電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第134回

ロボット/AIは味方? それとも敵?


共存する未来設計図をどう描く

2016/2/19

 最近ロボット関連の動きが活発化している。1970年代後半から80年代にかけて産業用ロボットの市場拡大が進んだ時期を第1次、ホンダの「ASIMO」やソニーの「AIBO」が話題となった2000年代前半が第2次、そして現在が第3次ロボットブームと言われている。そして今回の第3次ブームはさらに発展し、我々の生活の一部にロボットが常に存在する社会を形成するかもしれない。

ロボットとAIの融合が加速

 市場も拡大傾向が続き、調査会社のIDTechExリサーチによると、既存ならびに新興ロボット市場は現在250億ドルであるが、これが26年までに1200億ドル以上になると予測。また、元グーグルの研究者でロボットの専門家であるTravis Deyle氏によると、ベンチャー投資会社によるロボット関連企業への投資額は、14年の3億4130万ドルから15年は9億2270万ドルまで拡大しており、M&Aも活発化している。

PepperとWatsonなどロボットとAIに関する動向が活発化(写真提供:IBM)
PepperとWatsonなどロボットとAIに関する
動向が活発化(写真提供:IBM)
 そんなロボット分野を語るうえで今後重要になってくるのが人工知能(AI)との融合だ。1月、ソフトバンクと米IBMが人型ロボット「Pepper」向けのAI「IBM Watson」を開発し、世界の企業に提供する方針を掲げた。また15年6月、産業ロボット大手のファナックとAIベンチャーのPreferred Networksが協業を発表。そのほか、ベンチャー企業のロボットスタートが米国のAI開発会社「AKA社」と業務提携した事例や、AIを駆使したビッグデータ解析事業を手がけるUBICが、ロボット開発会社のヴイストンとパーソナルロボット「Kibiro」を開発した取り組みなど、ロボットとAIに関する協業事例が相次いでおり、こういった事例は今後さらに増えてくるだろう。

ロボット・AIに対する懸念も増加

 その一方、ロボットやAIが労働に及ぼす影響を懸念する発表も増えつつある。1月、世界経済フォーラム(WEF)は、ロボットやAIの台頭により今後5年間で世界15の国や地域で約510万人が職を失うとする分析を発表した。また、野村総合研究所が英オックスフォード大学と行った調査では、日本の労働人口の約49%が就いている職業が10~20年後に、ロボットやAIに代替可能との推計結果を示した。

 AIに関する危惧については「シンギュラリティ(Singularity)」という言葉がある。これは、コンピューター技術が現在のペースで進化すると、ある地点で地球全人類の知能を超えるというもので、日本語では「技術的特異点」とも訳される。そのタイミングとみられるのが2045年で、ライス大学のMoshe Vardi教授は「45年までにAI搭載ロボットが、人間のできる仕事の大部分を行えるようになる」と述べている。こうした論調を総合し「AIの発達によって、人間の仕事が奪われる」という意見も多く聞かれるようになった。逆の意見もある。「90年代に起こったIT革命の際にも多くの職がなくなると言われた。確かに市場が縮小した分野もあるが、その一方で多くの新しい職業が創出された。ロボットやAIでも同じようになる」というものだ。

国に問われる仕組みづくり

 そしてロボットやAIが普及した時代の対策として、ベーシックインカムの導入というアイデアが提唱され始めた。ベーシックインカムとは「就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策の構想」で、フィンランドやオランダでは、このベーシックインカムの給付実験に向けた動きがあり、スイス連邦政府は同件に関する国民投票を6月に行うことを決めた。これらの国々の取り組みはあくまで福祉政策の一環として進めているものだが、この政策を将来的にロボットやAI分野に応用しようというわけだ。

 具体的には、単純な作業はロボットやAIに働いてもらい、そこで得られた売り上げを活用しベーシックインカムとして給付するというもので、それにより人間は失敗をおそれず様々なことに挑戦でき、職業選択の自由度も増し、結果、幸福度の増加につながるという理論だ。もちろん、ベーシックインカムの導入で労働意欲や経済競争力の低下などを懸念する声もある。

 どちらが正しいのかは現状では言及できないが、1つ言えることはロボット市場が普及しAIが進化することで社会の構造が大きく変わるということ。現在、日本はもとより、米国、欧州、中国、韓国、中東など世界中のあらゆる地域で開発が加速し、多くの公的な補助金が支給されているが、国にはロボットやAIが普及した際に生じる問題を見極め、教育や社会保障制度を含めた社会全体の仕組みをどう構築していくかといった点も求められるだろう。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 浮島哲志

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