電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第132回

パナソニックが提唱するスマートファクトリー


「ソリューション売り」で大きく変わる次世代の製造現場

2016/2/5

 パナソニックがスマートファクトリーソリューション事業に積極的に取り組んでいる。電子機器などの組立工程に必要なチップマウンターや検査機器、はんだ印刷機などの「単品売りビジネス」から、SMTライン丸ごとなり、工場フロア全体を一括提供する「ソリューション売りビジネス」モデルの構築を目指す。

 同事業を推進するのは、パナソニックグループ内のオートモーティブ&インダストリアルシステムズ(AIS)社に属しているスマートファクトリーソリューション(SFS)部門である。主力のチップマウンターなどの電子部品実装システムを中心に溶接機やロボット、モーター製品の取り扱いを新たに開始した。名称も以前のファクトリーソリューション(FS)から現部門名のSFSに改めており、2015年4月から新スタートを切っている。足元の部門売上高は3050億円(15年3月期)だが、19年3月期には1000億円を上積みして4000億円強を売り上げる中期ビジョンも掲げる。製造工程の最適化につながるソリューション提供など、付加価値をつけたかたちのビジネスモデルの展開により事業拡大を図る。

「ソリューション売り」へのビジネス転換

 高速チップマウンターや印刷機などのSMT関連装置ではトップシェアを誇る同社だが、他社のマウンター製品であったり、自社製品でラインアップにない製造装置を取り込む必要も出てくる。例えば、主要装置の一部であるはんだリフロー炉だ。多数の半導体や受動部品などをプリント配線板上に搭載したあと、はんだを塗布した状態で加熱し溶融させて、電気的接合をとる重要な工程を担うはんだ付け装置だが、同社の製品ラインアップにはない。このため、これらの製品を取り扱う設備機器メーカーとの連携・提携も大きなテーマになってこよう。

将来は外食産業などにまで展開(ファクトリーソリューションカンファレンス2015)
将来は外食産業などにまで展開
(ファクトリーソリューションカンファレンス2015)
 従来の設備単体レベルでのビジネス展開は、工程改善や生産性向上といった生産プロセスの構築・提案までが限界であったが、同社が今後考えるサービス内容は、フロア・工場全体の生産体制に加えて、グローバルに点在している工場をつなぐソリューションまでを見据えているのだ。つなぐことで工場全体において自動化や省人化を徹底的に推し進める。結果的に顧客の経営改善に大きく寄与することで、同社が提唱するソリューション型ビジネスモデルの普及につなげる戦略だ。

 いわゆる「つながる工場」を丸ごと提案することで今後の成長の果実を積極的に取り込む戦略だが、一部は本格的に始まっている。SMT工程を中心としたライン構成だが、他社の製造装置などとも連携してデータのやり取りもできるシステムを、すでに北米において一括して提供しているという。今後はチェコやメキシコでも展開していくという。
 そして将来的には工場・製造業にとどまらず、ホテルや外食産業といった流通分野におけるサービス産業への展開も視野に入れる壮大な戦略だ。

次世代の実装機開発も開発加速

省人化対応可能な次世代実装機「NPM-DX」
省人化対応可能な次世代実装機「NPM-DX」
 次世代のスマートファクトリー工場における主力実装システム機器は、「NPM-DX」と名づけられ、開発を進めている。従来以上に高生産性と高品質化に対応した製品となる予定で、省人化対応も重要な開発コンセプトになっている。自動復旧や装置が停止しないで生産・加工データなどを修正できることも想定している。省人化対応では、製造現場でエラーが生じた際でも設備機器をリモートで操作できたり、スマートコールシステムなどを導入することで実現する。スマートコールシステムでは、エラー修正の必要性が生じた場合に、現場に近いオペレーターを呼び出して対応させたり、そのオペレーターのスキルや作業状態に応じて、最適なオペレーターを手配することが可能になるという。

 現在のSMTラインのなかでも手作業やアイドルタイム(遊休時間)が生じやすい、部品供給部にあたるフィーダーのメンテナンスフリーの実現も視野に入れている。特に部品供給精度をより正確に調整したり、各種検査部の自動化も提案中だ。フィーダーは1~10本を自由に設定できるスペースを確保して、フレキシブルな生産体制に対応する。実装機とのリンクにより、間違った部品などがフィーダー部に混入した場合は、フィーダー装着時の検査工程において確実に発見して、実際のSMTラインの生産現場に流出をさせないような仕組みを構築する。実装品質の維持向上に努める画期的なシステムづくりを目指す。

部材の在庫や過不足も瞬時にわかるシステムが導入される
部材の在庫や過不足も瞬時にわかる
システムが導入される
 また、大量生産に特化したSMTラインの構築・提案のみならず、変種変量生産ラインに対応したニーズにも応える。国内では、車載分野をはじめ産業機器や医療機器装置などの分野ではこれらのモノづくりが求められているからだ。この領域のコアになるのが「NPM-W2」だ。生産機種や様々な基板や部品に柔軟に対応できるのが強みとしている。

モノづくりのノウハウをいかに守るのか

 次世代のエレクトロニクス製品の製造工程は大きく変わろうとしている。Industry4.0に代表されるように、世界の製造拠点がネットで接続されることで現在の製造現場のイメージがガラリと変わる。生産性や納期、歩留まり安定性などが桁違いに向上する可能性があり、セットメーカーやシステムハウスは次世代のモノづくり工場のあるべき姿を本格的に追求し始めている。

 今後は、マスカスタマイゼーション(個別製品の大量生産化)の時代がやってくるとも言われている。個々人の趣味や嗜好に合わせた様々な製品を超効率的に短納期かつリーズナブルな価格で提供できるようなイメージだ。スマートファクトリーの究極の行き着く姿の1つといえる。パナソニックグループの「スマートファクトリーソリューションズ」という概念はまさしくこうした動きを先取りしたものといえる。
 パナソニックだけではない。ある日系の大手通信機メーカーも自社内にIndustry4.0に対応した工場の構築に乗り出している。高度な専門知識なしでも誰でも簡単にグラフィックスで見える化した「管理しやすい工場」、セキュリティー制御と運用を止めない「止まらない工場」、世界のどことも安全につながる「つながる工場」の三位一体の工場イメージだ。

 複数のセンサー(室温、湿度など)から実際のSMT製造工程などで実装材料の塗布量に影響する材料の粘性について、適切に制御できるようなシステムを構築したり、ライン稼働率の向上や材料ロスの低減、ひいては品質の安定化や最適化に結びつくような理想の工場に近づけることを視野に入れているようだ。既存のラインでは、どうしても実装材料の塗布量ではばらつきが発生しており、設備の停止を引き起こしたりして非効率な生産体制となっているからだ。
 安価なビーコンを利用して、GPSが届かない屋内でも、人や移動体などの動線を把握し、最適な製造ラインや作業者を配置することで製造効率を最大化することにも取り組んでいる。さらには製品や装置の処理や待機時の電力をデータ分析し、電力コストの削減に努めたり、装置の内部パーツなどの故障を予測して、製造保守コストを削減するといった取り組みも可能になる。

 しかし、こうして集められた製造ノウハウは、閉じた工場であれば情報漏れのリスクはないだろうが、「つながる工場」は一歩間違えるとライバル企業や前後のサプライチェーンにも筒抜けになる可能性が全くないとは言えない。徹底した情報管理体制やセキュリティーを構築することが極めて重要となってきそうだ。

 国内の製造業はすでに極限までコストを絞っており、それなりの生産ノウハウを蓄積している。こうしたノウハウを徹底的に守るやり方を推進するのか、あるいは、日本版Industry4.0を構築して、先行する欧米勢に対抗するのか、逆にドイツなどと協調・連動して製造業で一定の立場を堅持するのかといった方法など、各社はいずれ選択を迫られることになろう。今後の自社の製造業の進むべき方向性をしっかりと議論をするべき時期に来ていることは間違いない。

 ちなみにパナソニックは、Industry4.0などへの取り組みについて協議などはしているものの、決してその中核メンバーに入ったり、規格作りなどで積極的に関与していくようなことはしないという。あくまでも、よくコンセプトを理解して、同社のスマートファクトリーソリューションを通じて顧客のモノづくりをサポートする戦略だ。

電子デバイス産業新聞 副編集長 野村和広

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