電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第130回

電子部品業界/担当記者奮闘記


~半導体と全然違うもん~

2016/1/22

 本紙『半導体産業新聞』が『電子デバイス産業新聞』に題号変更を行ってから約1年が経つ。旧題号の時、筆者は半導体製造プロセス・装置を中心に取材活動を展開してきた。題号変更に伴い電子部品の担当になったのだが、戸惑いの連続で、1年を経てもそれは終わっていない。

 通信用電子部品の1つであるSAWフィルターを調べた時も、やっぱり戸惑った。SAWフィルターはリソグラフィー工程を導入するなど、半導体ライクな製造プロセスを持つ。そこで、供給ウエハーメーカーを探ると、まず信越化学工業が飛び込んできて、一安心。ところがその後、半導体業界でお馴染みの社名が続かない。山寿セラミックス、住友金属鉱山、コイケがウエハー供給4大メーカーとして名を連ねる。

 SAWフィルター製造用ウエハーは、シリコン単結晶ではなく、LiNbO3(ニオブ酸リチウム:LN)もしくはLiTaO3(タンタル酸リチウム:LT)の酸化物単結晶を使用する。素材が変われば、役者も変わる。戸惑いの果てに、ごく当たり前のことに気づいたに過ぎない。しかもシェア別に見れば、記載順とは全くの逆で、トップメーカーはコイケ、住友金属鉱山と山寿セラミックスがほぼ同等で、信越化学工業が追随する。

 また、半導体業界ではスポットが当たらなくなった、単結晶引き上げ用のルツボメーカーも健在であった。市場では田中貴金属工業と資本業務提携を締結した、フルヤ金属が圧倒的な強さを持つ。そして、同じく日系の石福金属興業がフルヤ金属を追随する。


ウエハー市場は150億~200億円規模

 2015年3月25日付で、住友金属鉱山はLN/LTウエハーの生産を増強すると発表した。同社100%子会社の住鉱国富電子(北海道岩内郡共和町)、青梅事業所(東京都青梅市)の生産能力強化に加え、約40億円を投資し、同じく100%子会社の大口電子(鹿児島県伊佐市)の生産能力も強化。増強工事は16年10月に完了し、月産21万枚体制から同30万枚体制に引き上げる。

 LN/LTウエハー市場における、住友金属鉱山のシェアは25%前後と推定。同社の増産計画をベースにすれば、4社合計のウエハー供給能力は、月産で約120万枚規模に達することになる。これは数字の魔法で、実マーケットで流通しているウエハー枚数は、その4分の1程度。月あたり25万~30万枚レベルと推測する。

 供給されるウエハーサイズは、4インチと6インチがある。半導体製造用のシリコンウエハーは、8インチで単価がざっくり5000円。300mmで同じく1万円。それぞれのウエハーが持つ付加価値の違いから、シリコンの8インチ価格がLN/LTウエハーの4インチに相当、300mmが6インチに相当すると推測する。市場の主力サイズは4インチである。

 ウエハーの大口径化は、半導体用途でも、SAWフィルター用途でも、狙いは同じ。1枚のウエハーから取得チップ数が増えれば増えるほど、チップ1個あたりの生産コストは抑制され、その分、マージンが増える。しかもチップサイズは小型化され、機能もアップ。当然、6インチウエハー導入が加速されそうな雰囲気だが、実情は雰囲気だけ。LN/LTウエハーは脆弱で割れやすく、ハンドリングも難儀する。SAWフィルターの生産ラインは90%、4インチがここしばらく制すことになるであろう。このため、LN/LTウエハーの市場規模は月あたり12.5億~15億円、年間で150億~200億円と推測する。

SAWフィル市場は6000億~7000億円規模

 4インチが生産ラインの主流を維持する理由は、もう1つある。それはSAWフィルターのデバイス特性に起因する。

 SAWフィルターの日本語表記は、弾性表面波フィルター。その名称が示唆するとおり、電気信号は入力側の配線層を伝わり、今度は基板上を表面波として伝播し、所望の周波数をフィルタリング。その後、出力側の配線層を伝わり、アンプに電気信号が送られる。つまり、ウエハー基板は振動するのである。硬質の半導体用シリコンウエハーと違い、LN/LTウエハーは伸びたり縮んだりする基板なのである。

 このため、6インチウエハーを導入しても、チップ取得数が半導体のように、倍増することはない。ウエハーエッジ領域はデバイス製造が良好でなく、ウエハー中央部のみで良品を確保することになる。6インチウエハー導入の利点を見出すことができない。

 SAWフィルターは小型化と低コスト化、この2つが足並みを揃えて進展中だ。現在、SAWフィルターのベアチップサイズは1mm角以下。4インチLN/LTウエハーから約1万~2万個が取得できる。
 流通ウエハー枚数が月あたり約25万枚強なので、チップ生産数量は単純計算で、同50億~60億個。同じく×12カ月で、年間ベースでは600億~700億個が供給されていることになる。これも数字の魔法で、実個数はもう少し少ないであろう。

 価格は、低価格志向が続く量産ベース換算で、1個あたり十数円。トータル市場で6000億~7000億円規模で流通していると推定する。主要プレーヤーは村田製作所を筆頭に、TDKと太陽誘電が肩を並べ、京セラ、日本電波工業、新日本無線、米スカイワークス・ソリューションズなどが続く。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 松下晋司

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