電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第131回

韓国財閥のスマートカー争奪戦


2016/1/29

 2015年12月、サムスングループがスマートカー(電気自動車=EVなどを含む次世代自動車)向け電装市場への参入を打ち出し、車載部品市場を巻き込んで、サムスンのほか現代自動車グループ、LGグループなど韓国大手財閥企業による市場争奪戦が幕開けした。
 自動車とIT(情報技術)の境界が崩れることによって、全く異なる分野を手がけてきた企業同士が、いまや競争相手になっている。韓国のスマートカー事業に向けた各企業の戦略に迫る。

サムスンがスマートカー電装事業に参入

 2016年1月6日、米ラスベガスで開かれた世界最大の家電見本市「CES2016」も、大手エレクトロニクスメーカーと自動車メーカーによるスマートカー市場の角逐の場となった。

 スマートカーは、素材・通信・エネルギー・製造などの全産業分野を網羅しており、今後の成長潜在力が最も大きいとも言われている。サムスングループ(以下、サムスン)が昨年12月10日、「電装事業チーム」を新設したのは、15年前の完成車事業における苦い失敗から挽回しようとする李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子代表取締役副会長の意志が窺える。

 サムスンはすでに自動運転車の頭脳である半導体分野で世界最高レベルの技術力を確保している。また、数年間蓄積してきたスマートフォン(スマホ)やディスプレー、バッテリーなどの技術力も活用できることから、新事業に対するリスクも少ないと予想されている。
 サムスンは当分の間は、短期で結果を出せるスマートカー向け部品分野に傾注すると予測されるが、長期的には自動運転車の分野まで事業領域を拡大していくと、韓国の関連業界専門家は見通している。

現代車が最近公開したEQ900
現代車が最近公開したEQ900
 サムスンのこのような出方に対して、韓国自動車最大手の現代自動車グループ(以下、現代車)はIT戦略で迎え撃つ方針だ。現代車は、電装のコア部品である知能型半導体を自ら設計することにした。系列会社の現代オートロン(Hyundai-autron)が半導体を設計し、外注生産方式(ファンドリー)で完成品を作る計画だ。現代車が12月9日に公開した高級車「EQ900」には、車線離脱防止および車間距離調節などの機能を持つシステムが韓国で初めて採用された。現代車は18年までにスマートカーや自動運転システムなどの開発に2兆ウォン(約2000億円)を投入する計画だ。また、現代車傘下のキア自動車は、1月6日の「CES2016」で来る30年には完全な自動運転車の量産に踏み切ると、大々的にアピールした。

サムスンに先行するLG

 さらに、サムスンとエレクトロニクス分野でライバル関係にあるLGグループ(以下、LG)との激突は避けられない。スマートカー分野は、LGが15年半ばから未来成長動力に定めて、グループ総力で取り組んでいる。LGは、グーグルの自動運転車プロジェクトの協力会社、GM(ゼネラル・モーターズ)の次世代EV向けの戦略的パートナーに選定されていることから、サムスンに先行していると評価されている。

 サムスンのスマートカー分野への参入によって、スマートカーの開発競争はさらに熱気を帯びる見通しだ。世界自動車市場では新たな情報・娯楽サービスや自動運転などIT化を狙った合従連衡が相次いでいる。トヨタ自動車はフォード・モーターと車載情報機器に関する技術協力で合意しており、GMは一般利用者が自家用車に他人を相乗りさせる仕組みを提供するリフト社(米カリフォルニア州)に5億ドルを出資する。

 自動車のパラダイムは、機械からITに変わりつつあるだけに、自動車会社やIT会社だけの独自開発は限界があるといわれている。今後、異種メーカー間の多様な戦略的協力が頻繁に行われる見通しだ。

サムスンと現代車の激突は避けられない

 特に、韓国財界No.1、No.2のサムスンと現代車のスマートカー産業における激突は不可避であろう。サムスンは「完成車分野には絶対に参入しない」とし、現代車は「車載向け半導体は設計だけ担う」というものの、将来的には両社間の競争は避けられない見通しだ。

 サムスンの場合、すでに業界最高レベルの半導体の競争力とEVの生産に必要な技術力を持つ。サムスンの大黒柱であるサムスン電子は車載半導体を生産しており、系列会社のサムスンSDIはリチウムイオンバッテリー市場でトップクラスを疾走している。その間、サムスンはEVのコア部品の1つであるモーター部門が相対的に劣勢という評価だったが、今回、電装事業参入によって、優勢に変えられる基盤を整えたといえよう。
 同時にサムスンは大々的な組織改編を通じて、EVの生産に向けて着々と準備を進めていく。また、サムスン電子の無線事業部の開発室をソフトウエアとハードウエア担当に細かく分けた。つまりは、スマホ向けのソフトウエア開発パワーを電装事業に振り向ける体制に改編した。

 現代車の場合、「鉄鋼から完成車まで」の垂直系列化を実現したメーカーだが、未来自動車のコア技術であるIT技術は相対的に欠けている。これを補強するために、現代車は14年3月にサムスン電子の元専務を半導体設計メーカーの現代オートロンの副社長に迎え入れ、同年末には現代オートロンの代表取締役社長に昇格させている。
 サムスンと現代車は「スマートカー分野では競争相手ではなく協力パートナーだ」と言いながらも、お互いの事業方針に神経を尖らせている。

 他方、LGの場合、15年に具本俊(グ・ボンジュン)LG電子代表取締役副会長をグループの新事業総括の(株)LG新成長事業推進団長に任命。具氏は13年にLG電子の自動車部品(VC)事業本部を新設し、自動車部品事業の育成に傾注してきた。

 また、LGは、GMの17年型次世代EVの「シボレーボルトEV」に駆動モーターとバッテリーパック、情報システムなどのコア部品とシステム11種を供給する。さらに、1月5日にはフォルクスワーゲンと未来型モノのインターネット(IoT)向けEVを共同開発すると発表するなど、自動車部品事業に対する積極的な取り組みを進めている。

 大手財閥というブランド力と資金力を武器に、スマートカー市場の先取りを狙うサムスン、現代車、LG。今後、3大財閥の競争によって、韓国のスマートカー市場は新たなステージに突入する見通しだ。

電子デバイス産業新聞 ソウル支局長 嚴在漢

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