃、シャープは輝いていた!


日本の太陽電池メーカーの興亡

2016/3/25

 長年、世界の太陽光発電(PV)を牽引してきたシャープが経営危機に直面している。社運をかけて大型投資を行った液晶事業でつまずき、PV事業も収益の足を引っ張っている。もっとも、シャープに限らず、日本のPVメーカーは近年、相対的に国際競争力が低下している。頼みの国内市場の成長も頭打ちで、積極的な海外展開にも大きなリスクが伴う。
 果たして、日本のPVメーカーは生き残ることができるのか。日本のPVが輝いていた「あの頃」を振り返りながら、今後の展望を考えてみたい。

半世紀にわたるPVの歴史

 現在、国内PVメーカートップ5と呼ばれるのは、シャープ、京セラ、パナソニック、三菱電機、ソーラーフロンティアの5社である。このうち、後発のソーラーフロンティアを除く4社は、いずれもPVビジネスの歴史が長い。
 シャープは、1959年にPV開発に着手して以来、半世紀以上にわたりPVビジネスを展開している。00年から06年まで、7年連続でセル生産トップに立つなど、00年代に最も輝いていたPVメーカーである。
 一方、三菱電機は76年から、京セラは82年から、三洋電機(2011年にパナソニックが完全子会社化)は97年から、それぞれPVビジネスに参入している。ソーラーフロンティアは、07年から化合物薄膜PVであるCIGSの量産を開始した。

 さらに、00年代には、多くの企業が薄膜シリコン(Si)、球状Si、CIGSなどの事業化を目指してPVビジネスに参入してきたが、結果的には、その多くが撤退を余儀なくされた。唯一ソーラーフロンティアのみが、1GWまで生産規模を拡大し、積極的な事業展開を進めている。

日本勢が圧倒

PV全盛期を支えた葛城工場
PV全盛期を支えた葛城工場
 まずは、10年前のPVビジネスの状況を振り返ってみよう。PVの世界導入量は04年に1GW(1000MW)を突破し、07年には2.6GWに達した。生産量を見てみると、94年にはわずか70MWだった生産量は、00年には4倍の287MWとなり、04年にはさらにその4倍の1180GWに増えた。そして、07年には3733MWに達している。
 ちなみに、15年の導入量は50GW超になったことが多くの調査機関で報告されており、セルおよびモジュールの生産量も14年には各46GW(IEA調べ)に達した。この10年間で年間導入量および生産量は爆発的に拡大したことになる。

 当時、PVメーカーのトップに君臨していたのがシャープである。シャープは00年に太陽電池生産世界トップに立って以来、7年連続で世界トップを堅持した。97年における同社のセル生産量は10MWに過ぎなかったが、07年には710MWの生産能力を確立した。
 06年のPV世界生産量トップ10を見てみると、1位がシャープの434MW、2位がQ-Cells(ドイツ)の253MW、3位が京セラの180MWとなっている。このほか、三洋電機(現パナソニック)が5位、三菱電機が6位に入るなど、日本勢のシェアは50%を超えていた。

 生産能力を見ても日本勢は他を圧倒していた。07年3月におけるシャープのPV生産能力は700MWで、2位のQ-Cellsの253MWを大きく上回っていた。3位には京セラ(240MW)、4位は三洋電機(160MW)、5位は三菱電機(135MW)が名を連ねるなど、日本企業が上位5社のうち、4社を占めていた。当時は、これら上位5社で世界のPVセル生産量の8割以上を占めていた。

薄膜の提案相次ぐ

 当時のPVの主流は結晶Siで、この状況は現在も変わっていない。一方で、07年ごろから、薄膜Si(a-Si)や球状Siの提案が増えてきた。PVの生産が急増したことで、原料の多結晶Si(ポリSi)の需給が逼迫したことがその背景にある。Siの使用量が少ない薄膜Siや球状Siで安定生産およびコスト低減が可能になると期待されたわけだ。

グリーンフロント堺 薄膜太陽電池工場
グリーンフロント堺 薄膜太陽電池工場
 薄膜Siはカネカが99年から、三菱重工業も02年から量産を開始していたが、07年にはa-Siと微結晶Siを積層したタンデム型の量産も始めた。さらに、07年には、富士電機がフィルム基板を用いたフレキシブル薄膜Siの量産を開始したほか、シャープもa-Si層が2層と微結晶Si層を積層したトリプル型薄膜Siの市場投入を開始した。球状Siは、京セラ、京セミ、CV21が研究開発に取り組んでいたが、CV21が07年から量産に着手した。
 しかし、薄膜Siも球状Siも本格普及に至らず、徐々に姿を消していくことになる。

 07年には、化合物薄膜のCIGSも本格的な展開が始まった。昭和シェル石油(現ソーラーフロンティア)とホンダソルテックが九州に工場を建設し、量産を開始した。ちなみに、九州には、ソーラーフロンティア(宮崎)、ホンダソルテック(熊本)、三菱重工業(長崎)、富士電機(熊本)が相次ぎ立地したことから、別名「薄膜アイランド」と呼ばれた。

海外勢が猛追

 PV産業で我が世の春を謳歌していた日本だが、00年代後半からは海外勢の台頭により、その地位に暗雲が漂い始めた。
 シャープは06年まで7年連続でPV生産世界トップを守ってきたが、07年にはセル生産量が前年比15%減の363MWに減少した。ライバル各社が多結晶Siの安定確保を図るためSiメーカーと長期契約を結ぶなか、シャープはその対応が遅れた。そのため、十分な多結晶Siが調達できず生産量が伸び悩み、さらに、多結晶Si価格の高騰で収益が悪化した。

 実は、この後もシャープは多結晶Siの問題に悩まされることになる。得意の液晶技術を応用した薄膜Siの大型工場を大阪・堺とイタリアに建設したが、今度は多結晶Siの供給過剰で価格が暴落し、薄膜Siの価格競争力がなくなってしまった。薄膜Siは不発に終わり、膨大な投資損失だけが残った。

 ところで、「打倒シャープ」の1番手に名乗りを上げたのがドイツのQ-Cellsである。シャープは07年に首位の座をQ-Cellsに明け渡し、京セラも中国のSuntechに抜かれて4位に後退した。そして、前年5位の三洋電機は7位に、同6位の三菱電機は11位にそれぞれ順位を下げる結果となった。
 一方、CdTe太陽電池を量産する米First Solarは207MWを生産し、売り上げ上位に食い込んだ。

 08年以降も日本勢の衰退が続く。シャープは生産量を421MWに増やしたが、競合他社がこれを上回る量を生産したため、前年の2位からさらに4位に順位を下げた。07年にシャープを抜いてトップに立ったQ-Cellsは、08年も580MWを生産し、2年連続で世界トップを維持した。
 08年に大きく伸びたのはFirst Solarで、08年は504MWを生産し、前年の5位から2位にランクアップした。
 Suntechは497MWを生産し3位になった。京セラは290MWを生産したが6位にとどまるのが精一杯で、三洋電機、三菱電機に至ってはトップ10から姿を消している。
05年にはセル生産量トップ10の中で日本企業が6割強のシェアを占めていたが、07年には25%程度まで低下し、08年にはついに2割を切った。



収益悪化

 シャープは09年に順位を3位に上げたが、10年は910MWを生産しながら順位を8位まで落とした。京セラは08年の6位から、09年には7位、10年には10位まで順位を落とした。トップ10における日本メーカーのシェアはさらに低下し、09年は17%、10年は14%まで落ちた。
 シャープの首位陥落後も、トップの地位は目まぐるしく入れ替わる。Q-Cellsは07年、08年の2年連続で首位を守ったが、09年には順位を大きく下げた。代わってトップに立ったのがFirst Solarである。このFirst Solarも10年にはSuntechに抜かれた。そしてここからは、中国勢同士のバトルが始まる。Suntechの天下は2年で終わり、12年にはYingliに抜かれ、Yingliも14年にはTrinaに抜かれた。14年にトップに立ったTrinaは、3.6GWのPVモジュールを出荷したが、15年は5.7GWまで出荷量を伸ばし、2年連続でトップを守った。

 シェア低下に加えて、モジュール価格の下落、円高が日本のPVメーカーの競争力低下に拍車をかけた。ただし、国内市場(主に住宅向け)は好調で、以後、各社は国内シフトを強めていくことになる。欧州市場の低迷と国内住宅向けの増加で、11年における国内販売比率は、シャープが54%、京セラが55%、パナソニックが50%強、三菱電機が80%と、各社とも5割を超えた。なお、国内市場は、12年7月の固定価格買取制度(FIT)の導入を機に、メガソーラーなどの産業用を中心に急拡大し、各社の国内比率はさらに高まった。

 一方で、価格下落をはじめとする事業環境の悪化により、PV事業の整理・縮小の動きが目立ってきた。シャープやパナソニックが相次ぎPV生産設備の減損処理を行うなど、生産体制の見直しに乗り出したのもこの頃だ。そして、単なるセル&モジュールの販売だけでは、価格でアジア勢に対抗できないと判断し、ソリューションビジネスで収益を追求する方向に舵を切り始めた。

国内需要も息切れ

 欧州市場の低迷、円高、モジュール価格の下落、そして、中国、台湾をはじめとするアジア勢の台頭といったネガティブ要因が多いなか、国内市場はFITの導入で急拡大し、これが日本のPVメーカーの収益を支えた。

 各社、13年度のPV事業の業績は旺盛な国内需要に支えられ好調だった。シャープは売上高が前年同期比7割増で、営業損益も12年度の赤字から一転、13年度は324億円の営業利益を確保した。販売量も12年度比で6割増えた。
 京セラ、三菱電機も13年度は太陽電池事業の売上高が大きく伸びた。京セラの太陽電池売上高は約2000億円で、販売量は前年同期比1.5倍の1200MWだった。事業利益も前年同期比で倍増した。
 三菱電機は13年度の販売量が前年同期比で8割増えたことから、売上高も同期比で6割増となった。パナソニックも太陽電池を含めたソリューション事業の出荷量が前年同期比で5割増加した。
 ソーラーフロンティアの親会社である昭和シェル石油は、13年度(13年12月期)のエネルギーソリューション事業の売上高が12年度比で2倍となり、12年度の赤字から、13年度は大幅な黒字化を達成した。

 ところが、14年度は一転して各社の収益が悪化した。シャープ、三菱電機はPV事業の売上高が前年同期比マイナスで、京セラ、パナソニックは増収だったが、京セラは大幅な減益となり、シャープは営業赤字に転落した。
 ソーラーフロンティアの親会社である昭和シェル石油も、14年度(14年12月期)のエネルギーソリューション事業は出荷量が前年同期比で1割減少したことから減収だった。

 15年度も業績は芳しくない。昭和シェル石油のエネルギーソリューション事業は、売上高が前年同期比で13.8%の減収で、営業赤字は102億円に拡大した。販売数量は増加したが、国内販売価格の下落、収益性の低い海外向け出荷急増、在庫の評価切り下げなどで収益が悪化した。
 シャープ、京セラ、パナソニック、三菱電機も第3四半期(15年4~12月)までの業績を発表しているが、いずれも苦戦している。
 シャープのエネルギーソリューション事業は、国内の需要低迷で売上高が大幅に落ち込み、多結晶Siの評価替えなどで営業赤字が拡大した。京セラは米国の販売は好調だったが、国内の売上高が減少したため、全体では減収だった。パナソニックは国内市況の悪化で販売量が減少し、大幅な減益だった。
 三菱電機も産業用の販売が半減するなど伸び悩んだ。15年度通期ではPVの売上高は前年度比で3割程度減少するという。

輝きを取り戻せ

シャープは蘇るか
シャープは蘇るか
 経営再建を急ぐシャープは、支援の手を台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に求めている。現時点では、本契約には至っていないようだが、気になるのは、シャープのPV事業の行く末である。収益の上がらないPV事業を継続するのか、手放すのか。以前から、生産拠点の売却の話は噂されていたが、果たして、手を挙げる者はいるだろうか。例えば、車載ビジネスのように認証取得が難しい分野では、M&Aによる事業買収は大きなメリットがある。ただ、PV事業では、そのような動機は考えにくいだろう。

 では、技術開発についてはどうか。確かに、日本メーカーの技術優位性は現在も健在だ。実際、結晶Siでは、パナソニックがHBCセルで25.6%、HBCモジュールで23.8%と、いずれも結晶Siで世界最高効率を実現している。CIGSでは、ソーラーフロンティアが22.3%を達成しており、これも世界最高記録だ。
 薄膜Siはオールジャパンで開発に取り組んでおり、a-Siで10.22%、微結晶Siで11.77%、タンデム型で12.69%を達成するなど、いずれも世界最高効率となっている。III-V族では、シャープが3接合非集光で37.9%、3接合302倍集光で44.4%の世界記録を達成している。
 すでに変換効率が21%超に達しているペロブスカイトについても、最初に提案したのは日本の研究グループである。

 ただ、PVの生産で世界をリードする中国メーカーも「Leading Runner Plan」と称する政府主導の研究開発プログラムにより、技術開発が加速している。n型両面受光でセル効率21.08%(Yingli)、ヘテロ接合で22.98%(SIMIT/Trina)、IBCで23.5%(Trina)、PERCで22.13%(Trina)を実現するなど、もはや、技術的な差異はほとんどないと考えたほうが現実的だろう。

 一方で、海外勢にとっては、シャープのPV事業を引き継ぐことで「Made in Japan」を名乗ることができるのは大きな魅力かもしれない。しかし、これは国内企業に生産委託することで解決できる話である。実際、中国のTrinaは、日本の装置メーカーにPVモジュールの生産を委託することで、「Made in Japan」の製品を拡販する戦略を打ち出している。

 長年、世界のPVを牽引し、今もその輝きを失っていないシャープのPVビジネス。その灯が消えないことを願いたい。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松永新吾

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