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第137回

九州大学伊都キャンパス、世界有数の水素関連研究施設が集積


全国最大の産学連携組織「福岡水素エネルギー戦略会議」と連携

2016/3/11

 九州大学伊都キャンパス(福岡市西区元岡)は、世界で有数の水素研究開発拠点と言っても過言ではない。丘陵地を切り拓いて整備された新キャンパスには、「水素材料先端科学研究センター」「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」「次世代燃料電池産学連携研究センター」「水素エネルギー国際研究センター」といった研究施設が集積している。いずれも頭に九州大学がつく。

 文部科学省、経済産業省は九州大学水素研究の知的資産を高く評価し、水素関連予算を積極的に投入。水素研究拠点づくりを支援してきており、現在、伊都キャンパス内だけで水素の製造・貯蔵・輸送・利用から安全評価・社会的受容性の向上など、水素利用の全課程の研究を構築している。伊都キャンパスのことを水素キャンパスと呼ぶ人もいる。

 地元行政の福岡県は、全国最大の産学連携組織といわれる「福岡水素エネルギー戦略会議」(会員数は2016年2月末現在で企業543、大学113、研究・支援機関26、計771)を組織化しており、2月には九州大学伊都キャンパス内の椎木講堂で、世界の第一線研究者や産業人などオピニオンリーダーが一堂に会し「水素先端世界フォーラム2016」を開催した。このフォーラムは本年で10回目となり、産学官が緊密に連携している。

充実した水素関連研究施設群

【水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)】
水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)
水素材料先端科学研究センター(HYDROGENIUS)
 06年7月、(独)産業技術総合研究所と包括連携協定を締結し、新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援で、国内外の研究者を結集して設立した。12年度までの7年間に90億円規模で研究開発を行い、水素脆化の基本メカニズムの解明や水素脆化を大幅に減少させる熱処理方法を解明。最新研究成果を活用し、開発支援、標準化・規制見直しなどへの協力を通じ、水素分野での国際競争力の強化に貢献。13年4月からは九州大学が研究体制を継承している。

 実験施設(07年11月完成)のうち高圧水素実験棟は100MPa程度までの高圧水素環境下での各種実験を行う施設で、物性測定、トライボロジー実験、疲労試験の実験室および測定室で構成。高感度精密分析棟は、水素脆化など基本原理の解明に必要な超高感度の水素分析を行う実験施設。産総研が初めて国立大学構内に設置した研究センターでもある。

【カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所】
 水素材料先端科学研究センターの発端が経済産業省の事業ならば、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所は文部科学省の事業である。
 研究目標は、水素製造、水素貯蔵、耐水素材料、次世代燃料電池、化学反応・触媒作用の「グリーン化」、CO2の分離・転換、CO2地中貯留、エネルギーアナリシスなどの理解を深め、基礎科学を創出すること。この解決には、化学、物理、材料科学、熱流体力学、地球科学、海洋科学、生物模倣学、経済学、政策決定、教育的なアウトリーチの融合が不可欠だという。このため、研究は非常に幅広く、水素、酸素およびCO2と物質との界面で起こる現象(およびその基本的メカニズム)について、多様な空間スケール(原子から、分子、結晶、地層、海洋システムまで)や時間スケールにまたがる研究を進めている。

 運営に当たっては、米イリノイ大学と連携して、国内外の多くの科学者が異分野融合研究を展開できる環境を提供するとともに、所長として同大学のペトロス・ソフロニス教授を迎えている。

【次世代燃料電池産学連携研究センター】
建物左半分が「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」、右半分が「次世代燃料電池産学連携研究センター」
建物左半分が「カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所」、右半分が
「次世代燃料電池産学連携研究センター」
 経済産業省イノベーション拠点立地支援事業(「技術の橋渡し拠点」整備事業)に九州大学が提案した「次世代燃料電池産学連携研究施設」が採択されたことで、12年1月に設立。近年、燃料電池のなかでも固体酸化物形燃料電池(SOFC)が最も効率的に利用できるタイプとして注目されているが、SOFCをはじめとする次世代型燃料電池は、耐久性や信頼性の確保、さらなる高性能化などが共通の課題であり、本格普及に向けて、基礎研究から実用化までのシームレスな産学連携による研究開発を年間10億円規模で実施する。

【水素エネルギー国際研究センター】
 03年度に文部科学省の21世紀COEプログラムにおいて九州大学の「水素利用機械システムの統合技術」(拠点リーダー・当時副学長、現名誉教授の村上敬宜氏)が、日本で唯一の水素研究拠点として採択され、04年4月に「水素利用技術研究センター」が設立された。同センターは九州大学の水素拠点化の母体となる役割を果たし、09年8月に国際的な研究センターとして機能強化するため改組し、水素エネルギー国際研究センターとなった。新組織の水素製造、水素貯蔵、水素利用、水素安全学の4研究部門では国際公募に新たな専任教員を置いている。

低炭素社会の早期実現を目指して

 福岡県が進める「福岡水素戦略」では、全国に先駆けて燃料電池自動車(FCV)および水素ステーションの自立的拡大開始を計画し、そのシナリオまで描くなど積極姿勢だ。この背景には九州大学の知的資産はもちろんだが、県下には鉄の街、北九州市があり、製鉄所などから年間5億m3の副生水素が発生する。また、FCVの生産拠点と成り得るトヨタ自動車九州、日産自動車九州が立地する。そして鉄鋼業、自動車産業、半導体産業の協力工場がひしめいており、中小・ベンチャー企業に水素関連部品に新規参入機会が生まれる。水素社会の進展は地場の産業振興につながるのだ。

 また、伊都キャンパスから車で15分ほどの糸島市リサーチパーク内には「公益財団法人水素エネルギー製品研究試験センター」がある。ここでは水素関連新製品の試験評価を行っている。民間企業が水素エネルギー分野へ新規参入するためには、水素ガス環境下で製品試験を行い、性能、信頼性を証明することが不可欠だが、自前で試験施設を持つことは高額な初期投資がかかり、中小・ベンチャー企業が参入する際、大きな妨げになっていた。この課題を解決する施設である。

 九州大学は地域と一体化するとともにワールドワイドで研究者を集め、産学官連携で低炭素社会の早期実現を目指しており、水素キャンパスでの研究開発成果については世界が注目している。

電子デバイス産業新聞 福岡支局長 松山悟

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