電子デバイス産業新聞(旧半導体産業新聞)
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第129回

2015年の中国デバイス業界10大ニュース


中国は「爆買い」でハイエンドシフト加速! ~清華紫光による米台企業の買い漁り

2016/1/15

上海支局長が選ぶ「中国デバイス業界10大ニュース」

 2015年のエレクトロニクス業界を振り返ると、2桁成長で右肩上がりしてきたスマートフォン(スマホ)の販売が先進国で停滞し、これまでの「万能神話」に陰りが見え始めた「減速」の年だったのではないか。日本では大手家電メーカーの経営難が改めて浮き彫りになり、将来的な明るい話題が乏しい一年だった。その一方で、中国では15年後半に中国政府主導のIC産業ファンドや、これを背景とする清華紫光グループによる海外企業の買収報道が毎月飛び出して、大きな注目を集めた。



第1位 清華紫光グループによる「爆買い」


 このニュースは、電子デバイス産業新聞本紙の2015年末号の1面トップに掲載された10大ニュースでも第1位に選ばれた。中国の新たな時代の到来を感じさせる動きだった。7月のマイクロン買収の提案後、9月にストレージの米WDを38億ドル(約4578億円)で、10月に台湾OSATのパワーテックを194億台湾ドル(約711億円)で買収すると発表。ASEによる敵対的買収を警戒しているスピルをも買収しようと交渉を進めている。中国企業では、身分証ICカードのファブレスの同方国芯を70億元(約1300億円)で買収し、DRAMファブレスのシノチップ(華芯半導体)の買収手続きも進めている。16年も業界関係者の度肝を抜くようなニュースを発表することだろう。

第2位 中国、エコカー市場と生産で世界最大に!

中国で最も売れているエコカー、BYDのPHV「秦」
中国で最も売れているエコカー、BYDのPHV「秦」
 中国政府はPM2.5やCO2削減などの環境対策のためにエコカー補助金を大量導入し、その結果、中国で電気自動車(EV)などのエコカー普及が急拡大した。中国製エコカーを日本で見かけることがほぼないのであまり認知されていないが、6月にはBYD(比亜迪汽車、広東省深セン市)が米テスラを抜いてエコカー販売で世界最高を記録。15年の年間生産と販売台数は20万台(前年比3倍弱増)を超え、米国を追い抜いて世界トップに躍り出た。BYDはプラグイン式ハイブリッド車(PHV)が得意で、セダンの「秦」やSUV(スポーツ仕様の多目的乗用車)タイプの「唐」と「宋」を発売し、上海の街中でもよく見かけるようになった。

第3位 スマホ市場が1桁成長に鈍化、決戦の舞台はインド市場へ

 15年の世界スマホ市場は、前年の12.8億台から14.3億台へと1.5億台に増加した。それにもかかわらず、業界内ではスマホ市場の停滞ぶりを嘆く人が多かった。15年の世界全体の成長率は約9%(初めての1桁台)に落ちたが、新規需要を抱える新興国が2桁成長を続けた。普及が進んだ先進国市場が伸びないのは分かっていたが、世界のスマホ販売の3分の1を占める中国市場が、14年の20%増から15年はゼロ成長に失速したことも業界に波紋を呼んだ。
 16年の世界スマホ市場は前年比7%増の15億台、中国市場はほぼ横ばいの4.5億台と予測されている。世界全体ではまだ1億台の増加が見込めるものの、その大半はインドなどの新興国市場に限られる。中国メーカーやEMSメーカーなどは、インドにスマホ工場を建設する動きを活発化している。ファーウェイはマハラシュトラ州にR&Dセンターを設置。フォックスコンはアンドラプラデシュ州にEMS工場を建設し、シャオミーやジオニーのスマホ生産を予定している。

第4位 SMICの28nmAPが何とか量産開始

SMICがクアルコムから受託した28nm対応のAP
SMICがクアルコムから受託した28nm対応のAP
 中国のファンドリー最大手のSMIC(中芯国際集成電路制造、上海市)は8月中旬、28nmノード対応でポリシリコンゲート(Poly/SiON、HLP)プロセスを採用したスマホ用アプリケーションプロセッサー(AP)「Snapdragon410」(4コア、1.4GHz)をクアルコムに供給し始めた。14年から試作を重ね、14年末に開発に成功したと発表したものの歩留まりが安定せず、遅れていた量産がやっとスタートした。しかし、生産開始当初は量産歩留まりが低く、3倍のウエハー投入で何とか生産を始める格好となった。16年には安定生産できるようになるもようだ。
 中国政府の半導体産業発展ロードマップには「15年に28nmの量産達成」が明記されていたが、SMICの量産開始により商業ベースでの28nmの供給が実際に可能になった。

第5位 JCET(長電科技)のSTATSチップパック買収

中国最大手のOSATの長電科技
中国最大手のOSATの長電科技
 中国OSAT(半導体組立検査受託会社)のJCET(長電科技、江蘇省江陰市)は、約10.25億シンガポールドル(約872億円)でシンガポールOSATのSTATSチップパックを買収した。JCETは中国IC産業ファンドの資金支援を受けて、自社よりも事業規模の大きいSTATSチップパックを呑み込んだ。これにも中国政府主導のIC産業ファンドの資金支援が使われた。中国OSAT各社はこれまで、スマホ向けICに主眼を置いたフリップチップやバンピング、ウエハーレベルパッケージ(WLP)技術を開発してきたが、JCETはSTATSチップパックの買収により、これらの技術を取り込んで開発期間を短縮することができた。
 買収したSTATSチップパックの上海工場は、2年後に市政府の都市開発により立ち退きしなければならない。2年以内にJCETのマザー工場(江蘇省江陰市)に生産設備を移管する予定で、多くのエンジニアが遠隔地への転勤を嫌がって南通富士通に転職してしまう騒動も起きた。

第6位 リードコア&南通富士通がスマホ用AP製造

 中国の大手OSATの南通富士通微電子(江蘇省南通市)は4月末、28nmノードで設計されたスマホ用APの組立・検査を開始した。シャオミー(小米科技、北京市)の低価格スマホ「レッドミー(紅米)2A」に同製品が搭載されている。南通富士通が生産を始めたのは、中国ファブレスのリードコア(聯新科技、上海市)製のAP「L1860C」(4コア)で、このAPは28nmノードを採用したハイシリコン(海思半導体)に次ぐ国産第2号のAPだ。
 チップ製造工程は今のところTSMCに委託しているが、将来的にはリードコアの親会社でSMICにも出資している大唐電信の肝入りでSMICに生産委託されることが考えられる。そうすると、IC設計からチップ製造、組立・検査までを中国企業が一貫するようになり、台湾企業が警戒する「赤いサプライチェーン」が確立されることになる。

第7位 液晶パネル工場投資がさらに拡大

 15年は足元では液晶パネルの価格下落と需要減が懸念されているにもかかわらず、中国では依然としてパネル工場投資の新計画の発表が相次いだ。スマホ用をターゲットとした6G工場の建設が始まり、BOE成都が16年10-12月に装置搬入、CSOT武漢が稼働、天馬微電子の武漢工場も4-6月に装置搬入を始める。過剰設備の心配が一番大きい8.5GでもHKCが重慶に工場を建設し、BOEは世界最大の10.5G工場を17年以降に立ち上げる予定だ。深刻な供給過剰につながりかねないという危険性をはらみつつ、16年もパネル工場の設備投資は継続していくもようだ。

第8位 中国の太陽電池市場が20GW超え

中国甘粛省のメガソーラー
中国甘粛省のメガソーラー
 中国政府は9月末、15年の中国の太陽光発電設備の導入量目標を23GWに拡大すると発表した。世界の太陽光発電設備導入量は57GWとみられ、中国が世界需要の40%を消費するようになった。中国政府は近年、大気汚染対策や欧米政府による中国製太陽電池パネルの反ダンピング課税を回避するため、中国国内の太陽光発電施設の建設を支援してきた。13年と14年に年間導入量が10GWを超え、15年は初めて20GWを超えた。今後の数年間は、毎年このくらいの規模で太陽光発電設備の導入が続いていくものと考えられる。

第9位 中国の国産サーバー比率が過半に

 中国政府はIoT(IT機器以外にも様々なモノがインターネットに接続)やビッグデータ時代を見越し、米国などの世界標準とは一線を画する中国独自の情報安全規格を確立しようとしている。その中核となるサーバーの国産化は国を挙げたビッグプロジェクトとなっている。14年にレノボがIBMのサーバー事業を買収し、中国政府は国有銀行に対して国産サーバーの使用を義務づける行政指導を出した。これにより15年はインスパー(浪潮)やスゴン(中科曙光)などの国産サーバーの生産が拡大し、中国市場における国産サーバー比率は過半を超えるまでに発展した。この巨大市場を狙い、清華紫光は米HPの中国工場を買収したり、インスパーが米シスコと合弁工場を建設するなど、新たな業界再編が進行し始めた。

第10位 「淘汰再編」&「大手寡占化」が各業界に波及

 中国は胡錦濤時代、08年のリーマンショック後の世界金融危機を4兆元(当時の換算レートで約60兆円)の公共投資で乗り越えた。しかし、この時の大型設備投資が仇となり、太陽電池やLED、シリコンウエハーやサファイアウエハーなどの業界で過剰設備が問題になり、経営破綻する企業が相次いだ。15年はこれらの業界の淘汰再編が終わるかと思われていたが、まだ完全には終わらなかった。

 電子機器の組立工場が集積する深センエリアでは中国スマホ市場の成長停止によって一気に生産過剰が顕在化し、中国ODM企業の倒産や1万人を超えるスマホ関連工場のリストラなどショッキングな事態が広がった。日本以上に資本主義と言われる中国では、成長時にはビジネスチャンスに殺到し、成熟し始めると競争に勝てなくなった企業が経営破綻するということが繰り返されている。16年も様々な業界で淘汰再編が続くだろう。

 このように、15年は中国政府が半導体産業に「本気モード」になった節目の年といえる。16年もICとエコカーの2分野が高い成長を続け、数年間は拡大路線が継続すると考えられる。(興味ある方は、昨年まとめた「2014年の中国デバイス業界ニュース TOP10」(http://www.sangyo-times.jp/article.aspx?ID=1342)もあわせてご覧下さい。)



電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

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